第20話 The National Museum of Modern Art, Tokyo

東京国立近代美術館とうきょうこくりつきんだいびじゅつかんで開かれていたのは、横山大観よこやまたいかん下村観山しもむらかんざん菱田春草ひしだしゅんそうを始めとした、創立時そうりつじ日本美術院にほんびじゅついんを代表する巨匠きょしょうたちの作品が一堂いちどうかいする、とても豪華ごうか企画展きかくてんだった。


御門みかどは少し興奮こうふんした様子ようす友梨佳ゆりか解説かいせつする。


「つまり日本画にほんがというのは西洋絵画せいようかいがに対するアンチテーゼが出発点しゅっぱつてんなんだ。この部屋に展示てんじされている作品を制作せいさくした画家がかたちは、日本画にほんが西洋絵画せいようかいがくらべて決しておとっていない事をしめしたかったんだろうね。」


御門みかど解説かいせつとき専門用語せんもんようごじるため、友梨佳ゆりか説明せつめいの一部しか理解りかい出来なかったが、彼が生き生きと自分に話しかけてくれる事だけで満足だった。


「白黒の絵が結構けっこうありますね」


「それは水墨画すいぼくがだよ。元々もともとは中国で生まれた絵画手法かいがしゅほうだけど、日本で独自どくじ進化しんかげたんだ。」


「これは・・・」


それは全長ぜんちょう40メートルをえる、長大ちょうだい水墨画すいぼくがだった。


友梨佳ゆりかは、その美しさ、力強さに圧倒あっとうされる。


生々流転せいせいるてん・・・横山大観よこやまたいかん代表作だいひょうさくの一つだよ。水の一生を水墨画すいぼくが表現ひょうげんした日本画にほんが至宝しほうでもある。この作品ばかりは、本物を見ない限り真価しんかが分からないだろうね。」


すごい・・・」


始めは御門みかどさそ口実こうじつ以上の意味を持たない企画展きかくてんだったが、友梨佳ゆりかはいつの間にか本気で感動していた。


次に入った展示室てんじしつ見渡みわたした御門みかどは、ある作品に気付きづき、友梨佳ゆりかに話しかける。


生々流転せいせいるてん間違まちがいなく名作だけど、俺の今日の目当めあてはこっちだ。」


御門みかど指差ゆびさした先には、六曲一双ろっきょくいっそう屏風びょうぶ展示てんじされている。


紅葉もみじ・・・これも実は横山大観よこやまたいかんの作品なんだ。生々流転せいせいるてんと比べて、とても同じ作者の作品には見えないだろう?」


「はい、素人しろうとの私でも一目ひとめちがう事が分かります。」


紅葉もみじかれたのは昭和6年だから、大観たいかん64歳の作品になるね、画家がかとして円熟期えんじゅくきに入った大観たいかんの、一つの到達点とうたつてんと言えるものだ。実は紅葉もみじを東京で見るのはとても貴重きちょう機会きかいなんだ。普通なら足立美術館あだちびじゅつかんまで行かないと、本物に会えないからね。」


足立区あだちくの美術館なら東京都内ではないんですか?」


「いやいや、足立美術館あだちびじゅつかんがあるのは東京の足立区あだちくではなくて島根県だよ。しかも紅葉もみじ通年展示つうねんてんじをしていないから、これは滅多めったに無い機会きかいになる。」


「そうなんですね・・・絵の所々がキラキラかがやいてますが、これは?」


「これは銀箔ぎんぱくらしてけているんだ。日本画にほんが特徴的技法とくちょうてきぎほうの一つだよ。はくる事で画面がめん絢爛豪華けんらんごうか印象いんしょうを与える事が出来る。」


友梨佳ゆりかは右側の屏風びょうぶ一羽いちわの鳥がえがかれている事に気付きづいた。


御門みかどさん、あの鳥は?」


「あれはセキレイだね。作品のテーマである紅葉もみじの木からセキレイが飛び立った一瞬いっしゅん大観たいかんが切り取ったものと理解されているんだ。」


御門みかど友梨佳ゆりか初歩的しょほてきな質問に対しても、丁寧ていねいに答えてくれた。


彼らは2時間近い時間をかけてじっくりと企画展きかくてん鑑賞かんしょうすると、展示室てんじしつの外に出る。


友梨佳ゆりか御門みかど率直そっちょくな感想をべた。


「私、美術びじゅつ魅力みりょくが少しだけ分かった気がします。来て良かった。」


「こちらこそさそってくれてありがとう。蘭堂らんどうさんが美術びじゅつ興味きょうみを持ってくれてうれしいよ。今度は俺の方からさそってもいいかな?」


「はい!是非ぜひ!」


友梨佳ゆりかの感想には下心したごころは無く、素直すなおな感想をべただけなのだが、意外にもそれが御門みかどの心にとど結果けっかとなった。


予想外よそうがい成果せいかを手にした友梨佳ゆりか歓喜かんきする。


そして、この成果せいかに自信を深めた彼女は勝負に出る。


御門みかどさん、実は今日、美術館びじゅつかんの中にあるレストランを予約よやくしてあるんです。先日せんじつのランチのおれいに、ぜひ御馳走ごちそうさせて下さい。」


「いやしかし、蘭堂らんどうさんにそこまでしてもらう訳には・・・」


遠慮えんりょしようとする御門みかどの言葉をさえぎり、友梨佳ゆりかは必死に説得する。


御馳走ごちそうと言ってもただのランチですから、そんな大げさなものではないんです。それに今から予約よやくをキャンセルしたら、お店に御迷惑ごめいわくかってしまいます。」


「・・・分かった。女子高生に御馳走ごちそうしてもらうのは抵抗ていこうがあるけど、今日はあまえさせてもらうよ。」


「本当ですか!良かった・・・実はもう予約よやくの時間がせまっているのです。」


「そいつは大変だ。店に迷惑めいわくからないように急ごう。」


「はい!」


2人はぐに行動を開始した。

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