間話の7 神議り


 睦葉が倒れたその夜。

 子供たちが寝静まった頃合いを見て、ボクは念話を送った。


『玲亜ちゃん、ちょっといいかな?』


『なあに?』


『ゆう姉の記憶が甦ったみたい』


『えっ? まさか』


『それがね、うちの睦葉が、どうやら鎌に触っちゃったみたいで』


『鎌って、確かアナタの実家に置いてあったわよね?』


『うん、ボクの部屋。二階だし普段はパパとママしかいないから大丈夫だと思ってたんだけど……、うちの家族で遊びに行った時に匠がドアを開けちゃったみたいで』


『タクミって、男の子の方よね』


『うん。匠が間違えて開けちゃったのを、睦葉が止めてくれたみたいなんだけど、その時に部屋に入っちゃって、思わずフラフラと近づいて触っちゃったんだって。そうしたら記憶が戻っちゃったみたいで』


『はぁ……、鍵くらい掛けておきなさいよ。肝心なところが微妙なんだからユウキは』


『……ごめん、本棚とかあるから入れないとパパとママが困るかなって』


『まあ、起こってしまったものは仕方ないわ。

 それで、彼女の様子は? ゆう姉に戻っちゃったりした?』


『いや、ゆう姉の記憶はあるんだけど、本人と話してみた限りじゃ自意識は睦葉のままみたいなんだよ。しかもね、ゆう姉の記憶はかなり前からあったみたいで。でもそれがなんなのか本人には分かっていなかったみたい』


『そう、わかったわ。自意識が睦葉ちゃんのままでしっかりとした自覚があるのなら、そう困ったことにはなりそうにないわね』


『このまま様子見で良いかな?』


『そうね。いずれにせよ手の打ちようもないしね。あとは睦葉ちゃん次第。

 それから、彼女の力の方はどうなったかしら?』


『そっちは変化があったかどうか分からないね。今まで以上の力になっているような様子は見られないけど』


『基本的には能力だから、本人以外にはわかりにくいものね。でも、今まで見えなかったモノが見えるようになっているくらいは可能性があるわね。

 まあ、彼女は賢いから、困ったのならアナタにちゃんと相談するでしょ』


『だと良いんだけど』


『アナタの子なんだから、もうちょっと信頼してあげなさいな』


『うん……、あ、あとそれから』


『なあに?』


『ボクと玲亜ちゃんの正体、睦葉に教えたよ』


『ああ、まあ、それは仕方がないわね。

 記憶が戻った流れでアナタが説明する時に、転生のこととか喋ったんでしょう?』


『その通りだよ、よく分かるね』


『それ抜きにして、他人の記憶があることの説明がつかないものね。


 ……まあ、分かったわ。そうね、また今度お宅にお邪魔するわね』


『えっ? ちょ、ちょっと待ってよ。なにしに来るのさ?』


『なにって、睦葉ちゃんの様子を見によ。

 力の具合とか、アナタだけじゃ分からないでしょ?』


『そ、そっか。……確かに、それはそう、かも』


『うんうん。

 それじゃそういうことで。また困ったら連絡をちょうだいな。


 ……ああそうだ、ワタシが見には行くけどお構いなくね? 勝手に行くし、姿は消していくから。アナタには見えるかも知れないけど、そこは気づかないふり、お願いするわ』


 こうして念話はまたも玲亜ちゃんの方から一方的に切られた。

 どう考えてもトラブルが起こる未来しか考えられないのだけど。

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