13、大事なものをもらいに来ました


 不意に現れた女生徒は、屋上の隅で黙々と鉄パイプを組み立て始めた。その姿を見る俺と二葉先輩に気が付いたのか、妙に切れ切れの口調で彼女は言った。


「私のことは、気にせず」


「そう言われても……」


「イチャイチャしていれば良い」


「……そ、そんなことしてないよう」


 二葉先輩は困ったように言った。白衣の女生徒は何も言わずに、組み立て作業に戻った。


「なんかヤバい雰囲気だよ、あの子」


「……ですね」


「何してるか、聞いてきて」


「いや、二葉先輩……同じ女子なんだし」


「私、人に話しかけるの苦手なの」


「俺もです」


「……最初はグー、じゃんけん……」


「ぽん」


 勝った。

 二葉先輩は仕方なさそうに、パイプを組み立てている彼女に声をかけた。


「何しているの?」


「アンテナ設置」


 黙々と鉄パイプを組み立てている。確かに、あそこに傘でも付ければ、アンテナっぽくなる。


「テレビでも設置するの?」


「もっとすごいこと」


「何に使うの?」


恒星こうせいから発射される、電磁波の観察」


「こうせい?」


「星」


 アンテナにコードを突き刺す。ご丁寧に延長コードで、電源まで引っ張ってきている。


「足元、失礼」


 スルスルと手際よく、女生徒は作業を進めていた。何か妙なことをしようとしているのは確かだった。


「恒星だって」


 帰って来た二葉先輩が、首を傾げながら言った。


「恒星」


「……結局、何も分からんですね」


「わざわざ屋上でやらなくても良いのに」


 二葉先輩がブスッと文句を漏らした。

 こんなところで、弁当を食っている俺たちが言うのもなんだが、と言う話ではある。


「ここが、恒星の電磁波が、最も影響するところだから」


 俺たちの話を聞いていたのか、女生徒は面倒臭そうに答えた。


「この校舎付近が、角度と位置を考えると、この町で最も電磁波の影響を受けやすい場所であると、計算した」


「はぁ……要はここが丁度良いんだ」


「そう言うこと」


「すごい行動力だねぇ」


 二葉先輩は、少し感心したように言った。


「ひょっとして、何かの部活?」


「そう。オカルト科学研究会。私は部長。三年四組、剥不はがれずリマ」


「うちの学校、オカルト研なんて会ったんだ」


「非合法。そっちは?」


 剥不さんは、俺たちを指差した。


「俺は鐘白です。こっちは二葉先輩」


「一年?」


「いや、二年と三年」


「知らない生徒」


 剥不さんは首を横に振った。

 お互いボッチだから、顔は広くない。悲しい。


 俺たちはしばらく、飯を食べながら、剥不さんが設営作業を終えるのを見ていた。 


「星の観察って何するんだろうね」


「さぁ。そもそもオカルト研って、何をする部活するんですか。宇宙人とか?」


 剥不さんは、俺の言葉に首を横に振った。


「オカルトではない。オカルト科学」


 ノートパソコンを広げて、剥不さんは言った。


「きちんとしたデータを取る。観測する。立証する。再現する。実験主義」


「じゃあ、今は何してるの?」


「電磁波を観測して、周囲に及ぼす影響を調査中」


「……へー」


 二葉先輩は空を見上げて、顔をしかめた。


「星……ねぇ」


「真昼でも星はある。目に見えないだけ」


「ふぅん」


「ところで」


 剥不さんはくるりと俺たちの方を向いた。前髪の奥の瞳が、キラリと輝いた。


「どうやって二人はこの屋上に?」


「合鍵持ってるから、私たち」


「所望」


「え?」


「それ欲しい」


 彼女はまっすぐに手を差し出して、言った。


「鍵が欲しい」

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