31、手を繋いだ


「アトラクション内を探しましたが、お連れ様の姿はどこにも……」


 入り口にいたドラキュラのスタッフは、困った顔で俺に言った。


「そう……ですか」


 しばらくお化け屋敷の周辺で先輩の姿を待っていたが、結局出てこなかった。ひょっとしてまだ中にいるのではないかと、スタッフの人に捜索そうさくしてもらったが、どこにもいないようだった。


 一体どこに行ったのか。


 叫び声をあげながら、先に走っていったはずなのに、近くのアトラクションにも、トイレにも二葉先輩の姿はなかった。


 しかも先輩は連絡手段を持っていない。


 待ち合わせ場所くらい、決めておけば良かった。


 観覧車の前のベンチに座って、途方に暮れていると、ピンポンパンポーンと、館内アナウンスの音が聞こえてきた。


『ご来場のお客様にお知らせです。カネシロナルミさま。カネシロナルミさま。お連れのお客様がお待ちです。ふわふわランドのインフォーメーションセンターまで、お越しください』


 ……先輩だ。


 良かった。無事に保護されていたようだ。


 腰を上げて、ふわふわランドまで歩いて行く。


 先輩は事務室の隅っこで、捨てられた子猫のようにちぢこまって座っていた。


 俺の顔を見るなり、彼女は泣きはらした目で言った。


「私、離さないでって言ったよね」


「言いました」


「どうして離したの」


「それは……先輩が先に」


「言い訳は良いんです」


 ポケットからティッシュを取り出して、ちーんと鼻を噛んだ。


「本当に怖かったんだからね」


「ごめんなさい」


「死ぬかと思った。……ところで手に持ってるの、なぁに」


 俺が持っている紙づづみに、先輩は目ざとく視線を落とした。


「チュロスです」 


「へぇ。人が迷子になって、途方に暮れてる時にお菓子なんて買ってたんだ」


「先輩の分もあります」


 チュロスを差し出すと、彼女は迷いなくバリバリと食べ始めた。口の周りに砂糖がつくのも気にせず、あっという間に食べてしまった。


「美味しい」


「機嫌、治りましたか」


「ちょっと」


「立てますか」


「腰が抜けて立てない」


 首を横に振った彼女は、俺に向けて右手をスッと差し出した。


「もうチュロスは無いですよ」


「そうじゃなくて。て」


「て?」


「手」


 恥ずかしそうに視線をそらして、彼女は言った。


「一人じゃ立ち上がれないの」


 不意を突かれる。

 二葉先輩の顔を見て、手を見る。それを何度か繰り返す。


 手を握る。


 彼女の手は、少し汗ばんでいて、いつもより温かった。体重をかけて立ち上がった、二葉先輩は想像していたよりも、軽かった。


「ありがと」


「……はい」


「今度は離さないでね」


 ギュッと俺の手をつかんで、彼女は言った。

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