ノブレス・オブリージュ

@ukonno

第一幕

カーショップでドライブレコーダーを取り付けてもらっている間、時間潰しのために駅前のデパートをふらふらし、近くの古本屋をのぞき、昼食にラーメンを食べるつもりだった。

久しぶりの一人の時間。スマホから流れる音楽をイヤフォンを通して聴く。最近のお気に入りの曲を無限リピートする。


古本屋までの行程は思惑通りに運んで行き、ちょうど良い頃合いと思い、ラーメン屋の前まで行ってみると、まったく営業している気配がない。電気はついておらず、外から見えるカウンターの椅子が二つ一組で重ねられていた。店に貼り紙はなく、外食サイトには年中無休としか書いていない。残念だったが諦め、駅の方に向かって歩いて行った。


ドライブレコーダーの取り付けが終わる予定の時間まであと30分くらい、さてどうしようかなと考えた。

喫茶店に行こうか、ファストフード店に行こうか、食べたくもないものにお金を払うのは嫌だから家まで我慢するか。

散々脳内で迷ったあげく、違うラーメン屋に行くことにした。


その店は駅前を通り過ぎさらに向こう側にあり、少し歩く必要がある。だけど、どうせ時間を潰しているのだ何も問題はない。


本命に振られた足取りは重く、とぼとぼと歩きラーメン屋にたどり着く。

店に入ってすぐの券売機で食券を買い、店員に渡す。

一つずつ間を空けたカウンター席に座り、持ち歩いている除菌シートで手を拭く。

ラーメンが運ばれてくるまでの少しの間に、電話がかかってきた。

ドライブレコーダーの取り付けが終わったらしい。


もう少し電話が早ければ、もしくは、もう少し歩くのが遅ければ、ここでラーメンを食べずに済んだのにな、と後悔する。

そうこう考えているうちに運ばれて来た。後悔ラーメンはうまくもまずくもなかったが完食した。店を出てイヤフォンを装着し、カーショップを目指し歩く。


駅前を通り過ぎようとしたところで、小さなチラシを持った人に声をかけられる。

小さなチラシに目をやると、ユニセフと書いてあった。


そういえば、数週間前に、家でも支援募金の話題があがり、妻と息子がやるとか言っていた。

ただ、やるとは言ったものの、まだ何もやっていないままだったはずだ。


後で調べると、あれは国境なき医師団の募金だったのでユニセフとは違ったが、大まかには同じ目的ではないだろうか。


こんな駅前で声掛けしていても誰にも相手にされていないのだろうなと不憫に思い、なんとなく足を止め、チラシを受け取る。


チラシを渡して来た若い女性は、6秒に1人の子どもが亡くなっていること、それでもユニセフなどの募金により昔よりは状況は良くなっていることなどを一生懸命に説明してくれた。


なんとなく断りづらい状況になってしまったこともあるが、ふと先日webで見た言葉を思い出した。


世の中はウイルス禍で大きな打撃を受けた人もたくさんいる。だけど自分には余裕があるのだから、子どもを作るか貰うかして育てるべきなんじゃないか。少し違うかもしれないが、それこそがノブレス・オブリージュなんじゃないか、というような言葉だった。


それこそ少し違うかもしれないが、こういう支援の募金をすることは私にとってのノブリス・オブリージュなんじゃないだろうか。そう自分に言い聞かせ、マンスリーサポートの募金を申し込むことにした。


もし、当初のラーメン屋がやっていたら、カーショップからの電話がもう少し早く来たら、縁はなかったかもしれない。


偶然かもしれないし、必然だったのかもしれない。

どちらにしても、助かる命があるなら、それはとても良いことだ。

これは偽善ですらなく、当然のことだ。そう思おう。

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