64、避妊具をもらった
二葉先輩の話を聞いた姉は、ウンウンと納得したように腕を組んだ。
「いろいろと苦労しているんだねぇ」
「いえ……でも、ナルミくんに助けられてますから。ごめんなさい、勝手に服までお借りしてしまって」
「ううん。気楽に使って」
姉はにっこりと微笑みかけた。
「うちの弟はそんなに悪いやつじゃないから。いきなり襲うようなことは……さっきしていたか」
「は……はい」
先輩はもじもじと、下を向いた。
その様子を見て、姉がふっと笑って俺の方を振り向いた。
「なんだよ」
「良いなー」
「うるせー。十分、人生を
「そうじゃなくてさー……あー、私も高校生に戻りたい」
なんだか、やけ気味に姉は言った。
「良いなぁ良いなぁ。可愛い女の子と同居したいなぁ」
「実際のところ、本当に困ってるんだよ。先輩の現金もとっくに底をついているし」
「そうなの?」
「はい。キャッシュカードも兄が持っているので」
「困ったねぇ……よし。ここはお姉ちゃんに任せなさい」
自分の胸をポンポンと叩いて、姉は立ち上がった。
「二葉ちゃんのお兄さんを探してあげよう」
「心当たりがあるんですか?」
「無いけど、私の人脈を甘くみないことだよー」
スマホを取り出すと、ぽちぽちとメッセージを送り始めた。
「この辺の高校のOBでしょ。だったら、いくつかツテはあるから、そいつらに聞いてみるよ」
「あ、ありがとうございます」
「良いってことよー。ご飯もご馳走になったし、ナルミのこと、これからもよろしくね。あ、これお土産。仲良く食べてね」
カバンの中から大きなクッキーやらチョコレートの缶を取り出すと、テーブルの上にドカンと置いた。
カバンに化粧品やら何やらを詰め込むと、いそいそと
「もう行くのか」
「うん。ちょっと様子を見にきただけだし、私がいても邪魔なだけでしょ」
「……邪魔じゃないけど」
「はいはい。二葉ちゃんのこと、大事にするんだよ」
その言葉にうなずくと、クククと楽しそうに姉は笑った。
「あ、そうだ」
何か思い出したのか、姉は二葉先輩を手招きした。
「二葉ちゃん、良いものあげる」
「良いもの……ですか?」
「ふざけた女友達からもらったやつだけど。私に縁はないし。あ、ナルミは来ないで」
そう言うと、姉は二葉先輩を連れて自分の部屋に引きこもった。
バタンバタンと引き出しを
こそこそ声で話している。声色からすると、先輩は困惑しているようだった。
「……これ………って」
「つか…………でしょ」
「でも…………そんな…………まだ」
「…………持っ…………なさい」
「……い」
何を話しているのか、分からない。
興味本位で、部屋の中をのぞこうとすると、部屋の中の姉と目があった。
「のぞいたらしばく」
すごい勢いで扉を閉められた。
残念ながら、何を渡したのかは分からなかった。しばらくして部屋から出てきた先輩の目は、ぽうっとしていた。手には何も持っていなかった。
やりきった顔をした姉が、玄関前で靴ひもを結びながら、俺に言った。
「じゃあね。一応、父さんと母さんには秘密にしておくから」
「助かるよ」
「お兄さんのこと、分かったら連絡するから。じゃーね、二葉ちゃん」
「はい……いろいろありがとうございました」
「仲良くしてあげてね」
まるで嵐のように、姉は去っていった。
それでも頼りになるのは間違いない。無事にお兄さんが見つかれば、ひょっとすると、この事態も好転するかもしれない。
それにしても、さっきから先輩は一言も話そうとしない。
「何をもらったんですか?」
さっきの会話がどうしても気になった。先輩を慌てさせるようなものとは、一体なんなのだろうか。
「べ、別に……」
ぼうっと天井のあたりを見上げて、二葉先輩は言った。
なんとなく今まで見たことがない反応だったので、俺もそれ以上は何も言わないでおいた。
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