妹キャンバス

第9話 Girl meets Boy again

『どうしてあの時、強引（ごういん）に連絡先（れんらくさき）を聞かなかったのだろう・・・』

私は車内（しゃない）でため息をつく。

元々（もともと）はっきりした性格の私が、遠慮（えんりょ）して聞きたい事が聞けないなんて、普段（ふだん）だったら考えられない事だ。

右足の痛（いた）みはすっかり消えている。

あの日、怪我（けが）をして家に帰った私を見た両親は大変驚（おどろ）き、車で病院へ直行する事になった。

診察した医師からは、応急処置（おうきゅうしょち）が良かったので、これなら直（す）ぐに治（なお）るだろうと感心された。

私に応急処置（おうきゅうしょち）をしてくれた人の名前はミカド。

私が彼について知っている情報（じょうほう）はそれが全（すべ）てだ。

とにかく知っているのが名前だけでは探（さが）す術（すべ）が無かった。

広い東京で、偶然（ぐうぜん）に再会出来る確率（かくりつ）なんてゼロに等（ひと）しい。

そうして私がもう何回目になるか分からない後悔（こうかい）をした時に、奇跡（きせき）が私に味方（みかた）する。

「！」

車中（しゃちゅう）からぼんやりと外を眺（なが）めていた私は、外の歩道を歩く一人の青年の顔に吸（す）い寄（よ）せられた。

私は眼（め）を見開（みひら）いて青年の顔を凝視（ぎょうし）する。

間違（まちが）いない。彼だ！

「斎藤（さいとう）、車を止めて！」

私は叫（さけ）ぶように指示を出すと同時に後席（こうせき）のウィンドウを開け、自分でもびっくりするような大声で叫（さけ）ぶ。

「ミカドさん！」

幸（さいわ）いにも彼は私の声に気付（きづ）いてくれた。

車は急停止（きゅうていし）し、夢中（むちゅう）でドアを開けた私は、全力で彼の元に走り寄る。

もう相手は気付（きづ）いているのだから、別に走る必要は無いのだが、今の私にそんな冷静（れいせい）な判断（はんだん）をする余裕（よゆう）は無かった。

足元が高いヒールの靴である事も完全に忘れて、私は情熱（じょうねつ）のまま走り続ける。

「あっ！」

あと少しで彼の元（もと）にたどり着くところで、足首（あしくび）をひねった私は転（ころ）びそうになった。

その瞬間（しゅんかん）、彼の手がスッと伸（の）びて、私の身体（からだ）を抱（だ）き止（と）める。

私は彼に身体（からだ）を預（あず）けたまま、ゆっくりと息を整（ととの）える。

「ああ、えーっと確か・・・」

『覚（おぼ）えていてくれた！』

たったそれだけの事で、私の心は喜（よろこ）びに包（つつ）まれる。

私は彼の眼を見つめながら、もう一度自己紹介（じこしょうかい）する。

彼が私の事を決して忘れないように。

「友梨佳（ゆりか）です。蘭堂友梨佳（らんどうゆりか）」