7、

膝に手をおき、息をつぐ。

だが、後ろから迫る気配はない。

降りきれたようだった。

改札を抜けホームにつくと、ちょうど狙いの急行が来る。

わたしはその急行に乗る。まばらな乗客。

もうここまでくれば安全だった。


閉まりかけた扉の間から、何かが滑り込んだ。

荒い息。肩で息を継ぐ。よく知る学生服。

扉は固く閉まり、電車が進みだす。


「なんで、わたしに追いつけるの」

わたしは彼から逃げるのを忘れた。

額に汗の粒は湧き出してその鼻筋へ流れている。

ほんのすこし、改札で休んだけれど、それだけだ。

追いつけるはずがないではないか。


「はじめに、あなたを追いかけたのは去年のことなんだ。

あれから、僕は走り込んだ。

追いつけるように、今度追いかける時のために。毎日毎日走ったんだ、、、。

そして、それは今日だった、、、」


彼は顔をあげる。

後ろずさったわたしは、反対がわの扉まで追い詰められた。

壁ドンならぬ、扉ドンだ。


「そして、ようやく追いつけた」

「去年からずっと走りつづけたということ?」

にっこりと快心の笑みを彼は浮かべる。

「そう。手紙にも書いたけれど、僕の名前は、藤崎啓司。あなたにとっては晴天の霹靂かもしれないけれど、僕にとっては一年間、あなたのことを思い続けた止むにやまれぬ結果の行動なんだ。どうか、山吹さくらさん、つきあってください」


ヒュー、と誰かが口笛を吹いた。

顔が真っ赤になる。

同じ車両の全員の視線が集まっているような気がした。

顔を伏せている人でも、きっと耳はダンボだ。


生まれて初めて告白されたのだった。



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