第6話 決断と覚悟
俺はアズールの大工職人たち、クミアイのドルトさんたちを引き連れて、再びリーテを訪れていた。
今日はオリーブも一緒だ。
シェイリーも一緒に来たがったんだけど、アズールで頼みたいことがあって、今回は残って貰った。
今頃、ジルクさんとふたりで忙しく動き回ってるハズだ。
今はクロノスの案内で町外れの小屋に避難するリーテの人たちの保護に来ている。
ボロボロでところどころ壊れている木製の小屋。
クロノスはそのドアをソッと開けた。
『みんな無事だったか!!』
『『おおぉ!!クロノス様っ!!』』
『あっ!クロノス様だっ!!』
そこにいたのはクロノスが言っていた通り、わずか数人・・・たった5人だった。
そのうち、子供が3人。
助けを信じて待っていた大人たちは安堵の表情を浮かべ、子供たちはクロノスを見るなり駆け寄ってきた。
『良かった・・・良かったぁ生きてた・・・修也様!残されたリーテの民を気にかけて頂いてありがとうございます。・・・本当に。』
子供たちを抱き寄せたまま、肩を震わせてお礼を言ってくれる。
まぁ俺はただ保護しただけなんだけどね。
守りきったのはクロノスだ。
『クロノス・・・。当然だよ、リーテは俺の領地だからな!守る義務がある。』
俺はクロノスの肩を叩いて少し笑う。
『有り難き幸せでごさいます!!本当に本当に・・・』
『ハハッ・・まぁまぁ、わかったよ。ありがとな。』
少々厚っくるしいところもあるが、それもこの状況下だ。
数人でも町の人を救えたこと、またリーテを復興出来るチャンスを与えられたことで、熱くなってしまうのだろう。
『あの、クロノス様、そちらの方々は?』
『ああ、こちらの方々はアズール村の人達だ!わざわざリーテを復興させるために来てくれたんだ!そして、コチラの方はアズールの新しい領主、修也様だ!そしてこれから、我が町リーテも納めていただくんだ。』
『で、ではダンテ様は・・・』
クロノスは目を伏せて首を横に降った。
『・・・でも、大丈夫!!修也様と一緒に必ず俺が復興してみせる。親父と同じように俺はこの町を愛しているからな・・・』
『はぁ・・・・・さて、領主様。いったいこれからどうしましょう?リーテの住人がこれだけじゃあ、復興するにしたってどうにもなりませんし。』
ドルトさんはため息をつくと、俺に質問する。
『私とアズールの職人たちを連れてきたということは、何か策があるのでしょう修也様?』
『おっ、さっしがいいなオリーブ。みなさん!聞いてください!!これから、俺は2つの行動を起こします。』
俺は敢えて、大きな声でハキハキと話始める。
なぜなら、人は絶望を感じた時、頼りになる人間がいれば全面的な信頼を預ける。
それはその人間が『希望』だからだ。
それをリーテの残された人たちにも感じてほしかったんだ。
『ほほう、して2つの行動とは?』
『はい、ひとつはリーテで早急に家屋を作り、リーテに住んでくれる者を募集、支援することです。そして、水の都リーテを新しい観光地として生まれ変わらせ、財源を確保します!』
『あらあら、では私は今回も木材の伐採と運搬がお役目ですのね。でも少し複雑だわぁ。ドライアドって森を守る精霊のようですし。』
あははは。確かにそうだが。
誰が教えたんだ!!・・・・・あ、俺だ(笑)
『移住と観光地化・・・ですか。恐れながら、うまくいくとは思えませんな。』
『こんな今も危険に晒されている町に住もうなんて奴はいないだろうな。それに、観光地にしたところで、集客が見込めないし。』
ドルトさんとクミアイの人間たちは絶対に無理だと口々に抗議する。
『早急にっつったってヨォ、いったいいくつ家を造る気なんだい?町を一つ造るっつうなら、魔法を使ったって、1年はかかるぜぇ?』
大工たちも俺の言葉が無茶苦茶に言ってるように聞こえているみたいだ。
あーあ、これじゃブラック企業のアホ社長じゃねーか・・・。
なんてね、俺に抜かりはないっっ!
エリート営業マンの本領発揮といきますか!
『どれも実現は可能です!そのための作戦も毎日毎日考えて、練りだしました。今、水面下でシェイリーとジルクさんも動いてくれている・・・。リーテは半年で復活、元の住人たちが魔獣化から解放されたらその時、リーテは更なる飛躍を遂げるんだ!・・・でもそれにはお金がどうしても必要になる。再雇用だってしないとみんな生きていけません。だから、俺達はリーテを一刻も早く、住める環境、働ける環境を造りださなきゃならないんです!』
どうだ俺の熱弁は!!
これぞ、みんなを導く為のリーダーシップ。
明確な目標を設定し、なんのために働くのかをきちんと伝え、なおかつリーダーとしての自身を見せつけることで、信頼を得る!!
『だから、1年は掛かるって言っただろうが!!それに材料費だってばかにならねぇ、そんな金、どこにあるってんだよ!!』
『そうです!アズールの皆に負担をさせてしまえば、領主様への信用も地におちてしまいますぞ!!』
ふっ。
やっぱりそう来るよね~。
ならば、いっちょ解説してやりますか!
『みんな、落ち着いてください。これは、なにも皆さんやアズールのみんなに無茶を要求するものじゃないんです。その説明には俺の、二つ目の行動を発表しなければなりません。今まで外部に漏れて事の進行に邪魔があってはいけなかったので黙っていたんですが━━━━俺は、アズールとリーテを領地とし、他国に独立宣言をします!!!!!』
『ど、独立宣言ですと!!あれは魔王を倒しエイトフィールド国を取り戻す為に、アズールの領主となることを内々のみで許可されたもの・・・そんなことをすれば、他国の王達から国家反逆罪で殺されかねませんぞ!!』
『大丈夫ですドルトさん。そのためにシェイリーとジルクさんに動いて貰っていたんですから。』
『わ、私たちの知らないところで・・・いったいなにをされているんですか!!?』
『えぇ。実はシェイリーとジルクさんにはエイトフィールド国の4つの隣国、スナイデル、ローテマキア、ニクルス、コルドーの王達に会いにいって貰ってたんです。その・・・黙っていてすみません。それで、協力的な国を探ってくるよう指示を出しているんです。』
『探る・・・ですと!?』
そう、いきなり独立したいなんて言ったら、どの国王も聞く耳さえ持たないだろう。
それどころか捕らわれてなにをされるかもわからない。
それならば、魔王討伐の為に異世界より召喚した俺の存在を知ってもらい、協力すれば自国に損害を与える前にエイトフィールド国内で魔王討伐を達成する、だから協力してほしいとだけ伝えて貰っている。
上手くいけば、資金援助と魔王討伐の為の手助けをしてくれるかもしれない。
例えば、軍隊の派遣とかね。
しかし、見極めは必要だ。
私利私欲に生きる国王や野心的な国王では、のちにエイトフィールド国自体が乗っ取られてしまう場合がある。
それでは意味がないからな。
『そうです。探りです。そしてそのうち、スナイデルとローテマキアでは王に会うどころか門前払いされてしまったようです。たぶん、面倒ごとには巻き込まれたくないのでしょう・・・』
『危険過ぎます!各国の王達とて、いつ自分たちの国が襲われるかと言うときに、私たちに構っている場合などではないはずです!!それに、下手をすると後々、侵略を考える可能性だって━━』
『だけど!!もし協力を申し出てくれた国があるとすればどうします?・・・南西の小国"コルドー"ですよ。明日、俺はコルドーの国王に会いに行く。なぜ、コルドーの国王が俺に会ってくれるのか、ドルトさんならわかるハズです。』
『コルドーが!?・・・まさか・・・。しかし、コルドーならば━━━。コルドーはかつて、小国ゆえ食料の自国生産が間に合わず、内紛の絶えない国だった。そこに我がエイトフィールド国王であるガルド様が支援の手を差しのばされて食料問題は解決、内紛は沈静化していった・・・以来、友好国として付き合ってきたんだが。いやしかし、何度も言いますが所詮は小国。いったいなにが出来るというのです?』
確かに、コルドー王国は小さく、さほど影響力のある国ではないようだ。
ドルトさんの言うとおり、食料問題に陥るくらい人口に対して国土が狭く、兵力もまともに揃わず、せいぜい城と国境を守るのがやっとの程度。
しかし、食料問題の最中、エイトフィールドが力を貸して以降は国民の団結力は強固なものとなって、今では製鉄の分野が発展し武器や武具の生産分野では世界トップと並んでいるらしい。
『小さいからと言って過小評価するのは横暴ですよ。コルドーの国王には今度の"レヴェリー"(世界会議)で発言してもらい、俺の領地を正式に"国"と認めて貰うように申請して頂きます。もちろん、難しい案件、危険な案件であるのは承知の上。だから、俺も同行させて頂き、レヴェリーにて発言権を与えてもらえるようお願いしてみるつもりです。』
『なぜにそこまでする必要があるんです!!コルドー国王や国民たちになにかあれば申し訳がたたない!!』
『魔王を倒すためだドルト!!いい加減にしないかっ!!・・・俺はエイトフィールド国をまるごと救うと決めた。そして・・・魔王討伐の後には、エイトフィールド国王"ガルド=エイトフィールドに全てを返すとシェイリーやガルドさんにも誓ったんだ。そのためには強くならなくちゃいけない。恐れていては前に進めない。例えどんな悪い状況下でも俺は人々の暮らしを守らなくちゃいけない。ドルト、お前だってガルド国王やジルクさんを見ていたら解っているハズだろう?』
俺は、敢えてドルトさんに対する呼び方や口調を変えた。
それは、俺の"絶対的な意思"をここにいる全員に標すためだ。
『・・・これは俺の決意だ。俺はそれだけのものを背負ってここにいる。再度問うことになるが・・・ドルト、俺に任せてくれないか。』
『領主様・・・・・・大変、失礼を致しました。やはりあなた様はジルク様やシェイリー様が認めたお方です。私などが意見する方ではなかった。お国が成立した際にはぜひ・・・私めを臣下に置いてください!!』
『ドルト・・・その時はぜひ力を貸してくれ!』
『ハッ!!』
ドルトさん・・・いや、ドルトは片ひざをついて涙を浮かべてそう言った。
ここにもひとり、国を思う英雄がいた。
『俺たちゃあただの職人だ。建物を造るしか脳はねぇが、いまのあんた・・・いや、領主様の話を聞いて、心底熱いもんが混み上がって来やがった。早く製図と日程表を渡しなァ!!やってやるぞ、なぁみんなァ!!』
『『『おおおおおおおおおっっ!!!』』』
『あらら、私も文句を言ってる場合じゃないですねぇ。修也様、早く私をドライアドにしてくださいまし。職人さんたちに怒られてしまいますわぁ♪』
職人たちにも気合いが入ったようだ。
オリーブも張り切っている。
おっと、俺としたことが間違えたな。
━━前言撤回だ。
今動いてるみんなが未来の英雄だ!!
『俺を忘れては困りますよぉ!俺だって、領主様に着いていく決心をしているんですからねっ!!』
『そうだな、クロノス。お前もジルク様に啖呵を切るくらいリーテを思っている。ならば国を思い主君を思う気位は十分に持っている。お前はもう、領主様の立派な臣下だよ。』
『ドルトさん・・・あり、ありあり・・・ありがとうございまひゅぅぅ。』
おいおいと泣きじゃくるクロノスの肩を叩いてドルトは励ましている。
俺の臣下(になる予定)たちはどいつもこいつもバカに熱くバカに涙もろい。
だけど、そのバカたちの総大将はこの俺だ。
バカはバカらしく非常識なやり方で、エイトフィールドを再建してみせる!
『さ、ドルト、クロノス。俺たちも行こう。時間がないぞ!やることはいっぱいあるんだからな!!』
『『ハッ!!領主様!!』
問題は明日。
コルドー王国との謁見。
俺の持つ"営業マン"としてのスキルの全てを全力で発揮する1日となりそうだ。
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