12、手作り召し上がれ
「あれ? 今日、いつもと味が違う」
もぐもぐと、俺の弁当の肉団子を食べながら、二葉先輩は不思議そうな顔をした。
「まずいですか?」
「ううん、そんなことないよ。味が濃くて、好き」
「……良かった」
「ん?」
先輩は目をきょとんと見開いた。
「もしかして、ナルミくんが作った?」
「当たりです」
「えー。うっそー。やだ、もうちょっと味わって食べれば良かったー」
二葉先輩は、興奮したように足をバタバタさせた。
「料理上手なんだね。でも、どうして?」
「今日から姉と両親が、海外旅行でいないんですよ。だから、自分で用意するしかなかったんです」
「ナルミくんだけ置いて旅行?」
「年明けまで大型クルーズ旅行です。なんか懸賞に当たったらしくて。まだ高校生だからって、留守番をくらいました」
「ほー……」
納得した彼女は、ほうれん草を口に入れた。
「これも美味しいなぁ」
気に入ってもらえて良かった。
実は、感想を聞くまでドキドキしていたことは、伝えないでおく。
「ところで先輩」
「どしたの?」
「ずっと気になっていたんですが、さっきから屋上の扉、カチャカチャ言っていませんか」
「まさか」
二葉先輩の箸が止まる。
やはり、ガチャガチャとドアノブが動いている。
「誰か入ってこようとしてきてません?」
「ひょっとして、先生とか」
「……それはまずいです」
屋上は立ち入り禁止。
俺たちが鍵を持ち出して、勝手に使っていることがバレたら間違いなく追い出される。
鍵は没収。
安息地は崩壊する。
「どうする? 逃げよっか?」
「いや、ちょっと待ってください。……多分先生じゃない」
「どうして分かるの?」
「様子がおかしいです。鍵を開けるのに手間取っているような……」
入ってくるまでに、随分と時間がかかっている。鍵を使っている訳ではなさそうだ。
「まさかピッキング?」
「はい、いたずらかな……。諦めてくれると良いんですが」
同じ生徒だったとしても、ここにいるのを見られるのは具合が悪い。
しかし俺たちの期待に反して、カチャリと言う音と共に、扉は解錠された。
「……開いちゃった」
一寸間があったあとで、扉が開き始める。ひょっこりと現れたのは、理科の実験で使う白衣を着た女生徒だった。
「失礼」
背の小さい、長い前髪で表情を隠した生徒は、腕にスパナと鉄パイプを抱えていた。俺たちを気にする様子もなく、その工具を屋上に運び入れた。
俺と二葉先輩は呆然として、その女生徒を見届けるしかなかった。
「……なんなんだろう」
「……なんなんでしょう」
その女生徒は、どう見ても不審者だった。
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