破壊神ちゃんは世界の破壊を望まない

はるきK

本編 破壊神ちゃんは世界の破壊を望まない

第1章 リセット人生、はじまる

第1話 告白してきた女子生徒

 それはお昼休みの冒頭で、四限が終わって先生が去って、教室が喧噪に包まれ始める頃に突然やってきた。


「このクラスにユウキって子がいるのは調べが付いてるわ! 出しなさい!」


 よく通る高い声があり得ないくらいの大ボリュームで教室の入り口から飛んできた。

 一瞬で静けさを取り戻した教室、その場にいた全員が否応なしに戸口を見る。

 当然ボクの目もそこに立つ一人の女子生徒の姿を捉えていた。


 やたらと目立つ鴇色ときいろの髪が、両サイドの高いところで留められて、いわゆるツインテールだろうか。

 うちの高校の制服を着ているので、間違いなくうちの生徒なんだろうとは思うけれど。


「ちょっとアナタ! ユウキって子はどこ? 教えなさいっ!」


 戸口に一番近いところの席で座っていた男子生徒が、その乱入してきた女子生徒に胸ぐらを掴まれて詰問されていた。


 このクラスに『ユウキ』と名の付く人間はボクしかいない。だから彼女の狙いがボクなのはすぐ分かった。

 本心ではこんな騒ぎに巻き込まれるのはゴメンだったけど、さすがに放っておくと危険な気がしたので、ボクは渋々返事をする事にして立ち上がる。


「あの、優樹ゆうきはボクですけど、あなた誰ですか?」


 彼女の目線がボクに注がれる。男子生徒を掴んでいた両手がパッと離れたと思ったら、次の瞬間に彼女はボクの目の前にいた。


 教室の端から端へ、本当に一瞬にして目の前に現れた。

 しかも、彼女の長い髪が少しも動いていなかった。

 たぶんその場にいた誰もが、今何が起きたか分からなかっただろう。


 一拍置いて、クラスのみんながざわつき始める。


 どう考えてもあきらかにこの女子生徒はヤバい、そう思って身を固くすると、彼女は満面の笑みでこう言った。


「やっと見つけたわ。ワタシのツイになる存在」


 そう言ってボクの腕を掴んだ。


「え?」


 対? 対ってなに? もしかしてお互い触れちゃうと大爆発起こすとか、いやそれは対消滅だし。普通に考えれば彼氏彼女ってこと? いやいや、ボクはこんな女の子見た事も聞いた事もないし、そもそも今までの15年間モテたことなんて一回だってないし。それともあれかな、陰と陽とかそういう? いやいやいや、人間で陰と陽とかどういう括りですか。それとも彼女が魔物だとかそういうコトなのかな?


 そんな事を考えていたら、クラスの視線がボクに集中してきた。

 特に男子の視線がものすごく痛い。

 『怨嗟えんさまみれた』って多分こういうのを言うんだろうな、なんて考えていたら、彼女も視線の集中に気がついたのか


「ここじゃ人の目があるから、アナタこっちに来なさい」


と言うのが聞こえて、掴んでいた腕が軽く引っ張られた。

 そのとたん周りが急に明るくなって、眩しさに思わず目をつむる。


「はいはい、ここなら誰もいないし危なくないから目を開けなさいよ」


 恐いから目を開けないわけじゃないのだけれど、と思いつつ、ボクはソロソロと瞳を光に慣れさせながらまぶたを開けていった。


 目の前にはさっきの女子生徒が両手を腰に当てて立っていた。

 ボクは目だけ動かして周りの様子を確かめる。


 晴天の青空が見える。

 一瞬で建物の外に出たのだと、そこでようやく気がついた。

 彼女の背後には出入り口の扉、左右にはフェンス。


 どうやらここは校舎の屋上みたいだ。


 彼女の顔は笑みを浮かべていて、でも目だけは真っ直ぐボクを見つめている。

 そのままじっと瞳を見ていると、彼女の頬が赤くなってきて、それから怒ったような顔で声を荒げてきた。


「なっ、なによアナタ! さっきからワタシの顔無言で睨みつけてっ!」


「い、いえっ。睨みつけてなどいません」


 さっきまでほほえみを浮かべていた顔が、今にも吠えかかりそうな表情になっていた。

 そしてイラついた感情をなんとなく感じる。


 放っておいたら今度もまたさっきの男子生徒のように掴み掛かられるのかも知れない。

 その被害者は、今度はもちろんボクなんだけど。


 とにかくなにか喋らないとこの場は収まりそうにないと直感した。

 少しかがんで彼女を見上げるような姿勢で、ボクは彼女に問いかける。


「あ、あの」


「なによ?」


 彼女は腕を組んで少し斜交はすかいの体勢のまま、目だけ不機嫌そうにこちらを見てる。

 そんな彼女に向かって、ボクはおそるおそるさっきから気になっていたことを聞いてみた。


「あなた、お名前は?」

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