11 じいちゃんの日常



アキラ:Lv36(錬金術士):じいちゃん


キーン!

カーン!

キーン!

とても澄んだ音が響く。

片手につちを持ち、魔石をいろんなものに加工していく。

イメージを付与し、槌を振り下ろす。

叩くと自然とイメージ通りのものが出来上がる。

形もそうだが、その中身にどれだけ心意しんいを込めれるかが腕の見せ所だ。


キーン・・

槌を振り下ろし、無心で打つ。

一人の銀色の鎧をまとった男がゆっくりと近づいてくる。

帝都騎士団の一員で、一応鍛冶師という。

じいちゃんの横に来て、作業の邪魔にならない位置で目を閉じたたずんでいる。


しばらくして、打つ音がしなくなった。

じいちゃんが槌を横に置き、ゆっくりと立ち上がる。

「ふぅ・・」

汗を拭いている。

「アキラ様、お疲れ様でした。 毎度、とても良い音色で打たれますね」

騎士団員の男はそういう。

じいちゃんは、にっこりとしてうなずく。


じいちゃんは、騎士団員の前を横切りゆっくりと部屋から出て行った。

騎士団員は、じいちゃんの作業の後を見る。

剣が出来上がっていたようだ。

見事に銀色に輝く剣。

見ただけで、街のショップで扱っているようなものでないのはわかる。

剣を手に取ってみる。

・・かなり重い。

「どうやら、私のレベルでは振れないようだ」

自嘲気味につぶやき、剣を元の場所に戻す。

「しかし、アニム様もとんでもない方を王宮にお入れになって・・」

騎士団員はそうつぶやくと、じいちゃんの出て行った入り口を見つめていた。


じいちゃんは小用を足しに来ていた。

手を洗い、作業場へと戻る。

服を着替え、今日の作業を終えようと思っていた。


時間は15時を少し過ぎている。

先ほどの鍛冶師の騎士団員と違う隊員がやってくる。

「アキラ様、今日もお疲れ様でした。 本当にありがとうございます」

騎士団員は深々とお辞儀をしていた。

じいちゃんはにっこりと笑い、大きくうなずく。

「では、ワシはこれで失礼します」

そういうと、そのまま出入り口に向かって行く。

スッときれいな女の人が現れて、じいちゃんに一礼する。

じいちゃんを送迎してくれる係の人だ。


じいちゃんもまんざらでもないようだ。

ニヤニヤしながら、お世話になります、なんてつぶやいていた。

係の人も慣れたもので、にっこりとうなずき、寄り添って歩いて行く。


その後ろ姿を騎士団員は見送りながら思っていた。

あの方は、自分が利用されているなどと考えないのだろうか?

これほどの業物(わざもの)を何の打算もなく作っている。

あれをしろ、これをしろなどと一言も言わない。

言われたものをひたすらに打つ。

バカなのかと一瞬疑ったが、その目を見ると深い湖を見ているようで自分が嫌になった。

前に聞いたが、打つ時にどういったイメージをしているのかと聞くと、何も考えていないという答えが返ってきた。

まさか、と思ったが、そんなことはない。

知れば知るほど、鍛冶師は奥が深いのだと思わされる。

余計な小手先の技術など不要。

心で打つものなのだと、いつもアキラ様を見ると思わされる。

大したお方だ。

そう思い、見送っていた。


王宮を出て、ゆっくりと歩いて行く。

「アキラ様、何か不都合とかありませんか?」

じいちゃんの横の女の人が、優しく問う。

じいちゃんはにっこりとして、

「別になんもありゃしませんよ」

そう答えると、マイペースで歩いて行く。


じいちゃんは確か、子供時代に中耳炎にかかり、昔の医者なので荒く治療されて両方の鼓膜を8割失った。

定年後、テツの勧めで片方だけ人工鼓膜を付けたが、少し聞こえるようになった程度だ。

だが、魔法のある世界になってそんなものは関係なくなってしまった。

身体の悪いところはほとんど治る。

じいちゃんは『今』を満喫していた。

数秒先に死が待っているとしても平気だった。

常に一期一会、そんな心境になっていた。


フラフラ歩いていると、前からテツが歩いて来る。

「テツ、どっか行くのか?」

じいちゃんは軽く聞いてみる。

「うん、仕事でちょっと・・」

テツはうなずきながら答える。


「そうか。 気をつけてな。 それよりも、フレイアさん。 お前の愛人なんだろ? もっと大切にしてやれよ」

じいちゃんは普通の顔をして言う。

ブフォ・・ゴホ、ゴホ・・。

「じいちゃん、あのね・・」

テツはむせながら返答をした。


じいちゃんはうなずきながら言う。

「いやいや、いいんだ。 男はそれくらい甲斐性がなきゃな。 気を付けて行ってこい!」

そういうと、女の人に肩を寄せてご機嫌で歩いて行く。

女の人は何も言わずにじいちゃんに寄り添って歩く。


じいちゃんはすでにテツとの会話のことなど捨てていた。

どうでもいいというのではない。

こだわらないだけだ。

その場、その場で感じたことをしていく。

どうせ生きても後10年もないだろう。 

達観していた。


家の前につき、女の人にお礼を言って家に入って行く。

「じいさん、おかえり」

ばあちゃんが出迎えてくれた。

じいちゃんもにっこりとしてうなずく。

そのままリビングへ行って、テーブルにつく。

ばあちゃんがそっとお茶をれていた。

阿吽の呼吸というか、当たり前のような作業で流れていく。


部屋の中は、ばあちゃんが気分次第で家具を作ったり改変したりしていた。

じいちゃんは何も言わない。

ただ、あるものを使うだけだ。

お茶を飲みながら一息つく。

「ふぅ・・」

「じいさん、テツが仕事で出かけて行きましたよ」

「うむ」

じいちゃんはそう答えるだけだった。

「でもまぁ、あの子もきちんとした・・と言っていいのか、仕事が出来て良かったですね。 いつも心細い収入で嫁に頭の上がらない生活をしていたのですから・・」

ばあちゃんが一応じいちゃんに話しかけているようだ。

じいちゃんはゴロンと横になって、スースーと軽い寝息を立てていた。


ばあちゃんがじいちゃんにタオルケットをかけてやる。

ばあちゃんはそのまま夕飯の支度にかかった。


時間は17時頃。

じいちゃんも起きて、夕飯を食べるところだ。

「じいさん、仕事はどうですか? 年寄りなんだから無理しないようにしてくださいね」

じいちゃんは食べながら、うんとうなずいていた。


食事も終わり風呂に入って寝る。

毎日の行動だ。

ばあちゃんの家では19時頃にはすべて終わって、後は寝るだけになっていた。

特にすることもないし、テレビなんてのもなくなった。

食事の片付けや掃除をばあちゃんがしていると、じいちゃんが風呂の掃除が終わったらしくベッドにやってきて寝る準備をする。

「じいさん、今日もお疲れ様でした。 おやすみ」

ばあちゃんがそういうと、じいちゃんはうんとうなずいて就寝。

・・・・

・・

時間は4時過ぎ。


じいちゃんとばあちゃんが起きる時間のようだ。



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