第14話 異能〈ギフト〉
跪く
「邪魔ヲシテ、スマナイナ」
「……
正体に察しがついたリリスは震える声で呟いた。
「
「
その身に纏う尋常ではない雰囲気に合点がいったイゼルは、ふととある疑問に気づく。
「あの……あなたは人間なんですか?」
「ガッガッガ。愉快ナ質問ダナ。ワタシヲミレバ、人カマモノカハ一目瞭然ダロウ?」
「なら、あなたはどうして人の言葉が……」
以前、レーティアと初めて出会った時。彼女は魔物が人の言葉を話すことに、非常に驚いていたことを覚えていたイゼル。
もしかしたら目の前の
「ナニカ勘違イシテイルヨウダガ、ワタシハマモノダヨ」
「そう……ですか」
どこか残念そうに項垂れるイゼルが気になったのか、
「オマエハマダ駆ケ出シダロウ? ソッチノ2人ハダメダガ、オマエハ見逃ソウ。大人シク町ヘ帰レ」
「な?!」 「……?!」
突拍子もない発言に、レーティアとリリスは目を見開く。
目の前に佇んでいるだけ。ただそれだけのことなのに、その実力の一端を感じ取ってしまっている彼女たちは、たとえ3人がかりでかかろうとも勝てないであろうことを悟っていた。そんな相手が、なぜかイゼルだけは助けてやろうと言っている。
魔物を信じるなど言語道断ではあるが、この状況下でイゼルが生き残れる確立が最も高いのは、倒すべき敵の言葉を信じることであるのも確か。だからこそ、判断がつかない。
強く目を閉じると、覚悟を決めたレーティアはちらりとリリスに視線を移す。その覚悟を読み取ったリリスは、言葉には出さないがそれでいいと思いを込めて優しく微笑むと、こくりと頷いた。
「イゼル、早くここから――」
「僕1人だけということなら、受け入れられません。ありがとうございます、ごめんなさい」
レーティアの言葉を遮るようにイゼルが口を開くと、
「なぜだ! 助かる可能性があるなら、それに賭けるべきだ!!」
「僕1人だけ助かりたくなんてありませんし、それに……」
「……それに?」
「こんなでも、僕は男ですから」
真面目な顔で言い放ったイゼル。
リリスはレーティアの肩に手を置くと、ゆっくりと首を横に振った。
「……少年――ううん、イゼルはわたしたちを絶対に置いていかない。折れない」
「ばかもんが……」
嬉しそうにも、切なそうにも見える表情でそう呟くと、
「ガッガッガ。イラヌ世話ダッタヨウダナ。……オマエ達、総出デアノ2人ノ相手ヲシテイロ」
背後に控えていた2体は命令を聞くと、一礼して動き出す。
隻腕の
臨戦態勢に入る3人だったが、
到底届かない距離にもかかわらず、振られた腕は3人の
攻撃こそ当たりはしなかったものの、イゼルと分断される形になった2人。そこへ合流させまいとするように、オークキング2体と部下たちが群がった。
「どういうつもりだ、
「ガッガッガ。ナニ、少シコノ少年ニ興味ガ湧イタカラ話ガシタクテナ。手荒ナ真似ハシナイ、シバラクソイツラト遊ンデテクレ」
レーティアの質問に答えた
「イクツカ、聞キタイ事ガアル」
「なん……でしょうか」
ちらりとレーティアたちを見たイゼルは、自身のやるべきことを自覚。
恐る恐るオークエンペラーを見上げると、視線を合わせた。
「少年ハ、冒険者ニナッテドレクライダ?」
「一ヶ月と少しです」
「実ハ、少年タチノ戦闘ヲ一部始終見テイタ。アレハ、トテモ駆ケ出シノ
「僕は、僕に出来ることを考え、必死になっていただけで……」
「ソウカ……」
じっとイゼルを見つめたまま何かを考え込んでいた
「先ホド、ジェネラルニ化ケテイタナ? アレハ能力モ真似ルノカ?」
「いいえ、見た目だけです」
「ナルホドナ。
「あの!」
背を向けようとした
「……ナンダ?」
「あなたは、一体
「……ドウイウ事ダ?」
一瞬ピクリと眉をひそめると、睨みつけるようにイゼルに視線を戻す。
「魔物の中には冒険者の持つ武器に興味を示すものはいても、道具に興味を示すものはいないと教わりました。でも、この森の魔物――おそらく
「……」
無言で先を促す
「最初に違和感を覚えたのは、
「面白イ推理ダナ。ソレデ?」
「これだけ大規模な軍勢がいれば、街に攻め込むことも可能なはずです。でもそうはせず、森にとどまっている。かといって、大人しくしているわけでもない。何かを待っているか探していると考えるのが妥当です」
◇
「くそっ! 斬っても斬ってもキリがない!」
レーティアは的確に首をはねて数を減らそうと試みるが、倒しても倒しても次から次へと群がる
部下を盾にしながら
物量に圧倒され、徐々にイゼルとの距離が開いていく。
「……覚悟が遅れてごめん。もう大丈夫」
「リリス、早まるな!
「……ううん。わたしにとっても、イゼルはこの身に代えても守りたい人間になった」
リリスが両腕に着けていた腕輪を外すと、両耳は長く伸び、瞳の色が黒へと変わる。
周囲の木々が、まるで彼女の存在を喜ぶように淡い緑色に輝いた。
森の民――エルフ。リリスが隠し通していた、真の姿。
「……『
リリスが
それぞれが左手に持った短剣で急所を狙い、
息を大きく吐き出したレーティアは、好機を逃すまいと
「『
目で追えない速度で抜刀され、何度も振られた刀はいくつもの剣閃を生み出した。両腕、両足を何箇所も斬られた
異常に気付いた隻腕の
「『
「フゴォオオオオオオ!!!」
ついに残り1体となってしまった隻腕の
「ここまで減らせば……!」
レーティアはリリスに目で合図を送ると、イゼルの
2人を取り囲んでいた
イゼルに近づくにつれ、
「――何かを待っているか探していると考えるのが妥当です」
「……ギルド直属の調査員、その長だけが携帯する魔道具、
答えをリリスが呟くと、
「ガッガッガッガッガ! ソウカ、知ッテイルトイウコトハ、オ前ハ関係者ダナ?」
満足そうに笑うと、周囲を見渡し状況を確認。壊滅的と言えるほどの打撃を受けているにもかかわらず、余裕そうに視線を戻した。
「面白イ。コンナニ心ガ昂ブルノハ初メテダ。コノ
空間に穴を開け腕だけ通すと何かに吸い込まれたように通した部分だけが消え、少し離れた場所に突き立ててあった武器――
「やはり『
レーティアは目の前で行使された力を見て、ばらけていたピースがはまった。
『
「サァ、存分ニ戦オウ。オ前タチ、邪魔ヲスルナヨ」
追撃をかけようと迫っていたほかの
ガラリと豹変した雰囲気は、肌を突き刺すようなプレッシャーを放つ。
「いくぞ、生きて帰るために!」
「はい!」
「……うん!」
レーティアが先陣切って飛び出し刀を振るうと、真っ向から受け止めるオークエンペラー。
リリスは距離を取りながら、腰のマジックバックから短剣を取り出して関節部や急所目掛けて投擲していく。イゼルは周囲の敵に、目を光らせた。
攻撃も防御も、全てにおいて3人を勝るオークエンペラーは、レーティアの攻撃も難なく受け止め、リリスの放つ短剣も鎧で弾いていく。それでも諦めずに向かってくる姿に、高揚を抑えきれない。
「ガッガッガ! 我慢デキン、ペースヲ上ゲルゾ! モット楽シマセテクレ!!」
よりどう猛な気配を纏い、卓越した技術と圧倒的な力をもって、攻撃に移るオークエンペラー。
片腕で横薙ぎに振られたグレートバルディッシュは、易々と大木を両断してみせた―――。
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