来るべき時が来た! ⑤

 その後しばらく経って分娩室を出たレナは、ユウとスタッフに付き添われて病室に戻った。

 病室では、ハルがソファーに座りリュウにもたれて、うたた寝をしていた。


「あ……ハルちゃん、疲れちゃったんだな」


 レナはゆっくりとベッドに横になり、あどけないハルの寝顔を見つめた。


「ハルちゃん、病院まで荷物持って付き添ってくれて、ずっと一生懸命私の腰をさすりながら励ましてくれてね……。すごく痛いの我慢してたら、大人だって痛い時は痛いって言っていい、ハルがついてるから、って言ってくれたの。すごく心強かったし、嬉しかった」


 レナの話を聞きながら、リュウは優しい表情でハルの頭を撫でた。


「ハルちゃん、いい子だな」

「そうだろ?オレにはもったいねぇな……。やっぱ、もっといい男に嫁にもらってもらう方が、ハルには幸せかもな」


 リュウが少し寂しそうにそう言うと、レナは首を横に振った。


「ハルちゃんはリュウさんと一緒にいるのが幸せだって。ハルちゃんも、自分と一緒にいてリュウさんはホントに幸せなのか悩んでた」

「ハルが……?」

「リュウさんと一緒にいたいから早く大人になりたい、リュウさんに喜んで欲しいから料理上手になりたいって。ハルちゃん、いつも自分の事より、一番にリュウさんの事考えてるの」

「リュウとハルちゃんも、似た者同士で相思相愛なんだな」

「どうだかな……」


 リュウが愛しそうにハルの寝顔を見つめて、もう一度頭を撫でた時、ハルがゆっくりと目を開いた。


「あ……ごめんなさい……寝ちゃってた……」

「大丈夫だよ。さっき戻って来たとこだから。それよりハルちゃん、レナの事を支えてくれてありがとう。おかげで無事に生まれたよ」


 ユウが頭を下げると、ハルは嬉しそうに笑った。


「そんなたいしたことは……。でも無事に生まれてくれて良かった!!赤ちゃん、見てもいい?」

「今、新生児室にいるよ。見に行く?」

「行く!!」


 病室の目の前のナースステーションに併設された新生児室を窓ガラス越しに覗くと、さっき生まれたばかりのユウとレナの赤ちゃんが、ベビーベッドに寝かされて小さな手足をモソモソと動かしていた。


「かわいい……」

「目元はユウに似てるか?鼻の辺りは片桐さんかな。名前、決まってんのか?」

「結ぶに弦で、結弦ユヅル)

「結弦くんか……。ハル、ユヅルくんが大きくなったら、今日の事話すんだ」

「何年後だろうな。10年後くらい?」


 ユウが尋ねると、ハルは少し宙を見上げた。


「その頃ハルは25歳。とーちゃんは……」

「歳の事は言うな……」


 リュウの反応に、ユウはおかしそうに笑う。


「その頃には、ハルちゃんもママになってるかもね」


 ユウの言葉を聞いて、ハルは嬉しそうにリュウの顔を見上げた。


「ハル、とーちゃんの事、子供にも『とーちゃん』って呼ばせる」

「バカ……気が早ぇーよ……」



 リュウとハルが病室を出た後、ユウとレナは病室にユヅルを寝かせたベビーベッドを運び入れ、二人してその寝顔を眺めていた。


「かわいいなぁ……」

「うん、ホントにかわいい……」

「この子がレナのお腹にいたんだもんな」

「不思議だね」


 ユヅルは時折、口元を小さく動かしたり、ピクリと手を動かしたりする。

 小さな手をギュッと握り、バンザイのような格好で眠る姿は、いかにも新生児と言う感じで、とにかくすべてが愛らしい。


「レナと結婚して子供ができるなんて、何年か前は想像もできなかった。もう会えないと思ってたから」

「私も。でも、いつかまた会いたいって思ってた」

「また会えてホントに良かった……。会えなかったら、オレはこんな幸せ知らなかったよ」


 ユウはレナを抱き寄せ、優しく口付けた。


「ユヅルが生まれたから、これからもっとたくさん幸せになれるね」

「うん。一緒にユヅルを育てて、何年かしたらユヅルの弟か妹ができたりして……」

「ユウ、気が早いよ。まだユヅルが生まれたところなのに……」

「レナも言ってなかったっけ?女の子も欲しいって」

「欲しいけど……もう少しだけ、先の話かな。今は目の前のユヅルで精一杯」


 二人は幸せそうに笑いながら、ユヅルの寝顔を見つめた。


「大事にしような」

「目一杯愛情注いで、でしょ?」

「そう。オレとレナの宝物だから」



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