第77話
『一緒に暮らしたい』と私の親に頼みに行ったら、『せめて成人してからにしなさい』と言われ、契約更新がある2年生の終わりまでは一人暮らしすることになった。その間、坂下さんと渚は鉢合わせることはあったみたいだが、挨拶以外特に会話はしていない。もう気にしていないから、いいよと言ったけれど、『特に会話する必要がない』らしい。私は、たまに学食でお昼を一緒したり、夜作りすぎたご飯を持って行ったり、それなりに仲良くしている。呼び方も『坂下さん』から『麻美ちゃん』になる程度には。
一緒に暮らすための部屋を見に行ったり、引っ越し費用を貯めるためにバイトを増やしたり、大学も2年になるとレポートが増えてきたり、忙しく過ごしている内にあっという間に1年半が過ぎ、2人の生活が始まった。
渚との生活は穏やかなもので、心配していたようなことは何もなかった。喧嘩をするなんてこともほとんどなく、たまに喧嘩をしてもすぐに仲直りできた。渚と過ごす日々は、20年生きてきた中で1番幸福な時間だと思った。この、めまいがするような甘く幸せな時が永遠に続くといいと思いながら、日々を過ごした。
「梓、渚。久しぶりだな」
「遼、久しぶり」
大学を卒業して、3年が経とうとしていた。私と渚は遼と香織の新居へと遊びに来た。インターフォンを鳴らすと、遼が出迎えてくれる。
「梓とナギちゃん来たのー?」
奥の部屋から香織の声と、小さな笑い声が聞こえてくる。部屋に上げてもらうと赤ちゃんを抱っこする香織がいた。
「香織〜、おめでとう。
「ありがとう〜。夜泣きばっかりして大変だよ〜」
香織と遼は、何度も別れたりヨリを戻したりを繰り返していたが、香織の妊娠が判明し、入籍した。2人の間に生まれた翔君は3ヶ月になったところだという。抱っこさせてもらうと、ふわりと軽くとても可愛かった。
「はぁぁぁぁ〜可愛い〜」
抱っこしてあやすとキャッキャッと声をあげて笑ってくれる翔君を見てこちらも自然と笑顔になる。
「家でも翔君の写真や動画見てずっと可愛い可愛い言ってるよ、うるさいぐらい」
「だって香織と遼の子どもだよ!?これはもう甥っ子みたいなものでしょう!?」
そう力説すると3人は呆れたように笑った。その内翔君は香織の腕の中でスヤスヤと眠りベッドに寝かされた。その姿を見ていると不思議な感じがする。
「香織と遼が親になるってなんか変な感じだね」
「想像もしなかったな」
「子どもができたって聞いた時は驚いたなぁ」
「私達自身が驚いてたもんね」
こうして4人で話すのは数年ぶりだというのにすごく自然に話せている。
「絶対梓の方が早く結婚すると思ってたよ。2人は結婚しないの?」
香織の質問に私は渚をチラッと見る。
「渚大学院行ったからまだ就職して1年目だしね」
「そうだねぇ。まぁ、その内?」
「一緒に住んで長いから、今更だしね」
私と渚の返事に香織はどこか不満気だったが、「2人がいいならそれでいいけど〜」とそれ以上触れることはなかった。赤ちゃんがいる家にあまり長居するのも申し訳ないので、久しぶりの再会だったが、私達は早めに帰ることにした。また遊びに来るねと約束をして。
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