91、パンツより好きなもの


 はいているパンツの色を当てたら、頭を叩かれた。


「今度から下着は自分の部屋で、干すことにする」


 先輩はマグカップを傾けながら言った。


「うかつなことはしない」


「あ、当たったのに」


「本当に当てるとは思わなかった」


 ムゥとうなった先輩は、大きくうなずいた。


「なんか悔しかった。そして鳥肌が立った」


「し、下着を見せてくれないと言う話は……」


「……それは」


 先輩はサッと目をそらして言った。


「な、なかったことにしても良いけど」


「よかった……」


「い、今見せるとかそう言うのじゃないよ。勘違いしないでね」


「とっても嬉しいです」


「そんなに見たいのかい。私の下着……」


 さっきとは打って変わって、彼女は自信なさげな様子だった。


「ただの布切れなのに」


「好きなんです」


「パンツが?」


「いや。二葉先輩が」


 それを聞くと、マグカップを置いて、ソファの上に足を乗せて体育座りをした。


 首をかたむけて、彼女は俺の顔をジッと見ていた。


「変なの」


「変ですかね」


「変だよ。パンツをはいていれば、きっと何でも良いんだ。ナルくんは」


「そんなこと無いですよ。俺は二葉先輩のことが好きなんです」


「証拠は?」


「証拠?」 


「パンツより、私の方が好きだって証拠」


 証拠とはなんだろう。


「しょうこしょうこ」


 かすように言うので、二葉先輩の隣に座ってみた。手を回して、自分の方に引き寄せた。彼女の頭が、肩にポフンと乗っかった。


「これで……」


 しばらくそうしていると、二葉先輩はささやくような声で言った。 


「これが、証拠?」


「……はい」


「これじゃあ、足りないかもしれない」


 スルスルと伸びてきた腕が、俺のことをかっしりとつかむ。二葉先輩がギュッと自分の身体を押し付けて、言った。


「もっと確かな証拠を」


「……そんなものありますか」


「ある」


 彼女がジッと俺を見上げていた。


 彼女が言いたいことの意味がちょっと分かってきた。途端に恥ずかしくなってくる。見つめてくる瞳が離れてくれない。


 思い切って抱き寄せて、彼女の唇にキスをした。


「……ん」


 二葉先輩が小さく息を漏らす。

 初めは軽く触れ合った。離れていこうとすると、今度は彼女から俺に近づいた。温かい唇が、さらに大胆に口をこすった。


「ちゅ……」


 もっと近づきたい。


 舌を伸ばそうとすると歯にぶつかった。彼女の口がわずかに開いた。


 まねかれるようにして、彼女の口の中に舌が入っていた。


「……あ……」


 互いの舌がぶつかって、くちゅと音を立てた。

 何度かそんなキスをした後で、二葉先輩はポンポンと俺の胸を叩いた。 


「……かも」


 照れ臭そうに笑って、顔をせた。


「……ちょっと分かったかも」


 彼女はそう言って、彼女は俺の太ももの上に頭を乗せて、ゴロンと寝転んだ。


 真っ赤な顔を手で隠していた。

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