追憶と現実の狭間で ⑤
レナの病室を出たユウは、自宅の近所のスーパーへ足を運んだ。
(何作ってやるかな……。どうせ普段まともな食事もしてないんだろうし……。やっぱ、野菜は食わせとくか……)
ユウは冷蔵庫に残っていた食材を思い出しながらメニューを考え、足りない食材を買い足してスーパーを後にした。
自宅に戻ったユウは、早速キッチンに立って料理を始めた。
レナ以外の人のために料理をするのは、ロンドンでメンバーたちとシェアハウスにいた時以来だ。
大根とニンジンとパプリカを切って調味料を合わせた酢につけてピクルスを作りながら、チンゲン菜と豚肉を使った炒め物や、蒸し鶏のサラダ、茄子とベーコンを使ったトマトソースのパスタを作った。
ユウが料理をしている途中で訪ねてきたトモが、その手際の良さに目を丸くした。
「すげーな、ユウ。めちゃくちゃうまそう」
「腹減ってるだろ?急いで作った」
「相変わらず……ってか、前にも増して手際いいな。レパートリー増えてるし……。普段から料理するのか?」
「たまにな。レナがつわりひどかった時は、ほとんどオレが作ってた」
「愛妻家なんだな、ユウは……」
トモはダイニングセットのイスに座って、テーブルに並んだ料理を眺めている。
「シェアハウスにいた時、トモにも手伝ってもらったな」
「炒める専門だけどな」
「昔、レストランの厨房にいたんだろ?普段は料理しないのか?」
「しねぇな。厨房にいたって言っても、材料を用意されたマニュアル通りのもんしか作れねぇもん。自分のために作る気にもならねぇし」
「それはそうかも。オレだって自分一人のために料理をするのはめんどくさいもんな」
ユウは出来上がった料理や取り皿などをテーブルに並べた。
「何飲む?まずはビールでいいか?」
「ユウにお任せ」
「じゃあ、とりあえずビールで」
二人で向かい合って席につき、グラスに注いだビールで乾杯をした。
「さぁ、どんどん食え」
「おぅ。いただきまーす」
トモは嬉しそうに笑って、取り皿に取ったユウの手料理を頬張る。
「うまっ!!ユウ、腕上げたな!!」
「そうか?簡単なもんばかりだけどな」
「いや、マジでうまい。片桐さんみたいなキレイな奥さんもらったユウが羨ましいとずっと思ってたけど、今は料理上手なユウを旦那にした片桐さんが羨ましい」
「大袈裟だっての」
二人でビールを飲みながら食事をした。
トモは美味しそうにユウの手料理を口に運びながら、他愛もない話をして笑う。
それはロンドンにいた頃にユウが作ってくれた料理の中でハンバーグが一番好きだったとか、帰国してから自分でも作ってみようと見よう見まねで作って大失敗したとか……。
いつものように明るく振る舞っているトモの様子に、ユウはどこか痛々しささえ感じた。
ある程度お腹が満たされたのか、トモの箸を進める勢いが落ち着き、ユウはお酒をビールからウイスキーの水割りに変えた。
「明日は仕事夕方からだしな。今日はゆっくり飲もうぜ」
ユウが水割りを差し出すと、酒豪のトモが自信満々に笑う。
「おっ、言ったな?寝かさねぇぞ?」
「オレはつぶれない程度に飲む」
ユウも自分のグラスに氷とウイスキーとミネラルウォーターを入れてかき混ぜた。
「はぁ、うまいな」
「そうか?トモはウイスキーの水割りが好きなんだな」
「酒はなんでも飲む」
「昔からそんなに強かったのか?」
「いや……。昔は酒もほとんど飲まなかったし、タバコも吸わなかった」
トモの一言に、ユウは灰皿を用意していなかった事に気付いて立ち上がった。
「あ……そうだ。灰皿だな」
ユウは、レナが妊娠してから、家の中でタバコを吸うのをやめていた。
時々ベランダに出て吸う事もあったが、レナがつわりのひどかった時は匂いに敏感で、タバコを吸った後は髪や体に付いた匂いがなかなか消えず、タバコを吸ってからしばらくはレナに近寄る事ができないのでやめた。
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