閑話 人物紹介②



 レオリア・フォン・アルグランツ・アイゼンクラッド


 アイゼンクラッド王国の現国王。

 夕暮れのような色の髪と、同じ色でボリュームのある髭を貯えている。眼光は鋭く、気の弱い人間が目の前に立てば卒倒するほどの威圧感を持つ男。


 大陸東部の一国家であったアイゼンクラッド王国を、東部の覇者にまで押し上げた名君。

 戦上手で知られるが、本人の戦闘能力も化け物じみており、国内どころか大陸でも有数の実力者。王国内で彼に少しでも対抗できるのは、ガウルか北部の某武闘派伯爵くらいのもの。


 戦場では身の丈を超えるほど大きな槍を振るい、常に最前線で戦う。国王が先頭になって戦うため王国兵の士気は高く、戦に勝てるのはそれが一因でもある。


 退屈を嫌い常に刺激を求めているので、からかい甲斐のあるアランの動向には注目している。

 息子の側近に据えるか自分の側近に鍛え上げるか悩んでいるが、いずれにせよ手元に置いておくことは決定しており、ロックオンされたアランがこの先どうなるのかは雲行きが怪しかったりもする。


 過去には学生時代のアルバートと共に、気に入らない貴族の家を訪問して襲撃……もとい、世直しの旅をしていた時期がある。

 その途中で出会った女性たちと結婚して、二児の父になる。


 現在では妻たちと死別しており、俗に言うシングルファーザーとしてエールハルトとサージェスの二人を育てた。

 ただし、教育に関してはお世辞にも上手とは言えず、兄弟間、親子間共に溝ができているのが現状。

 アランはエールハルトと自分の、共通の友人・・・・・になろうとしているので、その点でも彼に期待をしている。



「ま、待て! この悪ガキめらがぁああ!」

「おや陛下。宰相が走って追ってきますよ」

「はっはっは。構わん。高度を上げて振り切れ」




 ガウル


 強面の護衛騎士。生まれた時から護衛を続けているため、エールハルトのことを実の息子のように思っている。

 が、その分最近の変化には、喜んでいいのか悲しんでいいのか迷っている。

 ある意味エドワードと似た境遇の男。


 忠誠心は高く、武力も近衛で随一。槍を主体にした各種武芸を修めており、火属性のみではあるものの、上級攻撃魔法まで扱える実力者。

 エールハルトのついでにリーゼロッテとアランにも武術を仕込み、次章で登場するラルフという少年にも熱心に指導をしている。


  沸点が低いところと顔面の厳つさから、アランからチンピラのようだと思われている。

 しかし実は子爵家の当主で、優秀な騎士を数多く輩出した由緒ある家柄の出。


 今年で三十四歳になり、そろそろ身を固めて家庭を持ちたいと考えているのだが。

 婚活の戦績は七戦七敗、七連敗中。運命の出会いはまだ先のようだ。



「人間は顔だ! 顔なんだよぉ!」

「どうしたんだガウル!?」




ちょび髭の文官


 いつでもつっけんどんな態度を崩さない、第一王子の付き人の一人。

 ちょび髭で少し目つきが悪い、中肉中背の男。

 男爵家の当主で、優秀な人材ではある。


 法律に明るく、適法な命令を適切に、淡々と処理をする仕事人。

 王家の命令であれば、どのような任務も完璧に遂行する忠義の男でもある。

 しかし、如何せん影が薄い。


 今後もちょいちょい登場する予定。

 次章ではアランの援護射撃を行う予定なのだが、それがアランの利益になるとは限らない。彼が行う行動は、全ては王族のためなのである。


 趣味は絵画鑑賞、特技は利き茶。



「…………」

「…………」



 アランと二人っきりになると、お互い一切喋らない無言の空間が生まれます。




黒須 信治郎 (クロス)


 無数にある並行世界を管理する神々の一人。

 黒髪黒目の典型的日本人顔。3980円で買った古着のスーツを着ており、目元にうっすらクマを作っている。


 役割は、物語の中でやらかした・・・・・人物を逮捕し、修正すること。

 自他共に認める社畜であり、作業を減らそうと頑張ってはいるものの。最近も墓穴を掘って仕事を増やしてしまった。


 西洋ファンタジーの世界ではクロスを名乗り、日本昔〇に出演するときは信治郎と名乗るなど、出張先の物語によって微妙に名乗りが変わる。


 今回はリーゼロッテの行動が、アウトとセーフの境界線上を反復横跳びしていることに業を煮やして現世に降臨した。

 アランからの「運動パラメータを鍛えている」という言い訳と、今までの行動が「物語の開始前に発生している」ことから暫くは観察することに決め、アランにはリーゼロッテの軌道修正を命じた。


 本人曰く戦闘力は低め。

 ただし、全身を細切れにされようが魂ごと消滅する技を食らおうが、対消滅エネルギーを浴びようが神を殺す武具で倒そうが、即座に復活する。

 勝つことは不可能だが攻撃力もそこそこしかないため、武神様や王国北部の某武闘派貴族と戦うと泥試合になる。


 何億何兆、何京回死のうと復活し続け、最終的にどんな相手にも勝利することから神界では「不滅の信治郎」という二つ名で呼ばれている。


 ……が、この世界で戦う予定はない。この戦闘能力はまったくの無駄。



「そんなに興味が無くてもさぁ、人が話題に出すと見たくなるものってあるよな……はあ…………」

「おーい、信の字、ラグビーのDVD見ないか?」




 香坂裁判長


 クロスの上司、口調に反して見た目は結構若い。

 黒い髪をロン毛にして、和風の軍服に学生帽という洒脱なファッションをしている。


 大の格闘技好きであり、覆面レスラー「グレート・ゼンノスケ」として、時折リングに上がる。

 フィニッシュホールドは「ゴッド・オブ・レッグ・スープレックス」という、変形フランケンシュタイナーとジャーマンスープレックスの中間のようなアクロバティックな技である。


 が、彼の登場シーンはもう回ってこないはず。この技が日の目を見ることは無いだろう。少なくとも今のところは再登場の予定はない。


 リーゼロッテの奇行について、「面白いから続行」という判断を下し、社畜の神様であるクロスの残業時間が更に伸びた。



「おお。あの嬢ちゃん。やるのう! 誘拐犯を相手にカナディアン・デストロイヤーとは!」

「あの、裁判長? プロレス鑑賞を目的に乙女ゲームの世界を覗くのはどうかと……」





 エドワード


 アルバート、その父、祖父と三代に渡って公爵家に仕えてきた、生粋の執事。

 その実直な仕事ぶりから信頼は厚く、アルバートからも右腕として扱われている。

 屋敷の留守を任されることもしばしばあり、公爵家の使用人たちを統率できる人物は彼以外にいない。


 妻との間に二人の子どもがおり、孫は三人いる。

 リーゼロッテが覚醒した際、今までとのギャップに付いていけず。また、ご令嬢らしからぬ奇怪不可思議な行動への理解も追いつかず、あえなく撃沈。


 基本的には子ども好きで穏やかな性格をしているが、初登場(第一話)のときには既にメンタルが崩壊しており、少しやさぐれ気味だった。

 アランの登場により彼の負担が減ったため、徐々に落ち着きを取り戻しつつある。


 アランに対しては、たまに王都の菓子屋でちょっといいお菓子を買い、餌付け……もとい、労を労っている。


 このままいくと不敬罪を食らう未来があったり、戦場に引っ張り出される未来があったりするのだが、大丈夫だろうか。

 そろそろ引退をと考えているが、リーゼロッテが結婚するまでは屋敷に残るつもりでいる。



「旦那様。そろそろ、春ですなぁ」

「そうだな。……たまには皆で、花見でもしようか」




 ケリー


 公爵家のベテラン執事。

 茶髪に茶色の目をした、ごくごく一般的なルックスの男。

 普段はキャロラインのお付きとなっており、リーゼロッテやアランとの関わりは薄い。


 とある男爵家の遠縁にあたり、結構いいところのお坊ちゃんとして育った。

 次男のため家督を継がず、実家からの推薦によって公爵家に仕え始める。

 現在三十六歳で、使用人として八年、執事としては十三年務めているベテラン。


 仕事では主に他家との調整を担当している。

 表向きの業務に携わっているため、夜会や立食パーティの席ではエドワードよりも有能だったりする男。

 内政はエドワード、外交はケリーという分け方。


 後輩のジョンソンに期待されているのはエドワードとの代替わりだが、彼はまだ未熟。アランは…………ということで、まだまだ気苦労は絶えない。


 第一子である長女が生まれたため、バリバリ仕事をこなそうと思っているのだが、あまりやる気を見せると対リーゼロッテの作戦に組み込まれてしまうため、匙加減に迷っている。

 ともあれ、リーゼロッテに対し思うところは無く、元気なお嬢様だなぁ。くらいの温度感。

 単純に、残業が増えると家族との時間が減るから嫌だと考えている。ライフワークバランス重視の人。



「子どもができると、公爵夫妻の気持ちも分かるな。あの子は我が家の天使だ!」




 ジョンソン


 屋敷の中でも随一の体格を持つ若手執事、二十六歳。執事としては四年目になる。

 その威圧感から、アルヴィンと二人で並べば、見た目は阿形吽形の金剛力士像にも見える。

 しかし、実際は無口で若干気弱な性格をしており、アルヴィンはお調子者の三枚目なので、本当に見た目だけの威圧感となる。


 リーゼロッテが覚醒するまでの間は、エドワードと共にアルバート付きの執事をしていた。

 エドワードがリーゼロッテへとかかりきりになって以来、一人でアルバート付きになっている。が、手が回らないことも多い。

 最近では仕事に慣れてきたし、エドワードも手伝う余裕が生まれたことから、仕事の上では順風満帆となっている。


 一章の途中で、快活な年上の女性と結婚をした。

 名実共に姉さん女房、尻に敷かれているが、彼は内向的なので、引っ張ってくれる妻を得たことは、彼にとって喜ばしいことだと思っている。

 彼の妻は鍛冶屋に努めており、実はトレーニングルーム敷設工事にも、親方の補佐として参加していたのだが……現場が悲惨なことになった上に、発言シーンはなし。


 リーゼロッテの行動に対してよくフリーズしており、いつまで経っても反応は鈍いまま。気がついたら置いてけぼりを食らっている。

 もしかすると、作中で最もリーゼロッテと相性が悪い人間なのかもしれない。(反応速度的な意味で)


 ガタイの良さからリーゼロッテの技の練習台になることもあったが、日に日に威力が上がっていくお嬢様の技を見て、軽い恐怖を感じ始めている。

 アランの提案あくまのささやきでアルヴィンを身代わりにしたことに、少し罪悪感を覚えている今日この頃。


 私生活は順調、リーゼロッテが絡まない限り、仕事も順調。



「子ども、か。…………育て方には、気を付けないと」




 アルヴィン・スタットマン


 アランよりも一つ年上で、大きな体格と頑丈な体から、リーゼロッテの団体立ち上げに誘われている。

 髪は明るめの茶髪。陽の当たり方によっては薄っすらと金色にも見える。

 瞳も茶色だが色素が薄く、これも光の当たり方で青に近い色になることがある。


 性格はお調子者で、誰とでもすっと距離感を埋めていける器用な人物。

 没落した子爵家の出身だが、ある程度の教育を受けた後に没落したため、学力は比較的高い。


 二人一部屋の男性使用人寮では、アランと同室。

 年齢が近いこともあり、彼とは悪友や兄弟のような距離感で接している。


 お嬢様付きの波乱万丈な生活は望まず、一介の使用人として安定した生活を得られるように画策していた。

 …………が、後にアランの落とし前・・・・を受けることになり、リーゼロッテの技の練習台としてロックオンされる羽目になってしまった。

 それに仕返しをして、またけじめ・・・をつけられて、と。終わらない不毛な争いに興じている男。


 メイドのメイブルと付き合うことになったが、徹頭徹尾いいようにコントロールされている。

 薄々このままではマズいとは彼自身思っているが、メイブルに取り立てて不満が無いため、打開策が見つからない状態。




 メイブル


 名前だけの登場。

 栗毛を短く切りそろえている、身長が低めの女性。

 一見して地味なメイドだが、仕事は堅実に、それでいて手早くこなすタイプのため、メイド長からの評価は高い。


 アルヴィンから粉をかけられていたが、彼が他の女性使用人にも軽薄な態度で接している場面が度々見られたので、一計を案じる。

 リーゼロッテの誕生日パーティの席でアルヴィンを酔い潰し、そのまま言葉巧みに彼の発言を引き出し、言質を取って彼女になった。



 最初はお試し感覚でアルヴィンを落としてみたが、今となっては彼と結婚するのも悪くないと思っている。

 そのため、公爵夫妻やエドワード、アランといったアルヴィンに影響力のある人間に、少しずつ、結婚を仄めかす発言をして外堀を埋めている最中。


 アルヴィンはまだ結婚を考えていないと言うが……確実に戦況は悪化している。

 そろそろ決着が付く頃だろうか。



「…………」


すっ(メイブルがゼクシ〇をそっと取り出す音)


「…………」


すっ(アルヴィンがそっと立ち去ろうとする音)


がっ(メイブルがアルヴィンの肩を掴んで、ゼクシ〇を突き付ける音)




 マーガレット先生


 天然パーマで金髪。つり上がった眉に、鋭いメガネ。見た目は「ザマス」を語尾に付けそうな女性だが、言葉遣いはもっと激しい。

 二章終了時点で四十二歳になり、主に礼儀作法の教師を務めてきた。


 リーゼロッテの技を食らった犠牲者第一号。

 ある日「まあ、何てはしたない真似を!」と言って懲罰用のムチ(叩かれてもあまり痛くない)で叩こうとしたところ、お嬢様からガチの反撃を食らって撃沈。

 それ以来リーゼロッテに軽い恐怖を抱いている。


 リーゼロッテを「お嬢様」にする計画には初期から参加し、エドワードと共にアランを厳しく鍛え上げた。

 結果としてアランの人格、礼儀3:ヒャッハー7の割合を、礼儀4:ヒャッハー6くらいにまで引き下げた。


 教育が成功したかは微妙なところだが、それによって乙女ゲームの原作から乖離した人格を作り上げたとも言えるので、実はクロスからマークされている人物の一人。



「マーガレット。モブキャラの記憶くらいなら……。いや、今はやめておこうか」

「……はっ! 今どこからか、視線を感じたような」


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