昔の恋が想い出に変わる時 ①

 それから1週間が過ぎた。

 ユウは仕事に行く前の時間を、レナの病室で過ごしていた。


「あれからどう?」


 レナがジュースを飲みながらユウに尋ねた。


「うん……。表面上は穏やかだけどな……」


 ユウはバンド内で起こった事をレナに報告していたので、レナもメンバーの様子を気にしていた。


「トモの事は社長も驚いてたけど……とりあえずいずれ一緒になるにしても、子供もいるしタイミングが大事だって。結婚相手の子供がトモの実の子供だって、世間にはすぐ知られるだろうしな……。トモは知らなかったんだし隠してたつもりはなくても、隠し子発覚!!みたいな騒がれ方するに決まってるだろ?」

「世間の目は厳しいもんね……」


 二人が深刻な顔をしていると、ドアをノックする音が響いた。

 返事をする間もなくドアが開き、マユがひょっこりと顔を覗かせた。


「レナ、具合どう?」

「あっ、マユ……来てくれたんだ」


 マユの後ろに、マコトを抱いたシンヤの姿もあった。


「シンちゃん久しぶり。マコトも来てくれたんだな」


 ユウはシンヤからマコトを差し出され、嬉しそうにだっこした。


「マコト、また大きくなったなぁ。何ヵ月になったんだっけ?」

「8か月」


 ユウに抱かれてニコニコ笑うマコトを見て、レナも微笑んだ。


「ユウは子供好きなんだな」

「んー……どうだろ?子供が好きとか思った事はないけど…単純にかわいい」

「かわいいだろ?我が子は尚更だ」


 ユウはシンヤの言葉を聞いて、突然12歳の我が子の父親になったトモの事を思った。


「なぁシンちゃん……。我が子だとしてもさ、12歳になったその子が突然現れても、かわいいって思えるもんかな?」


 唐突なユウの言葉に、マユとシンヤが驚いて顔を見合わせた。


「片桐、それどういう事?」


 マユが尋ねると、ユウはマコトをレナのベッドの上に座らせ、倒れないように支えながら、トモの事を話し始めた。


「親子だって知らなかったのに、その子はトモに会うために来たんだって。トモはトモで、その子を他人とは思えなかったって」

「へぇ……。不思議だな」


 黙って話を聞いていたマユがため息をついた。


「その彼女はすごい覚悟して産んだんでしょうね。妊娠も出産も、その後の育児も、夫婦そろってても大変なのに……」

「そうだよね……。私なんかユウがいてくれなかったら、耐えられないと思う」


 レナがそう言ってお腹をそっと撫でた。

 ユウはマコトを見ながらトモの話を続ける。


「トモはその子が生まれた事もどうやって大きくなってきたのかも、自分が何も知らなかったのはショックだったみたいだけど……子供の事はかわいいって。トモにめちゃくちゃ似てるんだってさ」


 シンヤは、以前ユウとレナの記事が週刊誌に掲載されて世間で騒がれた時の事を思い出して、神妙な顔をした。


「ただ、結婚となるとまた話が複雑だな。一般人同士ならまだしも、トモさんは芸能人だからな。変な騒がれ方したら、奥さんと子供が傷付くだろ?」

「それを今、レナとも話してたとこ」


 ユウとシンヤの会話を聞いていたマユが、ポンと手を叩いた。


「変に隠すからみんな知りたがるし、余計な詮索するのよ。騒動をできるだけ抑えたいなら、最初から事実だけをオープンにするべき。あんたたちには経験があるからわかるでしょ?」


 マユの発言にユウはなるほどとうなずいた。


「たしかに……。黙ってるといろいろわけのわからない騒がれ方したけど……」

「レナがインタビューで本当の事だけをハッキリ言い切って、うちの出版社の週刊誌に事実を載せたら、騒ぎがおさまったでしょ?」

「そうだったな……」

「もしトモが公表する気になったら相談して。絶対悪いようにはしないから」


 味方につけるとマユは相変わらず頼もしい。


「デリケートな問題だからな。事務所もいろいろ考えてるみたいだ。トモにはそれとなく言っとくよ」

「しかしあれだな……。ユウたちのバンドは、一途なやつばっかりなのか?昔の恋をずっと忘れられないやつばっかじゃん」


 シンヤがおかしそうに笑うと、ユウは少し照れくさそうに頬をかいて、シンヤの脇腹を肘でつついた。


「シンちゃんも人の事は言えないだろ」

「あー……。でもオレはマユと離れてない」

「大学まで追いかけたんだもんな」

「それだけ本気だったんだよ」


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