繋がった恋と届かない想い ②
マサキから聞いていた辺りまで来ると、トモはスーパーの駐車場に車を停めた。
「オイ、マサキ。そろそろ起きろよ」
トモはマサキを優しく揺り起こした。
「うーん……。母さん?」
「誰が母さんだ。トモだよ」
「あっ、そうだった……。ここは?」
「オマエんちの近くのスーパーだろ。こっからどう行くんだ?」
トモはマサキの道案内で車を走らせ、マサキが住んでいると言うマンションの前に車を停めた。
「路駐はまずいな。近くにコインパーキングあるか?」
「あるよ。そのすぐ裏」
「って……その前に、家の人はもう帰ってんのかな?」
「土曜日だし、母さんならもう帰ってくる頃だと思う」
「じゃあ、とりあえず車停めるか」
コインパーキングに車を停めたトモは、車を降りて助手席のドアを開け、マサキの足に触った。
「あー……ちょっと腫れてんな……。痛むか?」
「少し」
「よし、家までおぶってやる。無理するとひどくなるからな」
トモがマサキをおんぶして歩いていると、マサキが照れくさそうに笑った。
「なんか……赤ちゃんみたいで恥ずかしいよ」
「恥ずかしがるような歳でもねぇじゃん。怪我してんだからしょうがねぇだろ?」
「おんぶなんか……ちっちゃい頃に母さんとばあちゃんにしてもらった事しかないから」
「父ちゃんはしてくれなかったのか?」
トモが何気なく尋ねると、ほんの少し間があってから、マサキがポツリと呟く。
「オレ父ちゃんいないから。生まれた時からいないんだって」
「そっか……。じゃあ遠慮なくおぶられてな」
「うん!!」
(マサキの母親はシングルマザーか……)
生まれた時から父親がいないと言う事は、マサキの母親は未婚でマサキを生んだのかもしれない。
結婚をしていても、妊娠や出産、子育ては大変そうなのにと思いながら、トモはマサキをおぶって歩いた。
「マサキの母さんいくつ?」
「んーっとね、34だっけ?」
「へぇ……。オレと同じ歳か、ひとつ上かな……。若い時に産んだんだな……」
同じくらいの歳ではあるけれど、自分の知らない苦労がきっとあるんだろうなとトモが思っていると、マサキが嬉しそうに声をあげた。
「あっ、母さん帰ってきた!!」
トモの背中で、マサキが道の向こうから歩いてくる女性に大きく手を振る。
「母さーん、おかえりー!!」
「マサキ、どうしたの?!」
トモは夕陽の眩しさに目を細めながら、マサキの母親だと言う、遠い記憶の中に聞き覚えのある声をしたその女性を見た。
「え……?」
トモは思わず足を止めた。
マサキの母親と、かつて初めて本気で恋をした愛しい人の面影が重なる。
(まさか……アユちゃん……?って事は……)
「トモ、どうしたの?」
突然足を止めたトモに、マサキが不思議そうに尋ねた。
「いや……」
マサキの母親も、トモの姿を見て息を飲み、大きく目を見開いた。
そして、ゆっくりと近付いてくる。
「母さん、トモに送ってもらった!!」
マサキの母親は一瞬トモの顔を見た後、嬉しそうにトモの背中で笑うマサキの顔を見上げた。
「マサキ……どういう事……?あんなにダメだって言ったのに……まさか、一人で行ったの?」
母親の厳しい口調に、マサキは途端に大人しくなる。
「ごめんなさい……。でも、どうしても行きたかったんだ。トモに会いたかったんだもん……」
「トモさんに迷惑掛けちゃダメでしょ?うちの子がご迷惑お掛けしてすみませんでした」
トモは慌ててマサキをかばう。
「あの……こちらこそすみません……。会場でオレがぶつかって、マサキに怪我させちゃって……。家も遠いし一人じゃ帰せないから、送らせてもらいました……」
ぎこちなくトモがそう言うと、母親は深々と頭を下げた。
「わさわざありがとうございます」
「……いえ……」
(別人……じゃないよな……?本人だよな?なんで知らないふりするんだよ、アユちゃん……)
トモは玄関先で、マサキを背中から静かに下ろした。
「トモ、ありがとう!!」
「いや……怪我させちゃってごめんな。治るまで無理して動かすなよ」
「うん」
マサキが怪我をした足をかばいながらゆっくりと部屋に入るのを見届けて、トモはアユミの方を見た。
「アユちゃん……だよね」
アユミはうつむいて、ゆっくりとうなずいた。
「ちょっとだけ……いいかな」
トモは、マサキや隣近所に話を聞かれない場所を求め、コインパーキングに停めた車の中でアユミと話す事にした。
コインパーキングまで、二人とも黙り込んだまま歩いた。
車のエンジンを掛け、冷房を入れて、やっと車内が涼しくなり始めた頃、トモが思いきって口を開いた。
「久しぶりだね……。元気だった?」
「うん……」
「仕事って……」
「小学校の先生」
「そっか……。頑張って夢叶えたんだね」
二人の間に、ぎこちない空気とほんの少しの沈黙が流れた。
トモは緊張で全身がひきつりそうになりながらも、意を決してアユミに向き直る。
「あのさ……単刀直入に聞くけど……マサキ、オレの子だよね?」
アユミは黙ってうつむいたまま、トモと目を合わせようとはしない。
何も答えないアユミにトモはため息をついた。
「なんで何も言ってくれないの?」
アユミはただ黙って唇を噛み締めている。
「なんで……なんで何も言ってくれないんだよ!!オレ、アユちゃんが妊娠した事も、マサキを一人で産んだ事も、何も知らなかった!!今日マサキが来てくれなかったら、ずっと知らないままだったんだ!!そんなにオレには隠しておきたかったの?それともオレには二度と会いたくなかったから?」
思わず大きな声をあげたトモに、アユミが首を横に振る。
「違うよ……」
アユミがやっと小さな声を絞り出した。
「言えるわけないよ……。あの時、トモくん学生だったし……。私のせいであんな別れ方したのに……言えるわけないじゃない……」
「オレなんかじゃ頼りないから……?だったら……生まれたのがリュウの子なら言えたのか?」
トモの中にずっとつかえていたわだかまりが、無意識にこぼれ落ちた。
思わず口にしてから、トモは我に返る。
(あっ……。オレ、なんて事を……)
「ごめん……こんな事言うつもりじゃ……」
慌てて謝るトモの顔を、アユミが悲しそうに見つめた。
「そんなふうに思ってたんだね……。トモくんと宮原くんが友達なんて、あの時は知らなかったけど……私は妊娠した時からトモくんの子だってわかってたから……産む事を迷わなかった……」
「え……」
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