63、見つかった
鐘白
弟である俺を置いて、両親たちのクルーズに
「『え、待って。旅行から帰ってきたら、高校生の弟が、ハロウィンコスの女子を、ソファの上で押し倒していたんだが』……っと」
「な、流れるようにSNSに投稿するな!」
「パシャパシャ」
「写真を撮るなー!」
とんずらしようとした姉から、ようやくのところでスマホを取り上げる。チッと残念そうに舌打ちした姉は、ソファの上にちょこんと座る二葉先輩と目を合わせた。
緊張した様子の先輩は、ぺこりと
「ご、ごめんなさい。お……お邪魔してます」
「良いの良いの。可愛いねー、高校生?」
「三年です。三船二葉って言います」
「ナルミより上なんだ。付き合ってどれくらい?」
「一ヶ月、です」
「お、意外と短い。あんたもやるねぇ。こんなかわいい子を家に連れ込むなんて」
「いろいろ事情があるんだよ」
「ふーん、事情ねー」
旅行の荷物を床に投げ出した姉は、どかっと食卓に腰を下ろした。
「ま、元気そうで何より」
「っていうか世界一周旅行は?」
「途中。私だけ帰ってきた」
「なぜ」
「そりゃあ。思春期の弟が気になるでしょ。ずっと一人で寂しい思いをしていないかなって、父さんと母さんも心配してたから、仕方なーく私が様子見に行くので、旅行に集中してくださいな、ってわけ」
「別に、毎週電話してるから良いだろ」
「親っていうのは心配する生き物なの。まー、今回に限っては、完全にお邪魔ものでしたねぇ」
ふぅ、とため息をついて、姉は食卓に並んでいる料理に目をつけた。
「美味しそう! これ、食べて良い?」
「も、もちろんです」
「うっしゃー。お腹空いてたんだ」
遠慮なくチキンに手を伸ばした姉は、パクリと口に入れると顔をほころばせた。
「おいしー! これ、二葉ちゃんが作ったの?」
「は、はい。レシピ見ながらですけど」
「天才かー!」
素直に
「ナルくんも食べて」
「あ……うん」
椅子に座り、チキンを口に入れる。
香ばしいスパイスの香りがする。外はカリッと焼かれていて、中はほっこり柔らかい。
「……美味しい」
「本当! 良かったー」
ホッとしたように先輩は、手を合わせた。本当に美味しくて、お腹が喜んでいる。
先輩は楽しそうに次から次へと、料理を食卓に運んできた。かぼちゃのパイとか、蒸し鶏のサラダでテーブルを彩っていく。
「どんどん食べてくださいね」
「
「あ……えっ……!」
「茶化すなよ」
「ふっふっふっ。それでどうなの、本当のところは?」
ムシャムシャとポテトサラダをかっこみながら、姉は言った。
「ナルミに家に連れ込む勇気があるとは思えないし、何か困ったことがあるんでしょ?」
こういうところは妙に目ざとい。
俺は正直に事情を話すことにした。信じてもらえないと思うから、消失とかの事案はのぞいた。
「鍵? え、家に入れないの? しかも、ずっと一人暮らし?」
「はい。それでナルミくんにずっと、助けてもらって」
「年頃の子どもを放置するなんて、今時物騒だよ。旅行でもしてるのかね。ひどい兄だなぁ」
お前が言うか。
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