破壊神ちゃんは世界の破壊を望まない
はるきK
プロローグ 奇跡のはじまり
その日、ボクの努力が実った日。
高校の合格発表の日。
「
連れ立って結果を見に来た親友が隣から声を掛けてきた。
「いや、まだ追っかけてるところ、えーと……」
「あー、あるね、きみの番号も」
「えっ! 本当!?」
「195番だったよね?」
彼の声に急かされて、数字を追うボクの目も急ぐ。
そしてそれは、ようやく見つかった。
「……おお、おおおおおーっ! あった、あったあ!!」
「おめでとう、財部君」
ポンと左肩を叩かれて振り向くと、そこには彼の、まるで自分の事みたいに嬉しさを隠さない顔。
「
ボクも目一杯の笑顔でお返しする。
そして当然彼の答えは一つ。
「ああ、大丈夫だったよ」
「そうか。宇佐美君も、おめでとう」
「ありがとう。これでまた三年間一緒だね」
「うん。こちらこそ、よろしく」
その場で二人、固い握手を交わす。
こうしてボクたちは県内一番の難関校と言われる
中学で校内トップだった彼が合格するのは当然だったけれど、ボクは正直自信がないままここまで来た。だけど死にものぐるいの努力の果てに、奇跡は起きたんだ。
そして、入学式の日にも奇跡が起きた。
「あ、あった。僕は四組だ」
彼がそう声を上げた。その横でクラス分け表を追いかけていたボクの目にも自分の名前が映る。
「あれ? ボクも四組だ」
「ええ? 本当に?」
「間違いないよ、ボク四組13番だよ。宇佐美君は……3番だね」
「本当だ。こんな事ってあるもんなんだね」
本当に、こんな事ってあるものなんだと思ったところで、その光景が闇に溶けた。
§
電子音が響く。
ボクの意識は闇から抜け出してまどろむ。
右手が頭の上を越えて、音のする方へ伸びる。
そして、音が止んだ。
徐々に意識の輪郭が浮かび上がってきて、ゆっくりと開いたボクの目は黒い髪の散る木綿の丘陵を捉える。
「あ、夢か……」
リアルな夢だった。
その内容は現実にあったこと。だけど、今はボク以外の記憶からは消え失せた幻影。
高校の合格発表も入学式も、わずかに数ヶ月前の事だったはずなのに、その光景の中にいるボクも、彼も、そのままのカタチではもう存在しないなんて、神様のイタズラは残酷だ。
意を決してむくりと起き上がった。
目前に見えていた丘陵はなだらかに起伏する枕、その向こうには目覚まし時計。
時刻は、六時半……朝。
ベッドの上で座り込んで、軽く伸びをする。持ち上げた腕の動きにつられてパジャマを押し上げる胸の感覚。まだちょっと慣れないそれに戸惑いを感じながら、カーテンが閉まって仄暗い自室を見渡す。
その時、書棚のガラス扉に映ったのは、黒い髪を長く伸ばした女の子の姿。
それはボク、
男の子のはずだったボクという存在は、連休明けのあの日、親友の見ている目の前で永遠に失われた。親友とボクが培ってきた七年間の関係と思い出と共に。
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