話術の勇者の国家再建(リフォーミング)

とも☆ちき

第1話 話術の勇者



商店街から少し離れた、まわりに田んぼしかない狭い土地に、ポツンとたつ古びたアパート・・・。


見るからに建物の塗装は剥げ落ち、鉄製の階段は錆びて穴が空いている。



ここが『最強』たる俺の今日のターゲットだった。



俺の名は月島修也。



こういった建物をリフォームする会社で働いている。


そして今日も、『月間成績トップ』をよ・ゆ・うで維持すべく、このアパートのオーナーを口説き落とす・・・とそう思っている。



これは自慢なんだが、俺はエリィーーートッッだ(フッ)



成績は常にトップ。

どんな案件だろうがさらぁーりとそつなくこなし、上司や後輩たちからの信頼も厚く、女子社員からもそりゃあ・・・・・・




いや、まあ、そこはおいとこう。




さて、戦いの始まりだ!




ピンポーン・・・



『こんにちは!「未来リフォーム」で・・・』



・・・・・・・ガチャ



『ジーーー』




・・・・・・・バタン



閉められた。

多分、3秒間くらい目があった。



目があってる間は気付かなかったんだが、あれは右手で確実に『kill-you』をやってた。



ぐぬぬぬ、くっそBBAめ。

超ミラクルスーパーエリート営業マンのこの俺様が来てやったというのにぃぃ~。



フッ・・・まあ、よかろう。

ここで引き下がるのは並の営業マンさっ。



俺は・・・超!ミラクルスーパーエリートだッッッ!!



『おっばちゃぁぁん、久しぶりだねぃ!元気にしてましたー?近くまで来たから顔だして見たんだよーう!僕の顔みて引っ込むなんてひっどいじゃないかぁぁぁ(笑)』



どうだ、これが『必殺、お友達作戦』!!

我ながら完璧なるへりくだり。



お近づきになり、信頼を掴みとって、あなたなら任せてもよい!と思わせる作戦だ!



『ふんっ・・・どうせまたリフォームの話だろ?つまらんね、帰んな!シッシッ・・・いやまぁ・・・芋ようかんがあるなら話は別だがねw(ニヤリ)』



BBAは小窓を開けると、超超ちょー上から目線でニヤリと笑い、俺を見る。



そして、当然俺のカバンの中には「芋ようかん」が入っていたりする。

まっ、エッリィィートだからなっ(フッ)



『ちゃーんとありますよ!芋ようかん。』


『ほほーう、さすがツッキーじゃのう。そいじゃまぁ、上がんなよ。お茶くらい出すでの。(・・・こやつ、いつの間にワシが芋ようかんに目がないことに気付いたのかね)』



なぜ、BBAの芋ようかん好きに気付いたかって?

そんなものは簡単なことだよ諸君!



前回このボロアパートに営業に来たとき、このアパートに住む光代ばあちゃんと一緒に美味しそうに食べてたことと、その前に来たときもゴミ箱の中に芋ようかんのパッケージが捨ててあったんだ。


そう!つまりこのBBAは芋ようかんが大好物って訳だよ諸君!!

って、誰に言ってんだろ俺。


芋ようかんを持ってきたことが正解だったお陰で、変なテンションで見えない脳内オーディエンスに話しかけちまったぜ!(フッ)



茶の間に案内された俺は、お茶を入れてきてくれたBBA・・・改め白井さんに真面目に切り込む。


『ところで、白井さんのこのアパートは築40年くらいですよね。かなり老朽化も進んで、8世帯住めるアパートなのに今は光代さん一人だけしか住んでない。ここはリフォームして、再度、魅力的な建物だとアピールして8部屋が全部埋まるようにしませんか!?このままだと赤字続きになると思うので・・』



白井さんの芋ようかんを食べる口が止まる。

一瞬、イラついたような表情を見せると、ふうっとため息をついた。



『今、ツッキーが言った通りだよ。赤字続きで貯金もだいぶ減っちまった。だから、キレイにしたくても金がないん・・・』


『その点は任せてください!』



思わず俺は立ち上る。



なぜなら、このアパートの経営状況をリサーチ済みな俺は、白井さんが貯金を切り崩しながら経営していることも、さりげなく光代ばあちゃんに聞き出して知っていたのだ。



そして、その額が50万円を切ったことも。



俺は、驚く白井さんを前にもう一度、落ち着いて座り直す。


『金がないんだよ!どうしようもないじゃないか・・・』


『白井さん、10万円だけ私にかけて頂けないでしょうか!?それ以上はいっさい頂きません!』


『たった10万円でなにが出来るんだい!アホなこといいなさんな。』



白井さんはとても10万円でリフォームできるだなんて信じられないという顔をしている。


まぁ、当然だろうな。

普通ならあり得ない。


しっかーし!俺には秘策があった。

まぁ、エッリィィートだ・か・らな(フッ)



『白井さん、実はうちのソーコに眠ったまま使われていない塗料(ペンキ)があるんです。この前から続いた大雨でキャンセルが続いて余ってしまって。で、社長からこの塗料(ペンキ)が使い物にならなくなる前にどこか塗らせて貰えるところを探してこいと言われてます。この塗料(ペンキ)をぜひ、格安で白井さんのアパートに塗らせて欲しいんです!』



もちろん、ウソだ。



そんな話は社長から頂いてはいない。



しかし、営業トップの俺は社長からの信頼も厚い。



「多分お前のことだから、マイナスでも後からきっちり利益をあげる・・・またなんか秘策があるんだろ?」

なんて言われている。



なので、10万円で建物を塗装することは本当になる。

別に塗料(ペンキ)はあまってなんかいない。



『10万円か・・・。このババアには例え10万でも躊躇するのぉ。』



白井さんの貯金は残り50万を切っている。

年齢を考えると無理もない。



だが!!



『白井さん!僕には秘策があるんです!!確かに40年たったこのアパートの外見はお世辞にもキレイとは言えません。しかし!白井さんは光代ばあちゃんと中身だけはキレイに管理してきた。各部屋は年数こそたっていますが、どの部屋もキレイなんです!!』


俺はありったけの思いをこのアパートと白井さんの為になる方法を熱弁する。


『実は、僕の祖父が経営するアパートが取 り壊しになる話がありまして。住民のみなさんにはご迷惑をかけることになりそうなんです。しかも、1軒はシングルマザー・・・他はご高齢の方ばかり。』


『そこで、祖父にまず相談して白井さんのアパートを紹介したんです。そしたら、例え築40年のアパートだろうと、そこまで管理が行き届いているなら、任せても安心だなと言ってくれました。それが丁度7世帯。皆さん全員が白井さんのアパートに入ってくれれば、経営は回復、また昔のような活気を取り戻すことが出来ます!』


白井さんは信じられないといった顔をしている。

でもそれは、もしそれが『現実』になれば凄いことだと想像している姿だった。


しかし、やはり経営者。

白井さんは我にかえると、


『そんなこと、本当に出来るのかい?第一、あんたのじいさんが良くても、住人たちが了承しなければ無理じゃないか。』


・・・まあ、その通りだ。

しかし、すでに手は打ってある。

超エッリィィートの俺にぬかりはない。




さあ、最後の口説きに掛かるとしようか。




『白井さん、これを見てください。』


俺はA4サイズの封筒から1枚の紙を取り出すと、白井さんに見せる。

そこには、祖父のアパートの部屋番号、借り主の名前、そしてーー。


転居の承諾のサインと判子が全世帯分記入されていた。

白井さんはその紙を両手にとってまじまじと見つめると、年輪を重ねた両目に大粒の涙を抱えていた。



━━もう、ひと押しだ。



『白井さん、こちらにも目を通して頂けますか・・・』


そこには、アパートの最高齢の恩田さんが、全世帯に呼び掛けて書いて貰った【嘆願書】があった。


・白井さんのこと、オーナーの月島さんから聞きました。私はそう長くは生きませんが、最後に誰かのお役にたてるなら、あなたのアパートでお世話になりたいと思っております。月島さんのアパートで長年暮らしておりましたので、名残惜しくもありますが、取り壊しとなると仕方ありません。月島さんにお礼をさせて貰う意味でも、ぜひあなたのアパートに転居させてください。恩田


・月島さんのお孫さんよりお話を頂きました。私には新しいとこはどうも性に合わなくて(笑)私はこの町が大好きなので、この土地で生活できるなら、とても嬉しく思います。

どうか、よろしくお願いいたします。高瀬


・はじめまして。月島さんのお孫さんにすっかり説得されてしまいました。私はシングルマザーで、お家賃のことを考えると白井さんの良心的なお家賃に魅力を感じました。至らない点があれば、わたしのおばあちゃん役をしていただければ嬉しいです。板野


『他にも、吉岡さん、花井さん、高岡さん、吉木さんも、全員が白井さんのアパートで暮らすことを快く了承してくださいました。1軒づつ、何度も通って、白井さんのアパートのことや白井さんのこと、全部話して来たんです。』


白井さんの両目に抱えた涙はとうとう頬を伝い始める。



そして、一度顔を下げて嗚咽をもらす。



ひとしきり泣いた。

そして・・・




『月島さん・・・お願いします。』




━━━落ちた。(フッ)




白井さんは初めて、俺のことを『月島さん』と呼んだ。


そして、丁寧に、深々と頭を下げてくれた。

俺にならこのアパートを任せられる、と思ってくれた瞬間だった。


『白井さん、任せてください!必ず、このアパートと白井さんに明るい未来を届けます!』



俺も、意気込んでそう伝えると、白井さんは少し笑ったようだった。



『では、この契約書にサインを・・・』



『・・ああ、わかったよ。あんたの話には人間味がある。でも、ちゃーんと、自分の会社の利益も考えている。どーせ、あんたのことだ、アパートの経営が回復した時には高いリフォームをすすめるんだろう?』



そう言うと、白井さんはいつも通り、意地悪にニヤリと笑いながらサインする。



『バレてましたかwおばちゃんにはかなわないな。でも、その時もきっと、最善の提案をさせて頂きますよ!・・・ご契約、ありがとうございます。』



さあて、担当者欄にサインをしてっと。

ん?


━━その時だった。

部屋の中に居るのにも関わらず、外に居るよりも遥かに明るい光が一瞬にして目の前に現れた。


目がくらんでよくわからないが、その光は大きな球体になり、なにやら中で人影のようなものが見える。



ちゅぃぃぃぃぃん・・・・・

ピッカァァァァアアアアンンッ!!!!!



え。

ちょなに?

え。


『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!??????』


サインをした瞬間、今度は自分が強い光に包まれた。

そして、確かにその声は俺の耳元で囁かれた。



『見つけた。心優しき勇者様。』



同時に、アニメやマンガなんかでよく見る魔方陣のようなモノが現れて、なにか強い力で地面に吸い込まれていく。



ええええええっっ!?



これあれだよね!?

ラノベ展開のアレ的なやつだよね!!?

あ、ラノベ読んでるなんて恥ずかしいから会社のみんなには内緒ね?とか見えないオーディエンスに言ってる場合じゃなぁぁあい!!



『いやさっきまでいい話だったじゃん!!お涙展開だったじゃん!!!( TДT)』







ポカーン。

はい。俺、異世界来ちゃいました。

うん、でもね。ポカーンだよねもう。


だって、あれってばフィクションじゃん。

だから、想像膨らんで楽しいんじゃん。


だって、いるんだもん。目の前に。

赤い瞳に銀髪がよく似合う、まさに異世界の美少女って感じの娘がさ。

しかもご丁寧に白いローブを被って、これまた赤い水晶の付いた杖を持ったいかにも魔法少女って格好だし。


その娘がなんか言ってるんだけど、だって俺の思考回路が仕事を放棄しちゃってるんだもん。

ショート寸前なんだもん。

いくらエリートの俺でもそりゃポカーンだわ。うん。



『・・様!勇者様!あれっ、なんか魂が見えるような・・・はっ!!?だっ、ダメです!魂さん抜けちゃダメぇぇぇ!!』



バチコーン☆



魔法少女ちゃんが俺をおもいっきりひっぱたく。

うん、・・・たぶんそれ逆効果だよ( ;∀;)



ようやくハッとした俺は、目の前の魔法少女ちゃんを見る。


『もしかして、俺をこの世界に呼んだのは君?』


『はい!あ、あの、わたくしシェイリー=ハイヤードと申します。このたびは、私とこの世界を守るご契約をしてくださり、ありがとうございます!!』


さすが、異世界転生モノ人気ラノベを読みあさっている俺だな。

なんとなくこの娘が俺を召喚したのはわかった。


でもね。


『俺はそんな契約はしていなーい!!この世界を守るってなんだよ!?魔王かなんかと戦えとか?はは、まさかね。だいいち、契約っていうなら契約書にサインしなきゃだもんね!俺そんなサインしてーー。』


『してますよ。ほら。』


『なんでやねーん!なんでそこに俺のサインあんの!?』


『白井さんて方の契約書とすり替えさせて頂きました!テヘッ☆』


『テヘッ☆じゃねぇよ💢だいたい、白井さんはどうすんだよ。あの人のアパートをリフォームしなきゃ、あの人大変なんだぞ!すぐ会社に帰って手続きしなきゃいけなかったのに、どーしてくれんだよ💢』


『あ、その点は大丈夫です!修也さんの名刺に書いてあった会社の住所に、転送魔法で送っておきました!』


大丈夫じゃねーよ。

その感じだと俺、突然失踪したみたいになってんじゃねーか( ;∀;)


『はぁ・・・まあ、異世界転生モノなんて、主人公の生活なんて無視されていきなり飛ばされるもんなぁ。』


もう来ちまったしなぁ・・・異世界。

受け入れはえーなぁ俺。


まあ、エリートだ・・か・・らな、はは・・・ははは・・・ぴえん( ;∀;)



『で、勇者ってなんなの?やっぱ俺、魔王とかと戦うの?』


シェイリーは1度俺を見つめると、祈るように話し出した。


『・・・はい。勇者様とご契約させて頂いたのは、ここ、【アズール村】を魔王の手先から守って欲しいからです。』


アズール村ねぇ。

いかにも異世界っぽいネーミングだ。

まわりを見渡してみると、特に変わった様子はない。


『特に、変わった様子はないみたいだけど?周囲には無邪気に遊ぶ子供達もいるし、大人だって普通に農作業したり、近所らしい奥様たちが井戸端会議してる。いたって平和な村にしか見えないんだけど。』


そう言った俺を今度はキッと睨むと、シェイリーは下を向いた。


『今は・・・です。それも今夜、終わりを告げる。』


目には涙を浮かべ、泣かないようにこらえているようだった。


『終わりを告げるって。今夜なにかあるのかい?』


腰を落として顔を覗いてみた。

シェイリーは涙をこらえているのを知られたくないのか、すぐ後ろを向いた。


『これから、転移魔法で私の家をご案内します。私はおじいちゃんと2人で暮らしているのですが、そこで全てをお話します。』


『さっきの奴だよね。』


さっき、元の世界から俺を無理やりこの世界に連れてきた魔法。

地面の感触がなくなって底無し沼みたいに沈んでったときはスゲーびっくりした。


『ぜんぜん違いますっ!!さっきのは世界線を移動出来る上級魔法なんです。ただし、その魔法が使えるのは人生で1回のみ。かなりの魔力を消費するので、魔法の素質そのものを失う方もいて、2度と魔法が使えなくなる場合だってあるんです。』


『へ、へぇー。でもそんな凄い魔法使ってシェイリーだっけ?シェイリーは大丈夫なのかよ?』


『私も例に漏れずかなりの魔力を消費しました。あぁ、だけど、大丈夫です!私は一応、この「エイトフィールド国」領において、3大魔法士のひとりですから。さぁ、行きますよ!』


そう言うとシェイリーは両手を地面に向け、魔方陣を浮かばせる。


『さぁ、この魔方陣の中に入ってください!いっきに行きますよぉー!空間転移魔法、スペースムーブメント!!』


『うおっっ、うおおおおっ!!?今度は上かよおおおおおおおおおおっっっ!!???』




・・・。




ポカーン。



さっき、下だったじゃん。

下だと思って構えるじゃん。


『言えよ!上なら上だって!!』


『??・・すみません、気にしたことなかったので。あ、それより着きましたよ!』


ったく。

やっぱ馴れねーな。


確かに俺たちは空中に描かれた魔方陣から放り出され、小さな山小屋の前に来ていた。


ツル性の植物に至るところが巻き付かれ、ドアと灯りとりの小窓意外、なにも見えない。

・・・なにより驚いたのは、それが1本の大きな木の中に取り込まれている、という事実だ。


『す、すげぇ、さすが異世界といったところだけど、最近のラノベ原作アニメでもこんな家見ねーよ・・・』


『ラノベ?なんですか、それ。』


『あ、ううん、なんでもない。それより、おじいちゃん待ってるんだろ?早く行こう!』


『はいっ!行きましょう!』



魔法で作り出したであろう、不自然に階段のかたちになった木のねっこをのぼり、ドアを開けると、ひとりの老人がベッドに寝ているようだった。


『シェイリー・・・帰ったのか・・・!?そのお方は・・・ふむ、そうか成功したのか・・・危険なカケをさせてしまって、すまない。』


『ただいまお爺ちゃん。うん、やっぱりかなり魔力を消費したわ。でもこの村の人たちを守るためだもんね、なんとか頑張れたわ。』


『初めまして、お爺さん。俺は月島修也といいます。あ、そのままで大丈夫ですから、お話だけ聞かせてください。』


起き上がろうとしているお爺さんに横になっているよう促す。

お爺さんと言っても、まだ60代のような顔立ちをしている。

ただ、体の見える部分には無数のキズやアザが見てとれる。


『こんな有り様で申し訳ありません、『勇者』修也様。お許しください・・・そうじゃの、狭い部屋ですが、そこの椅子にお掛けください。今、アズールの名産『ベルム茶』を入れさせますので。シェイリー、頼む。』


どうやら、家の間取りはこの1室だけらしい。そこに簡易な台所とテーブル、食品棚、

お爺さんの寝ているベッドが置いてある。そのベッドの反対側には小窓があり、その下にあるソファーできっとシェイリーは寝ているのだろう。


『はい、ありがとうございます。』


俺が椅子に座るとさっそくお爺さんは話始めた。


『申し遅れました、私はジルク=ハイヤードと申します。このアズールで村長をやっております・・・そしてここ、エイトフィールド領内において、3大魔法士のひとりです。』


『え、3大魔法士って、確かシェイリーも・・・』


『ええ、そうでございます。3大魔法士とは普通なら越えられない魔力の壁を越えて、その強大なる力で国に尽くす者のこと・・・私もかつては先代のエイトフィールド国王に遣えておりました。孫のシェイリーも修行の末、その域まで達することが出来ました。しかし・・・。』


ふぅっと息をついて、遠い眼差しをする。


『お待たせしました。お爺ちゃん、あとは私が話すから。』


シェイリーはテーブルに置いた「ベルム茶」を差し出す。


液体は茜色に染まり、ほのかな甘いオレンジのような香りがする。

・・・なるほど、ベルム茶とはオレンジティーみたいなものか。


テーブルの向かいの席に座り、ベルム茶にひとくちつけて、まっすぐにこっちを向いた。


『私は本当ならば今頃、「現」国王、ガルド=エイトフィールド様に遣えているはずだったんです。だけど、ある時から国王様は変わられてしまった。・・・いきなり現れた魔王と名乗る男に付け入られ、それまでどんな国民にも気がけてくださっていたのに、急に苦しい圧政を強いたりして、それから・・・それからは魔王の手下が我が物顔で次々と町や村を襲って、無理やり土地を支配していきました。』


そう言ったシェイリーはまた、涙をこらえている。


『シェイリー、君やジルクさんは必死に泣きたいのをこらえている。魔王のやってきたことに対する怒りや憎しみもあるだろうが、まだ他に、抱えているものがあるんじゃないのかい?』



!!!!



ふたりとも一瞬、ハッとした顔をする。


『・・・私からお話します。全ての責任は私にあるのです。』

『責任?』

『はい、魔王が現れた時、かつて私に遣えた現魔法軍隊長のサンという男が私のもとに助けを求めに来ました。話を聞いた私はすぐに王都に出向き、魔王と対立。しかし強大な力を持つ魔王はあろうことか3大魔法士がひとり、アグルドを洗脳し私に攻撃を仕掛けてきました。・・・私の後ろには孫のシェイリーがシールド魔法で王都を守っておりましたので、引くことは許されませんでしたが、所詮は老いぼれ、とうとう力尽き倒れてしまいました。』




その後はシェイリーのシールド魔法も破られてしまい、王都は魔王に乗っ取られてしまったらしい。

そして、ガレキの中からかすかに息をしているジルクさんを見つけ出しなんとか連れて帰った━━と。


『なるほど、話はわかりました。だけどなぜ、この村にはなにも起きてないのですか?この村にも被害があってもおかしくないのでは?』


俺は思ったことをストレートにジルクさんに聞く。

だってそうじゃないか。

それだけ強大で凶悪ならば、こんな小さな村くらいとっくに襲っているはずだ。


『それは、お爺ちゃんがわずかに残った魔力で、アズール村全体にシールド魔法を張っているからです。・・・せめてもの報いにこの村だけでも守ってみせるって。だけど、それも今夜が限界。お爺ちゃんの魔力は燃え尽きてしまいます。・・・だ、だから、私はこの村を、エイトフィールド国を救ってくださる勇者様を探しておりました!!だから、あの・・・えっと・・うぐっ・・・うわああああんっ』


とうとうシェイリーは泣き出してしまった。

3大魔法士でありながら、エイトフィールド国を守れなかったこと、たったひとりの身内であるジルクさんが瀕死の状態であることをその小さな背中で背負っていた。


『・・・わかった、シェイリー。今日、この時点から君はもう泣かなくていい。魔王くらいこの俺が退治してやる!今日までよく頑張ったな。』


俺の手はいつの間にかテーブル越しにシェイリーの頭を撫でてカッコつけていた。


撫でながら、シェイリーたちにここまで悲しい思いにさせた魔王を許せないと、無性に腹がたっていた。


『おおっ、では魔王討伐を引き受けてくださるのですか?』


『自分で呼んでおいて申し訳ないんですが、とっても危険なんですよ?・・・下手をすれば死んでしまうかもしれな・・・』


シェイリーが全てを言い終わる前に俺は立ち上がる。


『俺は、お爺ちゃん子なんだよ。シェイリーもあっちの世界で見てただろ?アパート経営で困ってた白井さんに俺のお爺ちゃんを紹介してたところ。困ってるお年寄りをほっとけないよ。それにシェイリー、君に課せられた使命は、国を憂いて泣くことじゃない。国を案じて守り抜くことだ・・・そうだろ?』





━━窓の光がシェイリーを照らす。



光の筋が頬を濡らしていた。



シェイリーの口元がキュッと閉まる。



そして━━━



『はいっ!勇者様っ!!』



両手で涙を拭いたシェイリーはガタッと椅子を倒し、俺に抱きついてきた。


少しは安心してくれたのだろう。

まあ、こんだけせっぱ詰まっていたのなら、あんな無茶苦茶な『勇者契約』を無理やりしてきたのもわかる気がする。


俺ってばお人好し過ぎると思わないか?

なぁ、脳内オーディエンスたちよ。



俺は、シェイリーをそっと抱き締めてやった。


『まぁのう・・・そうじゃ、勇者様。魔王討伐の暁にはシェイリーを嫁に貰ってもらえませんかの?孫はあなた様に一瞬で惚れてしまったようだ。はっはっはっは・・・ゴホッグファッッ。』


『お爺ちゃんたら、ば、バカなこというからよ!!!』


シェイリーは俺の腕の中で顔を真っ赤にしている。

少しずつ顔を上げて俺と目が合うと、抱き締められていることを思い出したらしく、恥ずかしさの限界を越え、俺をバッと突き飛ばした。


くっそー、可愛いかよ!!

最初から可愛いとは思ってたけどね!!

あと、腹にクリティカルヒット!痛い!!


『でも、なんで俺だったの?勇者候補なら普通強そうなやつとか頭のいいやつとかを選んだ方がよかったんじゃない?』


まあ、ラノベ展開らしいっちゃらしいけどねっ!!


『そ、それは、修也様が凄腕の営業マンだからです。』


シェイリーはまだ少し赤い顔のまま、答えてくれる。


『せせせっ、正確に言えば、修也様の営業で使われているお言葉には、ひ、ひとつひとつに想いがこもっていました///言葉には言霊が宿ります。そそっ、それは、人々の心を動かす力にもなり・・・な、なによりその言霊に魔力が重なれば強力な暗示効果が期待できると思ったんでひゅ。あ///』



噛んだ。

なにこの可愛い生き物///

今度からジルクさんをお祖父様とお呼びする心の準備をしておこーう!!!


・・・ん、待てよ。

今、魔力って、言ったよな。


『あの、シェイリーさん?さっき魔力って言ったけど、やっぱり俺も魔法とかつかえるようになるの?』


『あ、はい。適性にもよりますが、私と契約したことによって、その魔力は共有されます。ただ、私の魔力も世界線転移魔法で枯渇寸前です。なので、共有できている魔力も微々たるもの。なので、鍛練や魔法力を高める武具によって、高めて頂きます。』



おおー!!お、おっ!!おおおおぅ!!!

歓喜!やっぱり俺も魔法が使えるようになるのか!!!さすが、ラノベ展開!!!!



よっしゃああああああああ!!!!



ま、エリート営業マンたる者、心の声は決して顔には出さないんだけどね!


『だ、大丈夫ですか、修也様?お顔が有り得ないことになっているんですがっ!?』


おおっとーう、俺としたことが押さえきれなかったかw

仕切り直してっと・・・


『適性にもよるのなら、やっぱり得意魔法や苦手魔法もあるってことだよね?適性を判断する方法ってないの?』


俺は必死に「普通」を取り繕って聞いてみる。


『有りますぞ。それを使えば何にむいているのか瞬時にわかります。シェイリー、出して差し上げなさい。』


ジルクさんの指差す先にある食品棚。その唯一鍵の掛かる引き出しをシェイリーに開けさせる。


そこから取り出されたモノは8角形の輪っかのような形をしていて、一辺一辺が赤や黄色、ブルーやピンクといったカラフルな色をしている。


『これは、私が造った魔導具で魔法士の適性や魔力値を即時に導き出すことが出来ます。使用方法は簡単で右腕に輪の部分を通して頂き、その腕を天井に向かって上げ、「我が適性魔法を導きだせ」と叫ぶだけです。』


『別に、叫ばなくても大丈夫ですよ!お爺ちゃんはその方がカッコいいからって、魔法士さんたちにそうさせていただけで。』


『あ、そーなんだ。あははは。』

(シェイリー、ジルクさんがっかりしてるぞ)


ま、ジルクさん、気持ちはわかりますよ!

呪文は叫んだほうがカッコいいもんねっ!



えーっと、これでいいんだよな。



『我が適性魔法を導きだせえええっ!!』


『あっ!!!!コレは!!?』

『おおおっコレは!!!!?』


部屋中を淡い光が包んだかと思うと、その光は8角形の輪っかに集まり始める。


そして、、、辺のひとつひとつが順番に光り、数字が現れ始めた。



赤・・・MP0

青・・・MP0

緑・・・MP0

黄・・・MP0

桃・・・MP0

橙・・・MP0

白・・・MP0


そして、最後の色は紫色だった。

紫・・・MP999



『あのー、なんか紫だけ数字、めちゃくちゃ出たんだけど、これって・・・?』


『・・・・有り得ない。有り得ないです!』

『ん?シェイリー?コレってやっぱりすごいの?』

『はい・・・凄く・・・。』

『凄く?』





『凄ーく、弱いです。』


へ?

今、なんて?


『各色はそれぞれの特性を現します。赤は炎系魔法や攻撃特化、黄色ならサンダー系やスピード特化、緑なら防御や回復といった感じに・・・普通、それぞれに数値があり、そのなかでも1番高いものが自分の適性魔法になるんです。でも、もしかしたら・・・ね、お爺ちゃん?』


ジルクさんは口笛を吹いて目を合わせない。


『有り得ないって、そういうこと!?0(ゼロ)なんて有りかよ!?で、でも、紫だけMP999って・・・。』


『そう、それも有り得ないんです。』


光が消えて、数字だけが残る。


『・・・一応聞くけど、紫ってなに?』


『紫とはそれすなわち洗脳や暗示、催眠といった魔法系統になります。普通、誰でも初めは1ケタなんですが・・・まあ、そのー・・・つまりですな、アレですよ。勇者様そのものはこの世界の誰よりも弱いのですが、洗脳や暗示の高スキルでレベルに合わせた強力な魔物や亜人といった者たちを操れるということですじゃ。』


ジルクさん、それってあまりにも他力本願なんじゃないっすか。

それじゃ俺、カッコよく戦えないじゃん。

がっくし。。。


『俺は世界最弱・・・か。』


『あ、でも修也様!確かに私もそのー、ちょっと驚いたんですが、あなたの力はきっと何かの役に立つはずです!』


『何かってなに?( ;∀;)』


『わかんないけど、きっとそうですよ!じゃないと私が困りますから!修也様の話術と魔術による洗脳や暗示が組み合わされば、きっと、いいえ、絶対この村や国を救う勇者様になるはずです!』



━━こうして、俺は話術超特化型の最弱勇者として異世界ライフをスタートした。


ステータス極振り過ぎんだろおおお!!!!























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