第56話 女子会はいいぞ。
これは、乃亜たちが温泉テーマパークへ行く1週間前の話である。
「お邪魔しマインド〜!」
乃亜えみり神楽坂の3人は14時過ぎ、そろってとあるマンションの一室に入る。
もちろん梶野家ではない。
梶野や乃亜が住む街から都心へ向けて5駅。賑やかな商店街を抜けたところに、彼女は住んでいた。
「はーい、いらっしゃい3人とも」
花野日菜子の自宅だ。
「日菜子さん、休日にすみません」
「良いのよ神楽坂ちゃん。今日は何の予定もなかったから」
「わーオシャレな部屋、さすがデザイナーさんだー」
「これくらい普通だよ、えみりちゃん」
「うぇーーい、絵なんか飾っちゃって日菜子さんよーー!ニューエラ気取ってんなぁーーーー???」
「乃亜ちゃんは慎ましさを覚えようか……」
日菜子はベッドではしゃぐ乃亜をアイアンクローで「ぐおぉ……」と悶絶させながら、えみりと神楽坂をソファへと促した。
なぜ日菜子宅で梶野を抜きにした女子会が開催されることとなったのか。
そこには翌週の行楽予定が関わってた。
「日菜子さん、本当に行かないんですか?」
えみりが尋ねると、神楽坂も呼応する。
「もったいないですよー。新しくてキレイらしいですよー、温泉テーマパーク」
「行きたかったけどね。地方から友達が来るんだ。このチャンスを逃すと、なかなか会えない子だから」
何とも言えない理由に、えみりと神楽坂は「オトナって大変なんですねぇ」としみじみ納得。
ただ乃亜は、それでもぶすっとしている。
「へんっ、ほっとけほっとけ!日菜子さんからしたらアタシたちよりもその友達の方が大事なんでしょーからね!」
「まあね」
「否定しない!?『まあね』じゃねーし!『そんなことないよ』って言えし!」
地団駄を踏む乃亜を前に、えみりと神楽坂はこそこそ会話する。
「スネてるねぇ、乃亜ちゃん」
「大好きだからね、日菜子さんのこと」
「恋敵のはずなのにね」
怒りによって誘発され、乃亜はもうひとつ日菜子への不満を思い出した。
「言っとくけどっ、この前の電話のことも忘れてないからね!」
数日前、乃亜との通話において日菜子は、珍しく挑発的な発言をしていた。
以下が、特に怒りを買った一言だ。
『それにどうせ大したアピールできないでしょ。乃亜ちゃんは意外とヘタレだからなぁ』
「誰がヘタレじゃいオラァ!」
「いやヘタレでしょ」
「うん。乃亜ちゃんって基本は積極的だけど、場合によってはヘタレになるよね」
「乃亜、実はTPOわきまえてる説あるよね。梶野しゃんと2人きりじゃないとヘタレだし」
「うがーーーー!!!」
失礼な分析をされ、乃亜は獣のように吠える。
「見てろよキサマら!真夏の湯けむりラッキースケベで、カジさんのハートを根こそぎ奪ってやるからな!待て来週!」
そして来週、大方の予想通り大ヘタレっぷりを露呈することになるとは、夢にも思っていない乃亜であった。
話は脱線したが、きょう日菜子の家で女子会が開催されたのは、来週同行できない彼女のためなのだ。
「これじゃ日菜子さんだけが仲間外れになる〜そんなのダメだ〜って、乃亜が言い出したんですよ」
「おい神楽坂!テメェ神楽坂!」
神楽坂の暴露に、乃亜は途端に顔を真っ赤に染める。
「あぁ、だから急に女子会やるって話になったんだ」
「違うし!いまのは妄言だ!撤回しろ!」
「本当に乃亜ちゃんの優しさは五臓六腑に染み渡るねぇ」
「飛び降りるぞ!いい加減にしないとここから飛び降りてしまうぞ!」
ちなみに今回は女子会とのことで男子禁制。なので梶野は自宅でタクトとお留守番であった。
日菜子は来客用のティーカップに紅茶を注ぎ、乃亜たちはデパ地下で購入してきた焼き菓子を広げる。
舞台は整った。
女子会 in 日菜子家の幕開けである。
下は小6から上は24歳まで。
しかし女子が4人集えば、話題は尽きることはない。
4人はかしましく何でもない話で盛り上がる。
特に、この4人が集まって話題にならないわけがない、梶野に関する会話は大いに展開した。
以降、一部抜粋。
Q:梶野の良いところは?
「そりゃ鬼ったけ優しいところっしょ!アタシを見る目の優しさときたら、バキバキに掻き回したメレンゲの如し!」
「何があっても弱音を吐かないところかな。でも目に表れるから結局分っちゃうところが可愛いよね」
「初対面でも親身になって相談に乗ってくれるところかなぁ」
「ここぞという時に見せる信念の強さかな。普段は柔軟な人なのに、譲れない場面だと本当に頑固」
Q:梶野の微妙なところは?
「靴下はまぁ……嫌いじゃないけどね」
「靴下のセンス、ちょっとすごいよね」
「あの色と柄の靴下を選ぶのって、勇気いるよね」
「オシャレと言えなくもない、微妙なラインにあるよね、あの靴下」
Q:梶野の気になるところは?
「結局、元カノのキョーコちゃんって誰なのよ!」
「見たことあるのは、えみりちゃんだけなんだっけ?」
「1回だけね。キレイな人だったよ。でも何の仕事をしてる人とかは分からない」
「社内とか取引先にはキョーコって人はいないし、大学時代に関わりがあった人なんじゃない?」
「うがーー気になるーーー!一度顔が見たいーーー!」
初の女子会は大いに盛り上がっていた。
だがその最中、突如として乃亜が「フッフッフ」と不穏な笑い声をあげる。
「皆の衆、ここでひとつゲームと洒落込みましょうや」
「あ、いいね。何しようか」
「ウチはトランプくらいしかないなぁ」
「良いですね、大貧民やりましょー」
「ええいっ、そんなありきたりなゲームで満足できるか!こういう時は、これしかないじゃろがい!」
そう言って乃亜は、テーブルにバンッとあるものを叩きつけた。
「そ、それはっ……!」
「まさかっ……!」
どよめく一同。
乃亜が取り出したもの、それは――番号が書かれた割り箸。
「王様ゲームじゃい!!!」
「おっさん臭っっ!!!」
王様ゲーム――それは禁断の遊戯。
共にプレーした者たちはもう二度と、元の関係に戻ることはできない。
参加者たちを極限まで親密に、あるいは取り返しがつかないほど険悪にさせる悪魔の遊び、それが王様ゲームなのである。
「いや、やらない」
「うん、普通にやりたくない」
「えーーーーー!!」
日菜子と神楽坂の冷めきった反応に、乃亜は腰を抜かすほど驚いていた。
「なんでなんで!?王様ゲームだよ!?」
「ヤダよ、合コンじゃないんだから……てか合コンでもやってる人いないよ、もはや」
「やろうよやろうよー!絶対楽しいから!」
「乃亜が王様になったら絶対エグいこと命令するじゃん。イヤだよ」
やりたくない理由を理路整然と告げる日菜子と神楽坂に対し、乃亜は子供のようにダダをこねる。
「やってみたいのー、かの有名な王様ゲーム!みんなでやるために頑張って用意してきたのに……」
「割り箸に番号書いただけでしょ」
「ツイスターゲームと迷ったんだけどさ」
「なんでどれも男女の距離を無理やり縮めようとするタイプのゲームなの……?」
その時、3人のやり取りを黙って見ていたえみりが一言。
「ねえ、王様ゲームって何?」
3人はキョトン。
乃亜は「そっか、知らないかぁ」と納得。
日菜子と神楽坂は「絶対に知る必要のない言葉を教えてしまった……」とやるせない様子だった。
「ルールは簡単だから、やってみたらすぐ分かるよ」
「そうなんだ。じゃあ私やりたい」
「えぇ!?」
好奇心旺盛な小6えみりは純真な瞳で参加を希望。
こうなれば乃亜は得意顔である。
「はーいこれで2対2!しかもこっちはアタシとえみり先生だから、自動的にやりたい派の勝利確定ー!」
「なんだその理論!」
「せめて納得できるロジックを用意しろ!」
こうして始まってしまった女子たちによる王様ゲーム。
果たしてこの4人はゲームを終えた時、これまでのように笑い合えるのだろうか――。
「「「「王様だーれだ!」」」
つづく
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