隠していた本心 ⑦

「リュウもずっと彼女とは会ってないならわかるかも知れないけど……。もし会っても、昔とは別人みたいに変わってたりとか……今の自分にガッカリされたらどうしようとか……それにやっぱり、自分の事なんか忘れて幸せになってるかもとか……」

「オレは……そんな風に考えた事もねぇ」

「そうか……。リュウは自分に自信があるのかな……」

「あ?そういうわけじゃねぇけどな」

「トモさ……変わっただろ?」


 リュウは少し考える。


「あぁ……そういや、アイツらもそんな事言ってたな……。それがどうかしたのか?」

「いつかまた彼女に会えた時に、自分を選んで欲しかったから……リュウみたいになりたかったんだってさ……。もう……彼女をリュウに取られたりしないように……」


 思いもよらないトモの隠していた本心を聞かされたリュウは、呆然と手元を見つめた。


「なんだよトモのやつ……。そういうとこは昔のまんまじゃねぇかよ……」


 リュウはテーブルの上でこぶしを握りしめながら小さく呟いて、タバコに口をつけた。

 ため息混じりに吐き出したタバコの煙が目に染みて、リュウは目元を押さえた。


「トモはオレの事、一度も責めなかったんだよ……。オレは……トモの彼女とやった……。それが原因で、二人は別れた……」

「でも、リュウはその子がトモの彼女だって、知らなかったんだろ?」

「それはそうだけどな……。そんなの理由にならねぇよ。オレは間違いなく、彼氏から奪ってやろうと思ってアイツを……アユミを抱いてたんだから……」


 目元を押さえてうつむいたまま、リュウは絞り出すように言葉を続けた。


「トモは全部知ってたくせに、11年もオレには黙ってた……。バカだろ?怒ってぶん殴ればいいのに……」


 ユウはリュウの言葉を聞きながら、トモの言葉を思い出していた。


(トモの言った通りだな……)


「トモがさ……リュウに事実を話した事、後悔してるって」

「え?」

「リュウが……今でも過去の事をすっげぇ後悔して自分を責めてるの、わかってるからだよ」

「それ……トモが言ったのか?」

「うん。でもオレからしたらさ……リュウもトモも同じだよ。アイツは悪くない、オレが悪かったんだって……お互いにそう思って、後悔して自分を責めてる」


 ユウはタバコに火をつけ、煙を静かに吐き出して、愛しそうに笑った。


「やっぱ、ヒロさんの言った通りだな。似た者同士で、相思相愛だ」

「勘弁してくれよ……」


 リュウは微かに笑みを浮かべて顔をあげた。

 ユウの目には、心なしか、その瞳が潤んでいるように見えた。


「どうするのが一番いいのかなんて、本人たちにしかわからないよ。トモもそうだけどさ……リュウは、どうしたいんだ?彼女の事、まだ忘れられないだろ?」


 リュウは一瞬ユウの目をじっと見た後、そらした視線をうろうろとさまよわせた。


(なんだよリュウ……わっかりやすいなぁ……)


 いつもはメンバーの中で誰よりも大人の余裕を漂わせているリュウが、好きな女の子を言い当てられた時の恋する少年のようにうろたえるのを見て、ユウは思わず吹き出しそうになるのを堪えた。


「一度さ……トモと腹割って話してみろよ。相手が大事だからこそ言いにくい事もあるだろ?だけどさ……お互いの本音をぶつけてみるのも必要だとオレは思うよ」


 ユウの言葉を聞いて、リュウは笑ってため息をついた。


「やっぱユウに話して良かったな」

「ん?オレ?」


 なんの事だろうとユウは首をかしげた。


「ついでにな……もうひとついいか?」

「ん?何?」

「オレな……姪っ子がいるんだよ。前に話しただろ?姉貴の娘。ハルってんだけど……」


 それからリュウは、小さい頃からかわいがってきたハルの話をし始めた。

 小さい頃から『大きくなったら結婚しようね』と言うほどリュウを慕っていたハルを娘同然にかわいがっていた事や、高校1年生になった今でも大好きだと言ってくれる事。

 でもハルの気持ちは身内に対する愛情ではなく、恋愛感情なのだと気付いた事。

 自分と姉のルリカは血の繋がらない姉弟で、ハルもそれを知っている事。

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