姫君革命

百合宮 伯爵

 革命の世紀。

 後世にそう呼ばれるのは、聖暦1700年台のおよそ百年に渡る、激動の時代である。


 西の果て、小さな王国から始まった革命は、やがて巨大な炎となり、大陸全土へと燃え広がった。

 この期間に、大小合わせ27の王国が打倒され、共和制へと移行。

 新たに産まれた国家群は巨大な連邦を形成し、王侯貴族の支配する国々と、互いの存亡を賭けて銃火を交わし続けていた。


 そして大陸の地図は、ある形へ収束していく。

 革命で産まれた連邦……新世紀の国家と、古き王侯の国々……旧世紀の国家群が、一つの帝国を挟んで対峙する形である。


 神聖アレストリア帝国。それが、その国の名。


 大陸最大の人口をようする北方の雄であり、諸侯の内で唯一、皇帝の称号を冠する君主をいただく国家である。

 大陸全土に影響力を及ぼす教会から、世俗の最高位と認められ、地上全てに君臨することを許された、王の中の王。

 それがアレストリアの皇帝位。


 それほどの権威ある帝国が、革命の炎に飲まれるか。はたまた旧世紀の盟主として、革命を叩き潰すのか。

 まさしく時代の分水嶺である。


 百年に及ぶ革命の世紀は、この古き帝国を終幕の舞台に選んだのだった。



 華やかな絶対王政の栄光は、過ぎ去りし幻。

 帝国14代皇帝ウェルナーは、対立する貴族と民衆の間で苦悩し続け、世を去った。

 後を継いだ長男、15代皇帝レオンハルト2世も、志半ばにして戦火に散る。


 そして。

 革命の足音が誰の耳にも聞こえ始めた聖暦1789年。


 ついに歴史は、一人の少女を表舞台へと導く。


 世界史にその名もたかき、革命の花嫁。

 後の「純潔皇帝イノセント・エンプレス」ミアリス・ラ・アルフェリス、時に十四歳。


 やがて神話となるその運命を、まだ誰も知らない。

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