聖職系な元魔王殿

@ponkichiT

第1話 始まりは転移魔法から

 黒煙立ち込める古城。


 ここは冥界全八地区の第三地区を収める魔王『ベラドレス』の城である。

 しかし、城は完全に包囲され、城の周りどころか中まで魔王軍の兵士の姿は見当たらなかった。

 無残に死体あちらこちらに転がっているか敗走して四散してしまったからだ。

 人類に領土と城の奥深くまで攻め入られており、城は陥落寸前の状態。


 最終決戦を仕掛けるべく勇者グループの4人は、ついに魔王の玉座の間の扉の前までたどり着いていた。


「魔王ベラドレス!奴の玉座はすぐ目の前だ!」


 共和国最強と謡われている勇者アイリアがパーティーメンバーを鼓舞する。


「よし、開けるよ・・・。いつも通りトラップ感知を怠らずにね。」


 勇者アイリアがゆっくりと重低音がなる扉を開く。


「・・・ん?」


 しかし、そこには魔王の姿は無かった。


「いない?一体どこへ行った?」



 ---一方、玉座の間のすぐ下の隠し部屋


「あー、ほら、もう玉座の間に来ちゃったよ・・・。やっばいなあ。」


 先代魔王と人間種とのハーフデーモンの魔王ベラトレスとスケルトンのメイド兼秘書の従者のリーズウェイが、脱出用の転移魔方陣を描いていた。


「なーんでこんな事になっちゃったんだろうなあ・・・」


 俺は溜息を付く。

 そうだ、1年前にオヤジの先代魔王が病気で死んでしまい、魔王不在はまずいという事で唯一の息子である俺が代理魔王になった。

 そこまでは良かったのだが、突如平和に暮らしていた俺達に突如人間どもが総攻撃を仕掛けてきた。

 しかもホワイト経営を目指して兵隊達の半分を、長期休みを取らせていたその時だ!

 更に魔王軍領土に隣接している人間の3国同時に侵略って酷くないか。ついこの前まであんたら戦争してたですやんって所だ。


「それは魔王様自身が弱いからですよ。もうちょっと強かったら援軍が来るまで耐えれましたでしょうに。」


「痛い所ついてくるなあ・・・。」


 正直、俺はすごく弱い。

 デーモン種のくせに、暗黒系魔法が全然弱い。才能がないレベルらしい。

 単純な筋力も魔王軍では下の下。

 そのあたりの事情は必死に隠していたから、リーズウェイ以外はその事を知らない。


 ちなみに過去も何度か攻められた事があったみたいだけど、それは全部オヤジが単騎で敵をひきつけ時間を稼ぎ、援軍が逆包囲して殲滅で撃退していたらしい。

 今回の敗北は兵不足と単純に俺が超弱かったのが原因だ。


「まー早くここから撤退して第二地区か第一地区と合流しようぜ。体勢を立て直して占領された地域の奪還だな。」


「合流は賛成ですが、奪還は・・・可能かどうか分かりませんね。そもそも魔王様は今回の敗北の責任を負って拘束される可能性がありますんで。」


「え、まじ?」


「マジです。戦闘能力だけでなく頭も弱いんですね。」


 リーズウェルの言葉に一瞬固まる俺。


「えー!どうしよう!このまま行っても俺処刑されてしまうじゃん!やっぱ行くの止めよ!ね?」


「止めてもいいですけど、そうしたら勇者に殺されますよ?どうせなら言い訳するだけしたらどうですか?」


「そ、そうだな。(今のうちに言い訳考えておこう・・・。)」


「あまりに言い訳が事実から逸脱してたら訂正しますので。」


 リーズウェルの言葉に一瞬固まる俺。


「えー!なんで!俺殺されちゃうじゃん!血も涙もない事するなよー!」


「なんでって虚偽報告で私まで処刑されちゃうじゃないですか。あと私は血も涙もないスケルトンなんで。もう諦めましょう。もうすぐ魔方陣完成するんで・・・。」


 ドゴーン!


 リーズウェルが言葉を言い終わる前に後ろから、轟音が鳴り響いた。


「見つけたぞ!魔王!」


 轟音の正体は勇者が隠し扉を蹴り壊した音であった。


(うっわー・・・。蹴りだけであの厚い扉をぶっ壊してきたよ?こいつまじやべーよ。というか本当に人間かよ。)


「アイリア!見つけたのか!?」


 勇者の声を聞いて仲間たちも集結してきた。

 勇者、ウィザード、ウォーロック、アーチャー。

 全員女の珍しいパーティーだが、一目で分かった。


 こいつら無茶苦茶強い!

 オヤジレベルじゃないと話にならないレベル差を感じた。

 俺なんか多分、一撃で粉々になるだろう。


「(リーズウェル、魔方陣はできたのか?)」


 小声でリーズウェルに聞くと黙って小さく頷いた。

 逃げるが勝ちを決断せざる得なかった。

 しかし、せめて魔王らしい立ち去り方を・・・。


「フハハハハハ!よくぞここまで来たな!矮小なる人間ども!私が直々に相手をしてやりたい所ではあるが、私も忙しくてね、作戦計画の為にここを去らねばならぬ!次にあった時は全力で私も相手をしてやろう!」


 全力で虚勢を張った。内心は気が気じゃない状態だった。


「な、逃げる気か!」


 勇者が剣を構えるが、俺は先手を打った。


「さらばだ!テレポーテーション!」


 足元の魔方陣が光り始める。

 かっこよく決めた。


 が、しかし何かおかしい。

 通常、転移魔法は魔方陣が白色に光るのだが、何故か青く光っている。

 それに足元を照らす程度の光量のはずなのに、どんどん光量が大きくなっていて腰が隠れる程になっている。


 よく見ると描いた転移魔方陣の内側に別の魔方陣が浮かび上がってきた。


「えっ!何この魔方陣!」


 魔法は全然弱くて使えないけど、魔法の知識だけは勉強したから知っているはずなのに、この魔方陣は全く見覚えのない魔方陣だった。


 その瞬間、辺り一面を眩い光が俺とリーズウェルどころか、勇者グループまでも覆いつくした。


 ここで俺の意識は飛んでしまった。



 ・・・・・

 ・・・・


 目が覚めると青い空が目に入ってきた。

 どこかに寝そべっているらしい。


「いててて、一体何が何だったんだ?」


 俺は上半身を起き上がると辺りを見回した。

 周囲は人口建造物に囲まれた人気のない狭い石畳みの路地だった。


(転移はされたみたいだけど、建物と魔王領土の赤い空じゃないし、ここってひょっとして人間の領土じゃないか?)


 やばい、非常にやばい。幸いにも周りに人はいないみたいだが、俺の姿はハーフデーモンである。

 人間種とは見た目も全く違うので、すぐに捕まってしまう。


「すぐにここから立ち去らないと・・・」

 っと独り言を言ったその時、俺は違和感を感じた。


「あれ?俺の手の色・・・なんでこんな色なの?」


 俺の元々の肌の色は赤である。しかし、俺の目に入る自分の手と腕の色は、人間種のような薄い橙色であった。

 混乱する俺は自身の角を確認する。


「つ、角が無い・・・」


 続いて尻尾を確認する。


「尻尾が無い・・・」


 すぐ近くの建物の窓がガラスであったので、飛びついて自分の姿を映して確認した。


「俺、人間になってる・・・。」


 自身にかかっている魔法の気配がないので、変化魔法のポリモフとかではない。

 自分が本当の人間になっている事は事実であった。


 混乱する自分を何とか冷静にさせようとした時、リーズウェルの存在を思い出した。


「はっ!リーズウェル!リーズウェルはどこだ!」


 俺は無我夢中でリーズウェルの名前を呼んだ。


「はい、ここに。」


 俺の後ろから懐かしくないはずなのに懐かしく感じるリーズウェルの声が聞こえた。


「よかった!リーズウェ・・・ル?」


 俺は声がする方へ振り向きながらリーズウェルの名前を呼んだが、そこにいた人物を見て言葉が詰まってしまった。


 そこにはスケルトンであるはずのリーズウェルとは程遠いすごく美人の長髪の人間の女性が立っていた。


「ええっと・・・、どちら様?」


 俺はその知らない人間に思わず訪ねてしまった。


「リーズウェルです。」


 淡々とその女性は答えた。


「あ、リーズウェルさんだったんですか、少し見ない間に太られました?あと髪生えてきたんですか?よ、よかったですね。」


「太ったと言われるのは少々心外ですが、どうやら肉があった時の私のようです。」


 うんうん、このクールな口調は間違いなくリーズウェルだ。

 じゃなくて!一体何がどうなってるんだ!?


 この時、俺はこれから長い旅路に出る事になるとは全く思いもよらなかった。

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