63、見つかった


 鐘白みやこ、大学四年生、身長158センチ、腰のあたりでウェーブした黒髪、頭脳明晰ずのうめいせきで料理上手。そしてコミュ強。


 弟である俺を置いて、両親たちのクルーズに随行ずいこう。世界一周旅行の真っ最中……だったはずだ。


「『え、待って。旅行から帰ってきたら、高校生の弟が、ハロウィンコスの女子を、ソファの上で押し倒していたんだが』……っと」


「な、流れるようにSNSに投稿するな!」


「パシャパシャ」


「写真を撮るなー!」


 とんずらしようとした姉から、ようやくのところでスマホを取り上げる。チッと残念そうに舌打ちした姉は、ソファの上にちょこんと座る二葉先輩と目を合わせた。


 緊張した様子の先輩は、ぺこりと会釈えしゃくした。


「ご、ごめんなさい。お……お邪魔してます」


「良いの良いの。可愛いねー、高校生?」


「三年です。三船二葉って言います」


「ナルミより上なんだ。付き合ってどれくらい?」


「一ヶ月、です」


「お、意外と短い。あんたもやるねぇ。こんなかわいい子を家に連れ込むなんて」


「いろいろ事情があるんだよ」


「ふーん、事情ねー」


 旅行の荷物を床に投げ出した姉は、どかっと食卓に腰を下ろした。


「ま、元気そうで何より」


「っていうか世界一周旅行は?」


「途中。私だけ帰ってきた」


「なぜ」


「そりゃあ。思春期の弟が気になるでしょ。ずっと一人で寂しい思いをしていないかなって、父さんと母さんも心配してたから、仕方なーく私が様子見に行くので、旅行に集中してくださいな、ってわけ」


「別に、毎週電話してるから良いだろ」


「親っていうのは心配する生き物なの。まー、今回に限っては、完全にお邪魔ものでしたねぇ」


 ふぅ、とため息をついて、姉は食卓に並んでいる料理に目をつけた。


「美味しそう! これ、食べて良い?」


「も、もちろんです」


「うっしゃー。お腹空いてたんだ」


 遠慮なくチキンに手を伸ばした姉は、パクリと口に入れると顔をほころばせた。


「おいしー! これ、二葉ちゃんが作ったの?」


「は、はい。レシピ見ながらですけど」


「天才かー!」


 素直にめられて、二葉先輩は嬉しそうに笑みを見せた。俺の方を見ると、彼女は座るようにうながした。


「ナルくんも食べて」


「あ……うん」


 椅子に座り、チキンを口に入れる。

 香ばしいスパイスの香りがする。外はカリッと焼かれていて、中はほっこり柔らかい。


「……美味しい」


「本当! 良かったー」


 ホッとしたように先輩は、手を合わせた。本当に美味しくて、お腹が喜んでいる。


 先輩は楽しそうに次から次へと、料理を食卓に運んできた。かぼちゃのパイとか、蒸し鶏のサラダでテーブルを彩っていく。


「どんどん食べてくださいね」


いわぁ。良いお嫁さんになるよ」


「あ……えっ……!」


「茶化すなよ」


「ふっふっふっ。それでどうなの、本当のところは?」


 ムシャムシャとポテトサラダをかっこみながら、姉は言った。


「ナルミに家に連れ込む勇気があるとは思えないし、何か困ったことがあるんでしょ?」


 こういうところは妙に目ざとい。


 俺は正直に事情を話すことにした。信じてもらえないと思うから、消失とかの事案はのぞいた。


「鍵? え、家に入れないの? しかも、ずっと一人暮らし?」


「はい。それでナルミくんにずっと、助けてもらって」


「年頃の子どもを放置するなんて、今時物騒だよ。旅行でもしてるのかね。ひどい兄だなぁ」


 お前が言うか。

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