昔の恋が想い出に変わる時 ⑤
しばらくすると、サービスエリアで買った缶コーヒーを飲みながら、トモが何気なくリュウに尋ねる。
「そう言えば、ハル元気か?」
突然トモの口からハルの名前が出てきて、リュウは驚いてむせそうになった。
「げっ……元気だけど……なんだ、急に?」
「いや、なんとなく。しばらく顔見てねぇなぁって思ってさ。今、高1だっけ?大人っぽくなってんだろうな。オレが前に会ったの、ハルが中3になってすぐだったから」
「そうか……。それならいいんだけどな」
リュウの不可解な返事に、トモは一瞬首をかしげてから、ニヤリと笑った。
(なんだ?リュウのやつ……もしかして……)
さっきのファミレスでの反応と言い、ハルの名前が出た時の反応と言い、リュウはわかりやすいとトモは笑いをこらえながらハンドルを握った。
いつも『まともな恋愛をしていない』と言うリュウは、誰かを本気で好きになる事にも、誰かから愛される事にも慣れていなくて、自分の気持ちも相手との接し方も、どうしていいのかわからないのだろう。
小さい頃からかわいがっていたハルがだんだん大人になってきて、リュウの事が好きだとずっと言い続けたハルの気持ちが、どんどん現実的になって来ているのかも知れないとトモは思った。
夜遅くに実家に帰ったリュウは、翌朝ゆっくりと目覚めた。
枕元の時計を見ると、もう10時を過ぎている。
リュウは着替えを済ませて母屋に向かった。
「おはよう、リュウト。やっと起きたんだ」
リビングではルリカがコーヒーを飲んでいた。
(あー……今日は月曜か……。店、休みだな)
「おふくろは?」
「さっき出掛けた。朝御飯食べる?」
「ああ、頼むわ」
ルリカに用意してもらった朝食を食べ終わり、リュウがタバコに火をつけると、ルリカはリュウのカップにコーヒーのおかわりを注いだ。
「あのさぁ……ハルの事なんだけど……」
「ハル、どうかしたのか?」
「もしかしてハル、この間リュウトのとこに行ってた?」
「ああ……来たけど……。姉貴になんも言わずに来てたのか……」
ルリカはリュウの向かいに座り、コーヒーを一口飲んだ。
「帰りが遅いからメールしたら、随分経ってから友達のとこに泊まるって返信してきた」
「え?あの日はもう遅かったし、オレも酒飲んでたから送れねぇし、オレんちに泊めたぞ?」
「アンタまさか、酔った勢いで……」
ルリカは昔の激ヤン時代を彷彿とさせる鋭い眼でリュウをにらみつけた。
「えっ?!」
(ヤバイ……この目付きは……!!)
「ハルになんかしたんじゃねぇだろうな……」
「してねぇ!!なんもしてねぇ!!だいたいハルは身内だし、まだ15じゃねぇか!!犯罪だろ!!」
リュウが必死で否定すると、ルリカは元の落ち着きを取り戻した。
「ホントに?」
「当たり前だ……。するわけねぇだろ……」
(変な事はなんもしてねぇけど、一緒に寝たとは言いにくい……)
リュウはコーヒーを飲みながら、とにかくルリカを刺激しないようにしようと、必死で平静を装った。
「まぁ……ハルももう高校生だし、ハルが望むなら仕方ないんだけどさ。私らもそれくらいの歳の頃には普通にやってたし?」
「ハルとオレらを一緒にすんなよ……」
「まあ……それはさておき……最近ハル、なんかおかしいんだよね」
「ハルがおかしい?」
「いつもは遅くなるなら誰とどこにいて遅くなるとか連絡するのに、最近は連絡もしないで帰りが遅いんだよね。元気もないし……なんか、毎朝泣き腫らしたような目してる」
リュウはルリカの話を聞きながら、この間の夜の事や、翌朝何も言わずにハルが帰ってしまった事を思い出していた。
「リュウト、ハルからなんか聞いてる?」
「いや……聞いてるっつーか……聞かれたっつーか……」
「心当たりあんの?」
リュウは、ハルが一人で訪ねてきた日の事をルリカに話す事にした。
「ハルにな……好きだって言われたんだ」
「いつもの事じゃん」
「いや……いつものじゃなくてな……。ハルがオレの事を好きなのは迷惑かって聞かれたから……迷惑ってわけじゃねぇけど、身内だから恋愛とか結婚とかって言うのは違うだろって答えたんだけど……ハル、泣き出してさ……」
ルリカはリュウの話を聞いてため息をついた。
「それだね……。アンタが思ってる以上にハルは本気でアンタの事、好きだから」
「そう言われてもな……それ以外、答えようがなかったんだよ。実際、ハルは身内だし……まだ15だろ。オレの歳の半分以下だ」
「そうなんだけどね……。ハルが好きだって言うんだから、しょうがないじゃん」
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