総力戦



「ちょ、ちょっと義兄さん! まだやる気!?」

「今さら逃げられるかよ! 突撃だ!」



 戦況はそれほど良くない。

 むしろ二、三回連続で攻撃を食らえば死者が出るような状態で。よくもまあここまでやれたと感心するほどだ。


 迫撃砲やら戦車をメイン火力にダメージを与えてきたが、第二段階に入ると同時に兵器類はほぼ壊れた。

 魔王にもそれなりの知性があるようで、攻撃力の高い車両から狙われたのだ。



「ここから先は肉弾戦だ!」

「ちょっと待てアラン! 魔物がこっちに来てるぞ!」

「何ぃ!?」



 原作では連戦が終われば魔王と一騎打ちになるのだが、現実問題、大将が討たれそうになればそれは対処してくるだろう。


 変なところでハードモードなことを確認しつつ――前線指揮官と化した俺が指示を飛ばすことになった。



「グラスパー伯爵は向かって右! ガウルたちは左を抑えてくれ!」

「承知した!」

「近衛騎士に命令するとは、偉くなったモンだなオイ!」



 まずは、この場にいてはいけないモブ騎士の二人を戦線から外す。

 戦力的にはツートップだったが、これはもう仕方がない。

 むしろここまでよく戦ってくれた。


 そして残ったのはメインメンバー。

 乙女ゲーム本編の攻略対象たちと、ヒロインと――悪役令嬢だ。



「さあ、いくわよっ!」

「あ」



 あらゆる意味で一番この場に居てはいけないお嬢様が特攻し、第二幕が上がった。

 モブは排除したのだから、もう彼女の参戦だけは許してほしい。


 いや、八人パーティな時点でおかしいのだが。

 まあいい。細かいことは後で考えればいい。


 戦車を犠牲にして、第一形態を難なく突破できたのはラッキーだった。

 しかし、ここからは純粋な実力勝負。

 あとは殴り合いで、魔王の第二形態と第三形態を何とかしなければいけない。



「あの日と同じフォーメーションで行くぞ! ハルとラルフは前衛!」

「ああ、行こうラルフ」

「おう! 全員俺が守り通してやるぜ!」



 攻略対象殴り合い事件の時と同じ陣形で行く。

 その時からすれば二人、人員が増えているのだが。



「ついでに、リーゼロッテとメリルも前衛」

「やってやるわ!」

「おう。もう、ここまで来たらやっちまえ!」



 最終決戦の舞台から、最大戦力のモブキャラを排除しただけで褒めて欲しい。

 この悪役令嬢イレギュラー参戦だけは許してほしいと願えば。



「ねえアラン。私、後方じゃダメ?」

「ダメだ。ラルフとメリルは最前線」

「うえぇ……まあ、やるしかない、わよね」



 全長三百メートルの怪物を相手に矢面に立たせるのは気が引けるが。

 アイテムがぶ飲みでステータスマックスのメリルが主力になってくれなければ、勝てるものも勝てない。


 渋々飛び出した彼女も見送り、次だ。



「クリスは俺と一緒に援護射撃! パトリックは支援魔法を切らすな!」

「お任せ下さい、アラン様!」

「いいよ、やるよ。もう……」



 研究者組も加わり、何とか第二ラウンドの体裁は整った。


 しかし相手は最大レベルすら突破した化物だ。


 宙に浮いた重力球のようなものから一斉射撃が始まり、戦闘開始から十分で周囲の地形が変わるほどの爆撃を受けた。


 紫色のレーザーのようなものや、各種魔法まで乱れ撃たれている。



「リーゼ嬢! 俺の後ろに入れ!」

「おっけー! お願い!」

「アラン、僕の後ろに!」



 時折大技が飛んでくるが、そこはチームプレーでカバーだ。


 前衛同士で庇い合い、後衛へのフォローも切らさず。

 後衛組も最大の支援をした。


 が、相手は高層ビルのような身体だ。

 攻撃が効いているのか効いていないのかが、さっぱり分からない。



「クッソ、硬いなこいつ!」

「うわっ、触手!? ちょ、や、やめ! ああ、服が脱げる!」

「野郎、何しやがる!」



 メリルがそこら辺から生えてきた触手に絡めとられて、あられもない姿になっているのを見たラルフが支援へ向かおうとした時。


 それを読んでいたかのように、彼の背後から火球が飛んできた。



「ラルフ、避けろ!」

「えっ――なッ!?」



 ラルフの実力では、当たれば間違い無く死ぬ威力だ。

 しかし他のメンバーも手一杯。


 全員が彼の方を向いて動きを止めれば――この上無くいいタイミングで、最後の一人がやって来た。



「面白そうだな、俺も混ぜろ」



 黒髪の男が馬から飛び降り。

 空中で火球を斬り裂いてから、メリルを襲う触手もバラバラに引き裂いた。



「また俺がいないところで楽しんでいたようだが」

「これが楽しそうに見えるなら、お前は間違いなく陛下の子だよ」



 そう、現れたのは、肝心なところからいつも外されてきたツンデレ王子。

 もとい、ツンデレ公爵だ。



「……ふっ、そうか。まあいい。頭を下げるなら手を貸してやっても――」

「サージェスは前衛だ! 突っ込め!」



 よくよく考えれば原作のサージェスは、敵のレベルが高いほど攻撃力が上がる性能をしていた。

 兵力でぶっ叩くことばかり考えていたが。

 彼の防御力が紙装甲だとしても、後方支援すれば魔王を倒せるのではないか。


 そう思い。

 俺は公爵閣下へ向けて、遠慮なく。

 一切の迷いなく突撃を命じた。



「貴様……まあいい、そこで見ていろ。貸しはきっちりと取り立てるからな」

「言ってる場合か! 生き残ってから考えろ!」



 こうして悪役令嬢とメインヒロイン。

 そして全攻略対象が集結した。

 

 ただ一人、隠しキャラだけいないわけだが。



「考えても仕方がねぇ、野郎ども! やっちまえ!!」



 そういうわけで、俺たちの最後の戦いは続いた。





― ― ― ― ― ― ― ― ― 


 皆さん、いよいよお別れです。


 迫り来る魔物の群れを前に、王国を守る貴族連合は大ピンチ!

 しかも最終形態へ姿を変えた魔王が、アランに襲い掛かるではありませんか。

 果たして、全世界の運命やいかに!


 次回。やっちまえ! お嬢様!! EXTRA GAME最終回。


 「国王陛下大勝利、希望の未来へレディ・ゴーッ!!」


 果たしてアランたちは、この戦いに勝てるのか(白目)


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