第83話 あかされた意味
「ねぇママ、ちょっといい?」
「ん? どうしたの睦葉」
夕食が済んでお風呂も終わって、家族の各々がのんびり過ごす夜更け。居間のソファーで一人タブレットを見ながら過ごしていたら、睦葉が神妙な顔を見せて寄って来た。
「あのね、家の中に光るなにかがいる」
聞けば二、三日前から部屋の片隅にぼんやりとした光がいるのだそうだ。
「今もいるのかな?」
「うん。さっきまでわたしの部屋にいた。怖い感じはしないけど、なんだか見られてるみたいで気になっちゃって。
あ、今はママの後ろの上の方にいるよ」
ボクにくっついたまま辺りを見回していた睦葉が、それを見つけた。彼女の右手が指し示す方に振り向くと、そこには生成神衣装の玲亜ちゃんがふよふよ浮いている。
確かに数日前から玲亜ちゃんのいる気配はしていたけど、ボクには近寄ってこなかったから約束どおり気にしないことにしていた。だけど今は睦葉にしっかり気付かれて、さらにボクの目の前にいる。
「玲亜ちゃん、睦葉にバレてるよ」
不安げにしがみつく睦葉を他所に、ボクは玲亜ちゃんを見据えて声を掛ける。すると玲亜ちゃんはテーブルの向こうに移動して、そこで隠蔽を解いたのか、目で追いかけていた睦葉が小さくあっと驚きの声を上げた。
「ご無沙汰してるわね、ユウキ。それから睦葉ちゃん」
玲亜ちゃんはそう言ってにんまりと笑みを浮かべていた。
「とりあえず、他の家族に見られるとややこしいから服だけでも着替えてよ」
「はいはい」
ややおざなりに聞こえた返事とともに、生成神の衣装がふわっと広がってチュニック姿に早変わりする。そして彼女はそのままぽすんとソファーに落ち着いた。
「こんばんは睦葉ちゃん、ワタシのこと覚えてるかしら?」
玲亜ちゃんが微笑んだままそう問いかけると、睦葉の首がコクンと揺れた。
「確か、うんと小さい時におうちに来ましたよね。
それから、遠い記憶にも、あります」
「そうね、そうそう。
だったら、ワタシが何者なのかも覚えていたりする?」
すると睦葉がボクに振り向いて何か訴えるような目をしたので、ボクは黙って首肯した。
「はい。
あなたは生成神さん。名前は、
「そうね。上出来よ」
玲亜ちゃんはそのまま無言で睦葉の様子を上から下まで眺めている。
睦葉はと言えばそんな玲亜ちゃんのことが改めて怖くなって来たのか、ボクにしがみつく手に力が籠もってきた。
「睦葉ちゃん。ワタシのこと、怖い?」
そんな睦葉の様子に気付いたのか、玲亜ちゃんが表情を変えずに問いかけた。
「……怖い、です、少し」
「そう。
だいじょうぶよ。ワタシとアナタのママは仲良しのお友達だからね」
玲亜ちゃんはそう言うと、にこっと笑った。
そんな玲亜ちゃんの努力も空しく睦葉の手が緩むことはなかったから、睦葉なりに何か尋常じゃない気配を感じとっているんだろう。それに、この反応こそ睦葉がゆう姉ではない事の証明になるように思えた。
もし睦葉が実はゆう姉であるのなら、玲亜ちゃんを見て怖がることはないはずだった。
「そうだ、睦葉?」
これはちょうど良い機会だと気がついて、ボクはしがみついている睦葉に声を掛けた。呼びかけに反応して睦葉がボクを見上げる。
「なに? ママ」
「今もママのこと光って見えてる?」
「うん。言わないだけでいつも後光が差したみたいにほんのり光ってるよ」
「そうなんだ。それじゃ玲亜ちゃんの方はどう?」
問われるがまま、睦葉が玲亜ちゃんの方に顔を向ける。
「うん、光ってるよ。ママと同じ感じ」
「光の色とか、強さとかも同じ?」
「うん……変わらない……と思う。
そうだ、あのねママ。お正月に神社に行ったよね?」
睦葉が再びボクに顔を向けた。
「うん、そうだね。広い神社だったね」
「そこにもね、生成神さんみたいなボヤッと光るものがいくつもいたよ」
「へえ? それは興味深いわね」
予想外に玲亜ちゃんが食いついてきた。
そこから話が広がって、光るもの以外にもなにか見えたりするのかとか、見える以外の感じ方はないかとか、矢継ぎ早に質問が放たれる。
睦葉の方は、玲亜ちゃんに対する警戒が解けないまでも、質問にははっきりと答えていく。
ひとしきり質問タイムが終わった頃には緊張がかなりほぐれたのか、睦葉は絡めていた手をほどいてボクのすぐ隣にちょこんと座っていた。
そして玲亜ちゃんから睦葉の力について解説が始まった。
「おそらくなんだけど、睦葉ちゃんは神と人を繋ぐ存在なのかもしれないわね。
人でありながら神の存在をリアルに感じることができる力を持つ者。
霊を感じる事のできる霊能力者とも、少し違うみたいね」
破壊神がゆう姉に取り憑けたのも、彼女がそういう力を持つ存在だったからじゃないか、玲亜ちゃんはそんなことを話す。ただその取り憑いた直接の理由が分からない。もしかしたらゆう姉が亡くなりそうだったから、その救命のためという線はありそうだけれど、とも言う。
「ユウキのお母様はわかる人だし、ゆう姉だって分離した破壊神の半身を従えることができたわけで、先祖を遡ったら神に仕えるような一族だったのかもしれない。
でもゆう姉が幼いうちに亡くなってしまっては、その血も絶えてしまうわけで……」
「緊急避難だった、とか?」
「かもしれないわね。その時の破壊神の記憶がもう失われてるからなんとも言えないけど。
とにかく、破壊神の目的は成功して、ゆう姉は睦葉ちゃんとして次の代に繋がることができた、と」
「無事に育ってくれればそれだけで良いのだけどね。ボクとしては」
玲亜ちゃんとそんな話をしていたら、いつの間にか睦葉がボクの膝の上に頭を預けて寝息を立てていた。その様子を見て、長居しちゃったわねと一言遺して玲亜ちゃんは瞬間移動して帰っていった。
ボクは睦葉を抱きかかえると、そのまま彼女のベッドへ向かった。
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