妹キャンバス

第15話 Love makes me happy and love makes me uneasy.

家に帰りついても私の興奮（こうふん）は収（おさ）まらなかった。

自室に戻（もど）った私はスマートフォンのアドレス帳を何度も開いて、彼の情報を確かめては、ニヤニヤと笑顔（えがお）が止まらなくなる。

私は部屋の中で立ったり座ったり、意味も無く歩き回ったりして、全く落ち着く事が出来ないでいた。

そして私は今日の出来事（できごと）を頭の中で再生（さいせい）する。

彼との奇跡的（きせきてき）な再会（さいかい）。

そして偶然（ぐうぜん）とは言え、彼に抱（だ）きついてしまった事。

無理やり付いていった画材屋、そして「Ristorante di Napoletana」でのひと時・・・

全てがあっという間の出来事（できごと）だったように感じる。

『私は彼にどう思われただろうか、好（この）ましい女性に映（うつ）っただろうか？』

答えが出るはずの無い問題を、私は一生懸命（いっしょうけんめい）に解こうとする。

彼に会う方法が無かった時は、会えさえすればきっと満足するだろうと思っていた。

しかし結果は全く違（ちが）っていた。

私の心は満足するどころか、さらに燃え上がってしまった。

彼の事をもっと深く知りたい。

もっと親（した）しくなりたい。

直（す）ぐにでも連絡したい。声が聴（き）きたい。

でもしつこい女と思われたくない。

彼の方から連絡してくれないだろうか？

そんな都合（つごう）の良い考えが頭をもたげる。

私の部屋には、彼と出会うきっかけとなった靴が大切に飾（かざ）られてある。

そして私は、それを手に取るとため息をつく。

私は今まで、映画や小説で描（えが）かれている恋愛について、ヒロインの気持ちを自分のものとしてリアルに受け止める事が出来なかった。

それらは私にとってどこか現実感（げんじつかん）が無く、本当にそんな気持ちになるのだろうかと疑（うたが）ってさえいた。

しかし私は、それらが本当である事を否応（いやおう）なく思い知らされる。

喜びと不安。

相手に近付きたいという想いと、拒絶（きょぜつ）される事への恐怖（きょうふ）。

もはや手遅（ておく）れである。

病（やまい）にかかった私は、以前の私に戻（もど）る事は出来ない。

私は、その病（やまい）の名前が何かを知っている。

そうだ。もう間違（まちが）いない。

私は今、恋をしている。