第21話 A fusion of French food and Italian food

予約よやくした時間の5分前に「L'ART ET TAKUMI」に入店した2人はオープンテラスの席に案内された。


これは偶然ではない。


友梨佳ゆりかが店の予約よやくをした時に、オープンテラスの席を希望していたのだ。


「L'ART ET TAKUMI」は一般的なランチコースでも4000円近くするが、著名なフレンチシェフがオーナーシェフをつとめている事と都心の一等地いっとうちという立地条件りっちじょうけんを考えれば、妥当だとうな料金と言える。


「この店のオーナーシェフって有名なフレンチのシェフだよね?それなのに何でパスタを出すんだろう?」


御門みかどはランチのメニューをながめながら、疑問を口にする。


「ここはフレンチとイタリアンの融合ゆうごうがコンセプトなので、そのせいではないでしょうか。」


「そうか、ことなる文化の融合ゆうごうで新しいものを生み出そうとするのは美術も料理も同じって事か・・・」


御門みかどの感想は芸術家らしいものだったが、友梨佳ゆりかは別の視点から御門みかどの話をとらえていた。


『そうか、ことなるジャンルの文化を体験する事に意味があるなら、さそうイベントは何も日本画にほんがにこだわらなくても良かったんだ。』


今まで彼女を悩ませていた問題は解決した。

選択肢せんたくしが一気に広がった友梨佳ゆりかは気が楽になる。


パスタは通常のロングパスタの他に、ペンネとニョッキを選ぶ事が出来るので、かなり本格的だ。


一方、メインディッシュはフレンチであり、こちらも肉と魚のどちらかを選ぶ事が出来る。


御門みかどはロングパスタと肉料理を、友梨佳ゆりかはペンネと魚料理をそれぞれチョイスした。


アンティパストが運ばれて来るまでの間、2人の話題は企画展きかくてんの感想が中心になる。


「私、御門みかどさんの作品も見てみたいです。」


日本画にほんが巨匠きょしょうたちの作品を見た後に、自分の作品を見せるのは抵抗ていこうがあるな。学内がくない展覧会てんらんかいはまだ先だし、家に戻れば作品はあるけど・・・」


友梨佳ゆりか御門みかどが見せたほんのわずかのすきを決して見逃みのがさない。


御門みかどさんの家、行ってみたいです!ぜひ連れて行って下さい。」


「まさか今日来たいって事?」


「ご迷惑めいわくでなければ」


本人に自覚は無いものの、友梨佳ゆりかには交渉者こうしょうしゃとして天性てんせいの才能がそなわっていた。

こういう言い方をして『迷惑めいわくだ』と断る事が出来る人間は少ない。


「別に迷惑めいわくではないけど・・・」


「両親には今日帰りが遅くなるかもしれないと話して、許可は取ってあります。」


前回は門限を理由に早く帰されてしまった。


友梨佳ゆりかは2度と同じ失敗を繰り返すつもりは無い。


一方、打つ手をふさがれた御門みかど降参こうさんするしか無かった。


「部屋は散らかっているけど、大丈夫?」


「私がお掃除そうじいたします。」


「・・・それだけは勘弁かんべんしてくれ。」


コースが最後のデザートにかったところで、ここまで防戦一方ぼうせんいっぽうだった御門みかど主導権しゅどうけんを取り戻すべく、友梨佳ゆりかに提案する。


蘭堂らんどうさん、せめて自分が食べた分だけでもはらわせてくれないか?」


「それではおれいになりません。」


御門みかど抵抗ていこう友梨佳ゆりか一蹴いっしゅうされる。


結局御門みかど友梨佳ゆりかに食事をご馳走ちそうになった上に、彼女を家に連れて行く事まで約束させられてしまった。


御門みかどにとって予想もしなかったような展開である。


『何だか全てが蘭堂らんどうさんの思い通りになっている気がするな。』


それは御門みかどの正直な感想だった。

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