ハプニング発生 ①
6月下旬のある夜。
ユウとレナは、結婚式場からマンションまでの帰り道を、仲良く手を繋いで歩いていた。
身長188センチ、甘く整った顔立ちの彼は、ロックバンド『ALISON』のギタリストをしている。
18歳の時、ユウは高校を中退して、行く先を誰にも告げずに単身渡英した。
それからの10年間、実力派人気ミュージシャンのヒロの元でギタリストとしての経験を積み、ロンドンで一緒に音楽活動をしていたハヤテ、リュウ、トモ、タクミと共に帰国して、ヒロのプロデュースの元、『ALISON』としてデビューした。
その後、ヒロのプロデュースでソロとしてもデビューし、ミュージシャンとして多忙な毎日を送っている。
そして、その妻の片桐アリシア
アメリカ人と日本人のハーフの両親の元に生まれ、すらりと背が高く茶色い瞳と髪、日本人離れした顔立ちをしている。
幼い頃から極度の人見知りで、目立つことが苦手なレナだが、デザイナーをしている母親の
芸術大学の写真科を卒業してからは、レナの幼い頃からずっと撮り続けてきたカメラマンの
同じ日に生まれたユウとレナは物心のつく前からの幼なじみで、いくつもの別れと涙を乗り越え夫婦になった。
レナのお腹には、8月中旬に生まれる予定の、二人にとって初めての赤ちゃんがいる。
「レナ、疲れたんじゃないか?二次会まで参加して」
ユウは身重のレナを気遣い優しく声を掛けた。
レナはふっくらとしたお腹を撫でながら微笑んだ。
「少しね。でも、すごく楽しかったよ。素敵な式だったね。花嫁のメグミさん、すごくキレイだった」
「うん。でもやっぱりオレにはレナの花嫁姿が一番キレイだけどな。ハヤテのピアノ、良かったな。あの曲、二人の想い出の曲だって言ってたな」
「うん。すごく素敵だった」
ハヤテが結婚した。
『ALISON』のキーボード担当でリーダーでもある最年長のハヤテは、とにかく真面目で責任感が強い。
いつも冷静で優しく穏やかで、バンドメンバーにとってもレナにとっても兄のような存在だ。
「ハヤテさん、金髪やめたんだね」
「あぁ……。ハヤテがロンドンに来て少し経った頃に、イメチェンしていろいろ吹っ切りたいって言ってさ。あの金髪、リュウがやったんだ」
「リュウさん、元美容師だもんね」
「ずっと金髪やめるタイミングがわからなかったんだけど、もういい歳だし、弟の結婚式に出席するのを機にやめたらしい」
「そうなんだね」
「しかし、驚いたよなぁ……。あのハヤテが、急に結婚するなんて……」
ずっと浮いた話のなかったハヤテが、弟の結婚式を終えて地元から東京に帰った途端、『結婚する』と言い出した。
ハヤテの話によると花嫁のメグミは、お互いを想い合っていたのに、ロンドンに行くために泣く泣く別れた初恋の女性なのだそうだ。
「オレとレナも10年も離れてたけど……ハヤテは12年も離れてた彼女の事、ずっと好きだったんだって。彼女もずっとハヤテの事を待ってたらしい」
ユウはレナの手をギュッと握り直し、感慨深げにそう言った。
「ハヤテさんもメグミさんも、すごく一途なんだね」
「お互いにすごく好きだったのに、彼女と別れてまでロンドンに行ったんだな、ハヤテは……。絶対に途中で投げ出さないって、そんだけの覚悟でヒロさんについてきたんだ」
「なんか、ハヤテさんらしい」
レナの歩幅に合わせてゆっくりと歩きながら、ユウは遠い日の若かった自分を思い出す。
すぐそばにいるのに、想いを伝える事もできないままレナへの恋に焦がれていた。
レナに幼なじみとしてしか見てもらえない事がつらくて、ちょっとしたきっかけで、大切にしていたレナを傷付けてしまった。
その罪悪感に耐えきれなくて、レナへの想いを断ち切る事ができなくて、逃げ出すようにレナのいないロンドンへ渡った。
「オレはさ……もしヒロさんにロンドンに行かないかって声掛けてもらった時に、レナと付き合ってたら……きっとレナを置いては行けなかったよ」
「あの時は急にユウがいなくなってすごく寂しくてつらかったけど、今思えばそれで良かったんだね。また会えたし……」
「そうなのかな……。ハヤテも偶然再会したって言ってたけど……ハヤテが言ってた通り、やっぱり運命の相手だったのかも。最初で最後の恋だって言ってたし」
ユウがそう言うと、レナはユウを少し見上げてニッコリと笑った。
「私にとっても、ユウは最初で最後の人だよ。私とユウも、偶然再会したね。また出会う運命だったのかな?」
「シチュエーション最悪だったけどな……」
ユウはレナとの絶望的な再会の日を思い出してバツの悪そうな顔をした。
「たしかに最悪だったけど……今はユウと一緒にいられて幸せだよ」
「うん、オレも。レナと結婚して、毎日一緒にいられて……もうすぐ家族も増えるしな」
ユウは微笑みながら、レナのお腹に優しく触れた。
「それにしても早いもんだな……。あと2か月足らずで生まれてくるんだ」
「ホントだね。つわりの時はしんどかったけど……ユウがいろいろしてくれて嬉しかった」
「当たり前だろ。オレはレナの夫だからな」
つわりの時のレナは、急に泣いたり怒ったり、子供のようにわがままを言ったりしてユウに甘えていた。
日毎にクルクルと表情の変わるレナを思い出して、ユウは嬉しそうに笑う。
「昔はレナ、あんまり泣いたり怒ったりしなかったし……付き合いだしてからも、分かりやすく甘えたりわがまま言ったりしなかったもんな。つわりの時はしょっちゅう泣いたり怒ったりわがまま言ったり、思いっきり甘えてくれて嬉しかった。オレは毎日面白かったよ」
「そう言われると……我ながら子供みたいだったなぁって、ちょっと恥ずかしい……」
レナが恥ずかしそうに呟くと、ユウは大きな手でレナの頭を撫でて幸せそうに笑った。
「子供が生まれても、オレには思いっきり甘えていいんだよ?」
「ありがと……。私、ユウのそういうところ、大好き」
幼い頃から、いつも守ってくれた優しいユウ。
相変わらずレナには特別甘くて優しい大好きなユウは、間違いなく運命の相手だとレナは思った。
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