やっちまえ! お嬢様!! ~転生して悪役令嬢になった当家のお嬢様が最強の格闘家を目指し始めてしまったので、執事の俺が色々となんとかしなければいけないそうです~
第百三十三話 力のメリルと技のリーゼロッテ
第百三十三話 力のメリルと技のリーゼロッテ
この決闘は格闘技。純粋な殴り合いで、もちろん完全にリーゼロッテの土俵だ。
体力バカのリーゼロッテに挑むくらいだから、メリルにも何か策があるのだろうとは思った。
蓋を開けてみれば――恐らくメリルの体力パラメータは最大値に近く、スペックではリーゼロッテを上回るかもしれない。
何をどうやったのかは知らないが、尋常ではないトレーニングをしてきたようで。身体能力ではメリル、技の数と精度ではリーゼロッテという勝負になっていた。
技のバリエーションの少なさを見るに、メリルの方はレベルを上げ切らないまま、アイテムでドーピングしたような印象なのだが。いつの間にそんなことをしていたのだろうか。
「意外といい勝負だな」
「そうですね、アラン様。打撃では互角といったところでしょうか」
「……装備なしでよくもまあ、あそこまで派手に動けるね」
まずは序盤から、激しい打撃の応酬だ。
この決闘は一応原作のターン制バトルになぞらえているので、交互に攻撃することが自然なプロレスとは相性が良かったのかもしれない。
ビンタ、エルボー、掌底と、貴族令嬢二人が真っ向から殴り合っている。……VIP席の観客は一部引いているとして、大多数の観客と騎士団関係者は大盛り上がりだ。
ラルフは騎士団で格闘技を学んできただけあり、リーゼロッテが布教したプロレス技にも詳しい。
だから、どちらかが技を決める度に、大声で技名が読み上げられていた。
「おおっと、ここでメリル!
619は鉄棒で言うところの大車輪。その横バージョンだろうか。
メリルはトップロープとセカンドロープを掴み、くるりと回転してリーゼロッテの顔面を蹴り飛ばしていく。
リーゼロッテはガードしたものの、身体はロープ際からリング中央側へ転がった。
そしてメリルは追撃に入る。
ポストに登ると身体を小さく折りたたみ、高い位置から両足を揃えて――またしてもリーゼロッテの顔面を狙い、ミサイルキックをかます。
全力で顔面を狙うところに執念を感じて、恐ろしくもあるのだが。
「あれ? ターン制は……いや、
戦いを見ていると、今度はリーゼロッテが反撃にラリアットを狙うが。
それは避けられて、背後に回ったメリルはジャーマンスープレックスを仕掛けた。
「復讐のジャーマンスープレックスが決まったーッ! 入学式のお返しかぁ!」
それを言ったら実況のラルフにもジャーマンをかましそうなのだが。ラルフの口上はさておきだ。
プロレスなのにノックアウト制という謎ルールなので。ふらついたリーゼロッテを徹底的にぶちのめそうと、メリルは再び追撃をかけようとした。
が、しかし。もちろんあのお嬢様がここで終わるわけがなかった。
勢いを付けて迫るメリルに対し、今度はリーゼロッテのカウンターが入る。
「あ、ちょ……!」
「行くわよ! ……オラァッ!!」
態勢を低くしたリーゼロッテが股下に頭を突っ込み、メリルを抱え上げた。背中からマットに叩きつける、バックドロップに移行するかと思いきや。
メリルの頭を垂直にマットに叩きつける態勢に入り――その途中に太ももを割り込ませて、己の足にメリルの後頭部を叩きつけた。
「リバースネックブリーカー! リーゼロッテも大技だ!!」
実況のラルフはもう、彼自身が興奮してガッツポーズを繰り返しているのだが。確かに派手な技の応酬で見ごたえはある。
すぐに態勢を立て直したメリルがビンタを見舞うも、リーゼロッテは反撃に、顔面へ前蹴りだ。
負けずに掌底アッパーで打ち返したメリルだが、もう一度飛んできた前蹴りでダウンした。
「もう一発、いこうかしら!」
「こ、の……! 食らいなさい!」
「おん、どりゃああ!」
「あがっ!? 痛っ、たぁ!」
素早く立ち直ったメリルが牽制にラリアットを繰り出したが、リーゼロッテは伸びてきた腕に頭突きをかました。
今の攻防では、どうやらメリルの方が大ダメージを食らったようなのだが。
「あー。何かあったな、そういうカウンター系のスキル。どう処理されてんのかな?」
「何をブツブツ言ってるのさ義兄さん……あっ、決まった!」
肘を抑えて
受け身も取れずに後頭部から落ちたのだが。あれはクリティカルヒットとかになるのだろうか。
メリルがダウンして、やり返してこないところを見て。リーゼロッテはまたしても先ほどのように、リバースネックブリーカーをぶちかましていく。
「決まった! 連続の大技! さあ、大きな動きがありましたが。いかがでしょうか、解説の国王陛下!」
「うむ。リーゼロッテが鍛錬を重ねてきたことは知っているが、メリルも中々のものだ。特に追撃への思い切りの良さは、新人の騎士にも見習わせたい」
「えっ」
特設の椅子に座っていたはずの陛下こと「東方の武神」が、いつの間にか解説席にいた。
いつの間に移動したのかは知らないが。何食わぬ顔で、ごく普通に、当然のような態度で二人の批評をしている。
「へ、陛下が決闘の解説役とか……あー、もう!」
「本当に台本通りに行かないね……」
これ、本格的に終わったんじゃないか。
などと思いながら、それでも状況は流れる。
絶望する俺をよそに、二人の決闘は終盤に差し掛かっていた。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
次回、決着。
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