第57話 王様ゲームはいいぞ。
「「「「王様だーれだ!」」」」
穏やかな女子会の中で、突如始まった俗すぎる遊び、王様ゲーム。
最初に王の座を手に入れたのは、
「あ、私だ」
初心者のえみりだった。
いまいちルールが分かっていない彼女は「うーん」と考えたのち、命令する。
「じゃあ1番と2番が、3番にデコピン」
「お、初手としては王道……」
「ただし自分が何番かは自己申告制で、3番の人はウソをついても良いこととする」
「……ん?」
「3人で話し合いの末に、誰が3番かを予想してデコピン。もしも間違った人をデコピンしたら、罰として1番と2番に私からデコピンします」
「いや、それ人狼じゃ……」
「はいスタート」
王様えみりによる開始の合図に、3人は戸惑いながら顔を見合わせる。
しかしすぐに日菜子が動いた。
「はい!私1番です!」
それに呼応し、残り2人も申告する。
「はいアタシが2番!」
「いや私が2番だから!」
「はい決定!神楽坂が3番でーす!」
「いや違うっ、私は2番だから!信じて1番!」
「ウソつくな、悪名高き3番め!騙されないで1番!」
「囚人みたいだから番号で呼ぶのやめない?」
繰り広げられた知略の応酬。
2番と3番による壮絶な騙し合いに、困惑する1番。そしてその醜い様を玉座から見下ろす王様。
それは、後世に語り継がれるべき死闘となった。
「いや王様ゲームってこういうのじゃないっ!」
最後まで日菜子に信じてもらえず、計3発のデコピンを喰らった2番乃亜が叫ぶ。
「別のゲームになってたじゃん!てかえみり先生は今ので楽しいの!?」
「けっこう楽しかったよ。下々の者たちが死に物狂いで騙し合う姿が、滑稽で」
「デフォルトでマインドが王様!」
乃亜は改めて、王様ゲームとは何たるかを語る。
「よく聞いて、えみり先生。王様ゲームっていうのはね、頭の悪い人たちが頭の悪いことをやったりやらせたりするゲームなんだよ」
「ゴミみたいな解説」
「なんでそんなゲームをやりたいと思ったの?」
「だから王様の命令はもっとアホっぽいことで良いんだよ」
乃亜による偏見にまみれた講説を聞いて、えみりは難しそうな表情だった。
説明を終えたところで、早速2回戦。
「「「「王様だーれだ!」」」」
「あ、また私だ」
再び王冠の描かれた割り箸を見せつけるえみり。
先ほどの指摘を踏まえた上で、命令する。
「じゃあ1番と3番が……2人でお風呂に入って」
「すごいアホっぽい!!」
「アホなわりにエグい!!」
しかして、1番と3番は……。
「あ、アタシ1番だ」
「私、3番」
乃亜と神楽坂である。
顔を見合わせると、途端に乃亜が喚く。
「イヤだイヤだ!こいつと風呂なんて!」
「わ、私もヤダよ!恥ずかしい!」
「2人で入るなら浴槽の半分くらいでいいよね。半身浴コースで設定、と」
「やめろ家主!悪ノリが過ぎるぞ!」
「王様の言うことは絶対でーす」
ニヤニヤしつつ風呂の準備をする日菜子。神楽坂と乃亜はえみりの前で土下座だ。
「まず2人で背中を洗い合って、その後2人で肩まで湯船に浸かって5分間ね」
「いやーキツいって!女同士でそれはキツいって!」
「乃亜ちゃんが言ったんだよ。アホっぽい命令にしろって」
「アホにも限度というものがあるっしょ王様!」
「てか日菜子さんちの風呂なんて絶対狭いでしょ!2人で入るなんて無理だよー!」
「確かに!ヤダよアタシ、変な毛が浮いてる風呂とか……」
「うっせえガキどもっ、さっさと脱げオラァッ!」
その後、えみりと日菜子はのどかに紅茶を飲みながら、風呂場から響いてくるJK2人の声に耳を傾ける。
「おい神楽坂っ、絶対変なところ触るなよ!」
「触らないよ!ほら洗うから大人しく背中向けて!」
「おぉい横乳ぃ!横乳タッチ&ゴーすな!!!」
「乃亜の胸って意外と……うわぁ」
「うわぁって何だよ!!!」
5分後。
「ちょっと足絡ませないでよ!」
「仕方ないだろっ、こうしないと一緒に入れないんだから!」
「向かい合わせじゃなくてっ、重なり合った方が良いよ!顔見なくて済むし!」
「ヴァンパイアスタイルはイヤだ!密着しすぎてイヤなんだ!」
「そんな名前なの?……あっ、ちょっと乃亜の足の親指が……あっ、んっ」
「変な声出すなーーーー!!!」
10分後。
乃亜と神楽坂はホカホカ湯気を立てながら、両者ともに真っ赤な顔で戻ってきた。
「おかえり。どうだった、裸の付き合いは」
日菜子の問いに、乃亜が一言。
「……アタシたちはもう、元のアタシたちには戻れないかもしれません……」
いろいろなものを失った2回戦だった。
「もうやめよう乃亜……このまま続けたら絶対良くないことが起きるよ」
「イヤ、まだ終われねぇ……」
「乃亜ちゃん、ここまで一番ひどい目に遭ってるのに何故めげない」
「アタシが王様になるまで絶対やめない!1回王様になれば実質チャラだから!メンタルリセットだから!」
「ギャンブル狂の思考だ」
「知り合いのソシャゲ廃人が似たようなこと言ってたわ」
一度動き出した歯車は止まらない。
運命の3回戦へ。
「「「「王様だーれだ!」」」」
そこでついに、王座が移った。
「やったーーアタシだーーー!!!」
乃亜は割り箸を手に歓喜の雄叫び。
「うわぁ最悪の王が誕生した。崩壊するわこの国」
「黙れ愚民ども!そしてひれ伏せっ、アタシが王だ!キング・ちゃん乃亜だ!」
大いに威張るキング・ちゃん乃亜。
ここまでの鬱憤を晴らすため、とびきりエグい命令をしてやろうと熟考する。
そうして届いた、王様からのお達し。
「2番が3番の乳を揉みしだく!揉みしだくのだ!」
「うわぁ最低」
「合コンでやったら一発で出禁になるヤツ」
それでも命令は命令。
乃亜以外の3人は自身の割り箸を見る。
「あ、私2番だ。揉みしだく方」
日菜子がまず手を挙げる。
では、3番は……。
「3番、私」
手を挙げたのは、えみり。
揉みしだかれるのは、小6のえみりである。
日菜子宅のリビング内に「あっ……」といった気まずい雰囲気が流れる。
それでも王は非情だ。
「それじゃ2番、揉みしだいちゃってー」
「いやいやマズいでしょ!24歳が小6を揉みしだくのはマズいでしょ!」
「ダメです!えみり王にはさんざん酷い目に遭わされてきたんだ!ここで復讐せねば気が済まない!」
「大人げねぇー!」
王へ必死に抗議する日菜子。
すると彼女のもとに、えみりがスススと近づいてくる。
「日菜子さん、私を揉みしだくんでしょ?」
「へっ!?いやそんなこと……!」
「良いよ、揉みしだいても。私、我慢するから……」
「ッッ!?」
目を瞑るえみりに、日菜子は「ひょえぇ……」と顔を真っ赤に染めていく。
健気な小6の思いと、王による抑制。
追い詰められた2番は、決断する。
「……そうだ、王を殺そう」
「えっ」
まさかの一言にキング・ちゃん乃亜は目を丸くする。
「こんな下劣な命令、受け入れられぬ……ならば私はレジスタンスになる!」
「いや、あの……これ王様ゲーム……」
「その通りだ!えみり前国王の時代の方が、この国はもっと豊かだった!」
謎の流れに1番(神楽坂)も便乗。
1番と2番のレジスタンスは、困惑するキング・ちゃん乃亜に襲いかかる。
「人間を番号で呼ぶような王は、殺すべきだ!」
「いや、そういうゲームだから……」
「王政反対!王を晒しあげろ!」
「ぎゃーーー!!!」
その激しい光景を前に、えみりはしみじみと「王様ゲームってこういう遊びなんだねぇ」と呟く。
「ひえぇ〜、もう王様ゲームはこりごりだ〜!」
王は、ギャグ漫画のオチのような台詞を叫んだ。
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