90、当ててごらんよ


 俺からパンツを取り上げて、顔を真っ赤にした二葉先輩は、ポカポカと頭を叩いてきた。


「ばか、ばか、ばかー!」


「すいません……無意識に」


「浴室乾燥借りてるよー、って言っておかなかった私も悪いけどさ。何で無意識に取っちゃうかな。たたむまで私のパンツに気がつかなかった?」


「そうじゃないです。断じて違います」


 ただ、いつもの癖だった。


「いつも姉の下着もたたんでいるんで。それで……つい」


「……わたしはかなしい」


 先輩は自分の下着を抱きしめながら、うつむいた。


「わたしの下着を見て、ナルくんが何とも思わないことが悲しい」


「ただ……ぼうっとしていただけで……」


 ねてしまった先輩は、プイッとそっぽを向いた。


「へー、ぼうっとしたパンツね」


「そう言うことじゃなくて。素敵なパンツだと思いますよ」


「口では何とでも言えるし。興味ないんでしょ」


「ま、まさか。先輩が今、何色の下着を履いているか、当てることだってできますよ」


「なにそれ。言い訳がましい」


「本当ですから」


「じゃあ、当ててみてよ」


 先輩はソファの上に座ると、足を組んで言った。


「私が今、何色の下着をはいているか」


 当てられるものならね、と先輩は言葉を続けた。


「当てられなければ、もう一生、ナルくんにはパンツを見せてあげません」


「い、一生?」


「一生です」


 ふてくされた顔で、先輩は言った。


「見せません。接触禁止」


「……そんな」


「私は本気だよ」


 ぷうっと頬を膨らませて、二葉先輩は宣言した。


「本気なんだから」


 ツンとした口調で彼女は言った。取りつく島もない。

 元はと言えば、俺が悪いのも確かだった。


「わ、分かりました」


 しかしさっきの言葉は嘘ではない。二葉先輩が何色のパンツを履いているか、全くの検討がつかない訳ではない。


「当てれば良いんですよね」


 要はイメージだ。

 さっき干していた下着がピンクだったことも、ヒントの1つになる。


 関係してくるのは、天気とか服装とか、その日の気分とか。


 ソファに座る二葉先輩を観察する。

 集中して身体を見ていると、彼女はモジモジとした様子で言った。


「ちょ、ちょっと見過ぎじゃ……」


「すいません。でも本気なんで」


「……うぅ。やっぱ言わなきゃ良かった」


 集中、集中。


 二葉先輩が来ているのは、灰色のパーカーと青いショートパンツ。


 今日の天気は雨で、朝からジメジメしていた。イメージを膨らませて、下着を選ぶ二葉先輩の姿を想像する。


「整いました」


「へ、へぇ?」


 スゥと深呼吸をする。


「オレンジと白のしましま……だとおもいます」


 回答すると、彼女はピシリと表情を固まらせた。


 そして、むくりと立ち上がった。


「何で本当に当たってるの!」


 今度は丸めたチラシで、ポカポカと頭を叩かれた。

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