隠していた本心 ⑤
ユウは昼過ぎにトモと一緒に昼食を取った後、レナの病院に行くついでにトモを送り、仕事に向かうまでの時間をレナの病室で過ごした。
「昨日、トモさんと楽しかった?」
「あぁ……。トモ、普段まともな食生活送ってないみたいだから、いろいろ作って一緒に食ったよ。それから酒飲んで話した」
「そうなんだ。私もユウの手料理食べたい」
「退院したらいくらでも」
ユウはいつものように、ストローを挿して野菜と果物のジュースをレナに差し出した。
「ほい」
「ありがと」
ユウが缶コーヒーを一口飲んでポツリと呟く。
「みんな……いろいろあるんだな」
「ん?トモさんの事?」
「うん。どんなに頑張っても、過去だけは変えられないもんな。それを想い出として受け止められるならいいけど……トモは、ロンドンに行く前に好きだった彼女の事が、まだ忘れられないみたいだった」
「そうなの?」
「オレとハヤテが、ロンドンに行く前に好きだった相手と結婚したから、トモも時間かけて忘れようとしてた彼女への気持ちを思い出したんだろうな。でも、会うのが怖いって」
「そうなんだ……」
「どうなるのかはわからないけど……オレは、今のトモが前に進むためには、彼女と会うか、今どうしてるのかを知って、自分の気持ちを確かめた方がいいと思うんだ」
「どうだろうね……。もし会って、今でも好きだって思っても、彼女が他の人と結婚してたりとか……トモさんの事、もう過去の人って思ってたら……トモさんにとってはつらいよね」
「そうだな……。でも、あきらめはつくだろ?」
「ユウは……どうだったの?」
レナに尋ねられ、ユウは婚約者のいるレナの事をあきらめようとした頃を振り返る。
「つらかったな……。あきらめようと思っても、全然忘れられなかった。もう朝なんか来なけりゃいいのにって、思ってた」
「私は……トモさんの気持ちもわかる。ユウに10年ぶりに会った時、ユウが私の知ってるユウとは別の人みたいで、怖かったから……」
「うん……そっか……。結局、どうするかを決めるのは、本人しかいないんだな」
「そうだね。どうするかを決められるならね。私たちもハヤテさんたちも、会おうと思って会ったわけじゃないでしょ?」
「ああ……偶然だったもんな……」
「偶然に偶然が重なって、また会えたんだよ。トモさんと彼女がまた会う運命なら、きっとそうなるはずって、私は思う」
「なるほどな……。たしかにそうかも。オレは、レナにまた会えて良かった」
「私も、またユウに会えて良かった」
運命と言う波に翻弄されながらも、なるべくしてこうなったのだと思うと、過去のつらかった日々さえ必要だったのだと思える。
ユウとレナは、お互いに見つめ合って幸せそうに微笑んだ。
ラジオ番組の出演を終え、ハヤテ、タクミ、トモの3人が楽屋を出た後、ユウがタバコを吸いながら帰り支度をしていると、リュウが後ろから肩を叩いた。
「ユウ……この後、ちょっといいか?」
いつになく深刻そうなリュウの顔を見て、何かあったのかとユウはうなずいた。
「ああ……。うち来るか?」
「そうさせてもらうかな……」
ユウはリュウと一緒に自宅に帰ると、冷蔵庫に残っていた食材で、具だくさんの焼きそばと、ツナとチーズのオムレツを作った。
「たいしたもんないけど……まぁ食えよ」
「急に来たのに悪いな」
「いいって。レナが入院してから、一人だと飯が味気なくてさ。昨日もトモに飯作ってやったんだ」
ユウがテーブルの上に料理を並べながらそう言うと、リュウが眉を寄せて顔をしかめた。
「トモ……来てたのか?」
「うん。昼間レナの見舞いに来てくれてさ。晩はうちで飯食って酒飲んだ」
「そうか……」
とりあえずビールで乾杯をして、ユウの作った料理を二人で食べた。
「うまいな。ユウ、また腕上げたか?」
「昨日、トモにも言われた」
リュウは箸を運ぶ手を止めてユウの顔を見た。
「なぁ……。トモ、なんか言ってたか?」
「ん?ああ……。昔の恋の話とか?」
「そうか……。聞いたんだな……」
リュウは険しい顔をしてビールを飲み干した。
「とりあえず……難しい話は、飯食ってからにしようか」
「……そうだな」
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