第79話



 ずっと隣にいた。

 離れている時間もあったけど、心は隣にあった。

 いつから好きだったのかなんて分からないぐらい、『渚を好きになること』が自然なことのように思えた。

 渚と過ごす時間はとても穏やかで。

 心地良くて。

 安心できるものだった。

 渚との日々は、全部が私の宝物だ。


 扉が開く。目の前にいる母に向かって少しだけ身体を下げ、ベールを下げてもらう。顔を上げると母はニッコリと微笑んでくれた。そしてゆっくりと、父の隣に並び、バージンロードを歩く。周りから拍手や「おめでとう」という言葉が聞こえる。1人1人にありがとうと言ってまわりたい気持ちだ。


 真っ直ぐ進んだ先にいるのは最愛の人。


 父の腕から手を離し、渚の隣へ。


 今日は私と渚の結婚式だ。プロポーズから半年後の9月2日。私と渚の誕生日に入籍を済ませ、それから約1年を経て、私達は結婚式を行うことができた。


「新郎渚、あなたはここにいる梓を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「はい、誓います」

「新婦梓、あなたはここにいる渚を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「はい…誓います」


 誓いの言葉を済ませ、指輪の交換をし、静かにベールが上げられる。渚を見ると穏やかに微笑んでくれた。


 そして、ソッとキスをされた。周りからは拍手や「おめでとう」という言葉が注がれたが、私の世界には渚しかいないような感覚だった。


 キスをする時は、渚は少し屈む。私と背が変わらなかった渚はもういない。

 出会ってから10年の月日は私と渚の様々なことを変えた。


 それは渚の身長だったり。

 それは遼しか見えていなかった私の世界だったり。

 環境も気持ちも変え、それでも私の中の渚が好きだという気持ちは変わらない。


 たくさんの思い出が、今の私達を作っている。


 今まで私達を見守ってくれた、家族や友人達に囲まれ、私達は永遠を誓った。自分の事のように、泣いて喜んでくれる大切な人達。その人達がいたから、今こうしてここにいられる。

 この先、何があっても、渚と周りの皆がいれば大丈夫だと思える。それだけ大切に思える存在に出会えたことが、何よりの幸せだ。





 私の隣は、渚の場所。


 きみのとなりはー…私の場所。



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