第29話 久美子の告白

「……私、これが誰の携帯電話か知ってるわ。今村さんのでしょ!お母さん、この携帯から私に電話したでしょ。なぜ今村さんの携帯を持っているの?」


「……もう使わないってくれたのよ。」久美子は少し動揺して答えた。

「……本当に?」沙羅は久美子の言葉を信じて携帯電話を返そうとしたとき、

電話が鳴った。着信履歴の多さを不審に思い、音が鳴る設定に変えたからだ。


「……もしもし、今村さん、やっと繋がった。あなた今、何処?」

 沙羅が出る。携帯を奪おうとする久美子を弘志が制する。


「……もしもし、すいません、どちら様ですか?」沙羅は恐る恐る聞く。


「今村さんじゃないんですか?私は竹富と申します。えっ、どういう事かしら?」

「確かにこの電話は今村さんの物です。竹富さん、あの、その」教団関係者だ。

 沙羅は返事に困っていると、電話の相手が男性に変わる。


「竹富と申します。失礼ですが、あなたは?……実はその電話の持ち主が行方不明になっていて、探しているんです」かなり興奮して早口で話している。沙羅が復唱したという言葉に、ただ事ではないと察した弘志が電話を変わった。竹富はそのまま話続けている。


「今村さんは一人暮らしの女性なんですが、最近連絡が取れなくて、警察に捜索願いを出そうか迷っていました。失礼ですが、今村さんとのご関係は?」


「……すいません、これは拾った物です。そういう事ならすぐ拾得物として警察に届けますね」「宜しくお願いいたします」竹富はかなり焦っていたのか、沙羅から弘志に電話の声が変わっても気にする事なく、急いでお願い致しますと言って電話を切った。


「久美子、どういう事なのか説明してくれないか?今村さんという人が行方不明になっているそうだ。竹富って幹部の名前だろ?今村っていう人が何か問題でも起こして……久美子、お前匿っているのか?」


 弘志はそうであって欲しいと願いながら、久美子に問いただした。


「お母さん、私の事で今村さんに何か文句を言われたんじゃないの?その為にここに来たんでしょ!何か言ってよ、お母さん!」


 沙羅は家を出る時も、今村がここへ来た事を思い出した。戒め中に淫行を犯したら承知しないわよと、避ける為の御守りをくれた。同じ御守りが二つ折りの携帯電話につけてあったから、今村だと確信出来たのだ。


「……妊娠した事を幹部に告げ口したからよ。それだけじゃない、沙羅の復帰を邪魔しようとしたの!信仰をお金で買う厚顔無恥な親子だとも罵られたわ。沙羅の復帰を邪魔する人は、誰であろうと許さない!」


「それで、それでどうしたの!お母さん」「銀色バッジのお母さんに意見したから、赤色バッジのくせに、お母さんに意見したから。だから……」

「どうしたの?ねえ。教えて、お母さん!」沙羅は悲鳴にも似た声で久美子に聞く。真美はどうしていいか分からず弘志の手を握って震えている。


「……生意気だから、叩いたわ。頬を思い切りね、そうしたらあの人掴みかかってきたの。うるさいって殴ったら……」


「久美子、それでどうなったんだ!」弘志が久美子の両肩を鷲掴みして揺さぶる。真美は沙羅の背中をさすって、もう聞かないようにとキッチンに連れて行こうとする。久美子は突然笑い出し、庭の夏椿の方を指差した。


「殴ったら……六十過ぎると骨も脆くなるのね。倒れて頭を打ち付けて死んじゃったみたい。あっ、安心して。私がお清めの儀式をして土に還してあげたから。神の精霊が注がれる樹の根元に眠っているわ。……今村さんが羨ましいわ。目覚めたら楽園なのよ!」


「正気か、お前、久美子!お前一人で穴を掘って埋めたのか?まさか」


 女の力では無理だと疑った弘志は最悪な推理をした。まさかその為に双樹を呼んだのか、まだ帰宅しない双樹に電話をしなさいと、沙羅に言う。


 沙羅は震える手で、双樹に電話した。お兄ちゃん、出て!早く。お兄ちゃん助けて!壊れそうだよ。みんな、もう壊れそうだよ!


 沙羅がかけたと同時に、和室から着信音が聞こえた。

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