第82話「「「「誰っっ!?」」」」
「神楽坂〜、ファミレスで数学の宿題いっしょにやろうやーい」
「やだ。どうせ乃亜、写すだけでしょ」
「ねーお願いだよ神楽坂〜、さかのうえのかぐらまろ〜」
「誰だよ」
放課後の帰り道。
暑さの残る初秋の夕空の下、乃亜は神楽坂にダル絡み。しかし神楽坂は聞く耳持たずピシャリ。
その違和感に、乃亜は気づいていた。
「ねぇ神楽坂、なんか不機嫌じゃね?」
「……そんなことないけどー?」
いつもならこんなダル絡みにも、神楽坂はもう少し相手をしてくれるはず。
2人が仲良くなって2ヶ月ほど。さすがに小さな変化にも気づくというものだ。
「アンタまさか、まだ怒ってるの?下の名前知らなかったこと」
「そんなことないけどー?」
「しつけー!かぐらまろ鬼しつけー!」
「かぐらまろじゃないですーー! 」
乃亜にとっては些細なことでも、神楽坂はそこそこショックだったらしい。思い出してまたも頬を膨らませていた。
「分かったよごめんて南ちゃーん。みーなーみーちゃん」
「ムカつくから下の名前で呼ばないで」
「どないやねん!」
どうしたもんかと、乃亜は声のトーンを落とし、寄り添うように語る。
「さっきも言ったけどさー、アタシって人の名前覚えられない民なんだって。名前に興味が無いっていうかさー。山瀬ちゃんとか皆川ちゃんの名前も知らんし」
「…………」
「アンタは最初から神楽坂で、今さら下の名前で呼ぼうとも思わなかったから気にしなかった、ただそれだけだよ、ほんと」
乃亜なりに素直な気持ちを吐露する。が、神楽坂はいまだ納得していない様子だ。
「……じゃあ、えみりちゃんは?」
「え?」
「えみりちゃんはずっと下の名前で呼んでるじゃん」
追及に、乃亜は真摯に答える。
「そりゃだって、えみり先生の苗字はカジさんと一緒だし、ややこしいじゃん」
「じゃあ日菜子さんは?」
「もういいじゃん……」
「日菜子さんって呼んでいいですか、ってわざわざ聞いたらしいじゃん」
「むぅ……」
ヒナミチめ、余計なこと教えてからに。
日菜子を心で恨みつつ、対応する。
「日菜子さんは……お、お姉ちゃんだから?」
「答えになってなくない?」
「うるせーうるせー!なんかこうフィーリングがあるんだよ!人の呼び方にケチつけんな!」
「何それ!全然意味わかんない!」
「良いじゃねえか神楽坂って!カッケーじゃねえか!かぐらまろって呼ばれたいのか!」
「いーやーだー!」
そうこうしているうちに分かれ道。乃亜と神楽坂はそれぞれの家路に向かう。
別れ際まで、2人は言い争う。
「じゃあな、かぐらまろ!今晩こむら返れボケが!」
「乃亜なんて、口内炎できろ!」
「おまえなんてアレだ、目の前で電車の扉閉まって乗客に鼻で笑われろ!」
「乃亜なんて、ワイヤレスイヤホン接続できてないのに気づかず電車の中で音楽垂れ流しちゃえ!」
日常の地味に嫌な現象を言い合った末、2人はプイと顔を背け、別れるのだった。
◇◆◇◆
「なんだ神楽坂あの野郎、名前くらいで……」
ぶつぶつと独り言を言いつつ、乃亜は自宅マンションに到着。
いつものように自宅をスルーし、合鍵を開けて梶野家へ。
タクトが元気に出迎える中、靴を脱ぐ乃亜。
梶野の靴はなく、代わりに見慣れた学校指定の小さな靴が一足。
「今日はえみり先生がいる日か」
そうして乃亜は軽快に、リビングへ顔を出す。
「ちーっす!えみりせんせ……」
「えっ……」
ソファに腰をかけているのは、見知らぬツインテールの小学生らしき女子。大きな瞳で乃亜を見つめ、驚きの表情を浮かべたまま固まっていた。
2人そろって、叫ぶ。
「「誰っ!?」」
唐突なツインテール少女とのエンカウントに、乃亜は動揺を隠せない。
「な、な、何アンタっ、泥棒!?チビっこ泥棒!?」
「チ、チビでも泥棒でもない!あ、アンタこそギャル泥棒じゃないの!?」
「ギャル泥棒って何!?その場合ギャルは泥棒するの、されるの!?」
ピーンポーン。
「ピンポンじゃねえわ!それどころじゃねえわ宅配便!」
まだ見ぬ来客者にもキレる始末。
現場は大荒れであった。
同じく動揺するツインテールだが、ここで先手を打つ。スマホを取り出し……。
「け、警察警察……」
「ちょ、やめい!てかなんかデジャビュだこれ!」
ここで乃亜は、少女の服装を見て察する。えみりと同じ制服を着ていた。
「チビっこ、アンタもしかして、えみり先生の……?」
「ああ、何騒いでるのかと思った……」
ここで登場したのは、片手に靴を持ち、もう片方で洗濯物を抱えるえみりだ。
どうやらベランダで洗濯物を取り込んでいたらしい。
「え、えみり先生、このチビっこは?」
「チビって言うな!ちょっと梶野っ、何この変なギャル!」
「あー、分かった分かった。2人とも落ち着いて、ちゃんと説明するから……」
と、えみりが2人をなだめていた、その時だった。
「あははー了センパーイ。鍵空いてますよー無用心っすねー……」
突如現れたのは、ピンク髪の男。
馴れ馴れしい声を上げて登場したものの、リビングの光景を見てピタッと停止。
そして――。
「「「「誰っっ!?」」」」
4人による、奇跡のシンクロであった。
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