第二十四話 Tips 悪役令嬢よりステータスが低いと、ミニゲームが難しくなります。学力、魅力、体力、魔力、教養、資金力はバランス良く上げましょう。


 シリアス展開終わり。

 乙女ゲームの攻略対象キャラが、自分の出演している乙女ゲームをプレイします。


 ヒャッハー! 乙女ゲームの時間だ! \( 'ω')/ウオオオオオアアアーーーッ!


― ― ― ― ― ― ― ― ― ―






「くたばれ! リーゼロッテぇ!」

「ちょっとアラン!?」

「いや! そうじゃなくて! えっと、果物、果物……あ、てめぇリーゼロッテ! そのバナナは俺のものだ……ああ、クソったれ! いいよそのバナナはくれてやるよ! あんたにゃ、その萎びたバナナがお似合いだぜ!!」


「アラーン!?」



 俺は乙女ゲームをプレイ中だ。

 

 目が覚めると、見慣れない材質のマット――畳というらしい――の上に転がされており、これまた見慣れない建築様式の部屋の中にいた。


 クロスに連れてこられて、そのまま俺を看病してくれていたというリーゼロッテはこの建物を「ワンルームマンションよ」と言った。


 前世では一般的な建物だったらしい。


 クロスが用意した部屋には。

 俺やハルが笑顔を振り撒いて、どことなくキラキラした雰囲気の動く絵画……。

 テレビというらしい。そんな家具が設置されていた。


 途中途中でクロスから説明を受けたのだが。


 説明が面倒になったらしいクロスから「常識インストール」なる技を食らい。

 後頭部を強打されたような衝撃と共に、俺は再び眠りにつくことになった。


 そうしてもう一度目が覚めると、あら不思議。

 ゲームの起動方法やコントローラーの扱いが、名称つきでバッチリ理解できるようになっていた。



「これが記憶の操作か。便利なもんだ」



 などと思いながら、俺はリーゼロッテと共にテレビと向き合ったのである。


 で、本来の俺の未来とやらを知るべく、アラン・・・の攻略を始めたわけだが、作中では悪役令嬢のリーゼロッテ・・・・・・と度々争うことになる。

 

 アランを口説き落とすためには各種イベントで勝利する必要もあるので。

 この「障害物付き借り物競争」でも悪役令嬢に勝たなければいけないらしい。


 ということで、少し前から俺はミニゲームに興じていた。




 何故俺を口説くのに借り物競争が必要なのか、一ミリたりとも理解できないが。


 このゲームをクリアしているリーゼロッテと、物語の神様であるクロスがそう言うのだから大人しく従った。


 だが。



「難易度クッソ高いなこの、野郎ッ! なめてんじゃねぇぞコラ!!」



 それが正直な感想だ。

 ミニゲームで連敗を喫した俺は、心が折れそうになっていた。


 俺が操作するヒロイン……【アラコ】という名前の少女は、俺の好みをひたすらに突き詰めた存在だ。


 すなわち、用意されている能力値の中でも。

 魅力、資金力、教養を限界カウンターストップまで高め、その他は適当に。

 という割り振りで成長させている。



 そりゃ、アランというのは自分のことだ。


 を落とすために俺の好みでパラメーターを上げて行ったら、必然的にそういう伸ばし方になる。


 まずは魅力をカウンターストップ999にさせたのだが。

 カンスト後も魅力を上げていたら止められた。


 カンストしていようと、一応魅力のレッスンはできたのだが。

 限界を超えることはできないのだから当たり前か。


 とまあ、そんなわけで。

 得意分野では異常な才能を発揮するヒロインが誕生したわけだ。



 文化祭は実弾おかねにモノを言わせた圧倒的売店で、悪役令嬢の模擬店を叩き潰し。


 人類史上最高のカウンターストップした美貌でミスコンに殴り込み、ぶっちぎりの優勝。


 ちょいちょい出てくるアランが用意した珍奇なアイテムの真贋を見抜き。

 役に立つ物だけを購入するという教養で彼を唸らせた。



「……俺が子爵家のご令嬢であるヒロインに、怪しいツボを度々売りつけるのが正しい・・・未来?」



 という疑問はあれど、何とか順調にアランの好感度を稼いできた。


 得意分野では圧勝もいいところなのだが。

 悪役令嬢リーゼロッテは、時間経過と共にランダムで能力値を上げてくる。


 そのため、俺が重視していないパラメータではリーゼロッテに追いつけなくなってきた。



 その結果がこれだ。



 メインのパラメータ以外をおざなりにしたら。

 今やっている運動会なるものや、魔術合戦、果し合いという物騒な競技……などのミニゲームで、全く勝利できないようになった。


 リトライに次ぐリトライで、かれこれ九連敗している有様である。


 アランの攻略難易度はそこそこ高いらしく、ものによっては勝つまで先へ進めない。だから俺は、何度も運動会に参加する羽目になっているというわけだ。



「アラン! 〇ボタンを連打よ! あっ、フェイント! ×ボタンと〇ボタンを交互に押して!」

「スタミナ切れる前に連打止めろ! ほら見ろバテて追い抜かれた! あっ、ちょ! もう俺と代われ!」



 そして俺がグダグダやっているうちに、何故か外野の方がヒートアップしていた。

 しかし俺にも意地がある。

 負けっぱなしでは終われないのだ。



「うっせぇぞ外野! 俺のアラコはここからが! ……はぁ!? リーゼロッテがもうゴール!?」



 十連敗だ。

 途中から立ち上がってプレイしていた俺は、膝からがっくりと崩れ落ちた。


 ヒロインが運動会で負けて悔しがっている間に、アランは大事な取引へ向かう。


 そこで偽の情報を掴まされて、ヤバい案件ヤマに手を出してしまったアランが、再起を図るために一度身を隠す。

 ヒロインとは二度と会えずバッドendという流れらしい。



「ねえ。アランが小麦農家になっているイベントスチルを見るの、これで何度目かしら」

「おお。小麦を愛する男、アランよ。負けてしまうとは情けない」


 非常に納得がいかないが、これが俺が辿る末路の一つ。

 バッドendというやつだ。



「うぐぐぐぐ、何でヒロインが借り物競争で負けたら、俺が農家になるんだよ!」



 田舎に潜伏した俺は、どうやら追手から隠れて小麦農家を始めたらしい。

 そのまま一生を農家として過ごすそうだ。



『アラコはアランと初めて会った場所を通り過ぎる度に、彼のことを思い出します。きっと、いつかまた、彼に会えると信じて――』



 もの悲しい音楽と淡々としたナレーションを聞きながら。

 俺は十回目となるこのイベントスチルに違和感を覚えた。


 どこだろうと思いスチルをよく見れば。

 ヒロインが乗っている馬車の、家紋が目についた。



「そう言いながら、ヒロインが今乗っている馬車! これ別な攻略対象の家の紋章が付いてるじゃねぇか! ちゃっかり金持ちのイケメンゲットしてんじゃねぇぞ、このビッ」

「ダメよアラン! アラコは貴方の好みに合わせて、精いっぱい頑張ったじゃない!」



 俺がここまでしんどい思いをしている裏で。

 ヒロインさんは他の攻略対象にしれっと乗り換えていたらしい。


 新しい恋を探すというのは、現実的には十分あり得そうだが。

 これが現実に起こる可能性があると知れば、腹も立つ。



「自分好みに育てた結果なんだから、文句言うなよアラン……」

「分かったよ畜生! リトライすればいいんだろリトライすれば!」



『今は屈辱を甘んじて受け入れよう。だが、俺は決して諦めない』



 十一連敗だ。

 あっさりと敗北した俺は、再び農作業に精を出す、の姿を見せつけられることになった。



「黙れ小麦農家! そもそもお前が欲をかかなきゃ、こんなことにはなってねぇ! どうしてこうも簡単に詐欺に遭うんだ。頭の中が空っぽなんじゃねぇのか? もっと考えてから行動しろや!」



 怒りでコントローラーを持つ手をわなわなと震わせる俺を、外野の二人は冷めた目で見ていた。



「あーらら。熱中し過ぎて自分を罵倒しちゃってるよこの子」

「あー……。あのね、アラン。アランはもう十分に頑張ったと思うの。次は私がやるわ!」



 クロスが呆れたように言う横で、今度はリーゼロッテが俺のコントローラーを奪い取った。



「へっ。いいんですよ。お嬢がやったって無駄ですよ。どうせ俺の好みの女の子は、借り物競争にも勝てない半端モノですよーっと」



 しかし、こんなステータスで勝てるわけがない。

 俺はもうゲームをリセットする気満々で、勝負を投げていた。


 次のアラコは、ビックリするほど身体を鍛えた益荒男ますらお。もとい荒子アラコにしてやろう。



「神様ね、拗ねる方向がどうかと思うんだ。……まあ玲ちゃん、もとい。リーゼちゃんは何度もプレイしているんだろうし、ちょっと見てなよ」



 俺はリーゼロッテに場所を譲り、後ろに回る。


 早速、十二回目となるミニゲームが開始されたのだが。



「まずはお題……「黄色いもの」ね」

「おう。画面の左端に、バナナを持った女がいるぞ」



 派手な縦ロールの貴族令嬢が、何故バナナを振り回しているのだろう。


 開発スタッフとやらは、この絵面に何か疑問を持たなかったのだろうか。



「ダメよ。多分今度はリーゼロッテが「果物」のお題になっているはず。だからもう少し先にいる生徒から……今っ!」

「おお、ポップアップした瞬間に黄色い花を受け取った!」



 なるほど。

 悪役令嬢とヒロインは、競合するようなお題を受け取るようにできていると。


 で、アラコよりもリーゼロッテの方が足が速いから、無理に取りに行けば競り負けてタイムロスになるというわけだ。



「チェックポイントクリア。次は右のルートへ行くわ」

「左の方がゴールに近いんじゃ?」



 俺が納得している間にも、リーゼロッテ……俺の主人は安定したプレイングで、コースを進んでいく。



「泥濘や障害物が少ない分、こっちの道の方が安定するのよ。よし、次の借り物もクリア。ほぼノーミスでいける……えっ、嘘!? リーゼロッテがゴール!?」



 リーゼロッテは特にミスもなく順調にアラコを走らせていたのだが、気が付くとリーゼロッテ・・・・・・がゴールテープを切っていた。


 俺たちが見ている画面にデカデカと、二位の文字が躍る。



「あっはっは。体力パラメータに開きがありすぎると、ノーミスでも負けるんだよなこれ」

「むうううう! おのれリーゼロッテ! 貴方なんてアラコの魅力の足元にも及ばないくせに!」



 リーゼロッテは地団駄を踏んで悔しがり、画面に映る己そっくりな少女に向けて呪詛の言葉を吐いている。


 どうしよう。リーゼロッテがリーゼロッテ・・・・・・を罵倒するようになってしまった。



「……さっきまでの俺は、もしかしてこんな姿だったのか?」



 そうであれば、少し引く。


 己の振る舞いには気を付けよう。



 というか、クロスは何なのだろうか。

 要所要所でダメ出しをしているが、この男はこれをクリアできるのか?


 そう思った俺は、クロスに言う。



「じゃあアンタもやってみてくれよ。クリア、できるんだよな?」

「当たり前だろ。俺は三千世界を股にかける神様よ? この俺に、クリアできない物語ゲームなんてない」



 ということで、自信満々なクロスにコントローラーをバトンタッチ。


 リーゼロッテが台所から持ってきたポテトチップスを摘まみながら、俺たちは観戦に回ることにした。


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