第35話 魂集め

「そんな! クロノ様をそんなことに巻き込むわけには……!」


 ライルとアニューが、シェリルに先の話し合いの内容を伝えたところ、彼女はそんな反応を示す。


「安心しろ、シェリル。吾輩ならお前を救える。何よりお前は仲間であり友だ」


「クロノ様……」


 自信を感じさせる笑みを浮かべて、そんなことを言われてしまい、シェリルはしおらしい様子で黙ってしまう。


「まさかシェリルにそんな事情があったとは……よし!」


「そういうことでしたら、わたしも力になります!」


 一緒に聞いていたスミレとアリアフィーネ。

 どうやら二人も、シェリルのために一肌脱ごうというつもりらしい。


「いや、迷宮には吾輩とシェリルの二人だけで行く」


「そんな!」


「私も力になりたいぞ、クロノちゃん!」


「アリアフィーネ、スミレ隊長、気持ちは嬉しいが今回ばかりは遠慮してくれ。二人を守りながらモンスターの魂を集めるのは骨が折れる」


 二人には悪いと思うが、クロノは正直にそこのところを話す。


 クロノの真剣な表情に、アリアフィーネとスミレは――


「わかりました……」


「悔しいが、さすがに足手まといか……」


 ――と、理解してくれた。


「よし。準備ができ次第、迷宮に向かうぞ」


「ありがとうございますの、クロノ様……」


「礼は今回の件が成功してからにしておけ」


 涙を堪えながら礼を口にするシェリルに、クロノは微笑んでみせる。


「クロノ君、シェリルを頼む……!」


「お願いします……!」


「ああ、任せておけ」


 ライルとアニューに応えたところで、クロノは準備に取り掛かるのだった。


 ◆


 迷宮一層目――


「よし、まずはゴブリンの魂を二十だな。シェリル、決して吾輩から離れるなよ?」


「は、はいですわ!」


 シェリルの返事を聞いたところで、クロノが右手に《聖獣剣》を、左手に《覇魔銃》を召喚する。


 すでにマジックアイテムによって結界は展開済みだ。


 結界の効力が消える前に、全てのモンスターの魂を回収し、四魔族の魂を分離しなければならない。


 時間との戦い……というわけである。


『グギャッ!』


 さっそく岩陰からゴブリンが現れた。


 有無を言わさず、クロノは《覇魔銃》から魔弾を飛ばし敵の眉間を、ドパンッ! と撃ち抜く。


「まずは一体、次だ!」


 足早に、クロノはシェリルを連れて迷宮の奥へと向かっていく――


 ◆


 迷宮五層目――


『モォォォォォォ――ッ!』


 雄叫びを上げながら、斧を持って駆けてくる巨体。


 牛人型のCランクモンスター、〝ミノタウロス〟だ。


 さらにその後ろから、槍を持った個体が二体駆けてくる。


「もうお前たちの魂は要らんというのに……邪魔だ!」


 すでにミノタウロスの魂は必要な分だけ狩り尽くしている。


 だが、この階層を抜けない限り、どうしても同じ個体と遭遇してしまうというのは中々に難儀だ。


 クロノはイラついた様子を見せながらも、目の前のミノタウロスを《覇魔銃》で撃ち抜く。


 突如として倒れた仲間を見て、後方の二体が戸惑った様子を見せる。


 その隙を見逃すクロノではない。

 そのまま二体に急接近すると、右手の《聖獣剣》で回転斬りを繰り出し、二体の胴体を横真っ二つに切り裂いた。


「す、すごい……これがクロノ様の本気ですの……?」


 迷宮に訪れてからというもの、その勢いは衰えることなく、次々とモンスターを撃破していくクロノ。


 彼の鬼神の如き強さに、シェリルは呆然とその様を見届けるしかなかった。


 そして思い知ることとなる。

 クロノが本気を出せば、自分がサポートに入っても、返って邪魔になってしまう……そんな事実を――


 ドパン……ッ!


 乾いた音が鳴り響く。


 それと同時に、シェリルの顔の後ろで『ピキィィィィィ!?』と、耳障りな声が響いた。


 慌てて振り返るシェリル。


 するとそこには、胴体を魔弾によって撃ち抜かれた触手を持ったDランクモンスター……〝ローパー〟が痙攣しているではないか。


 どうやら、目の前の光景に夢中になりすぎるあまり、シェリルは接近に気づかなかったようだ。


 しかし、クロノは気づいていた。


 ミノタウロスを回転斬りで倒すとともに、回転の途中で《覇魔銃》で魔弾を放ったのだ。


 後ろに倒れるローパー。

 そして地面に倒れたその瞬間だった――


 ドピュ……っ!


 クロノによって撃ち抜かれてできた胴体の穴から、一気に血が噴き出した。


 ローパーの血がシェリルに〝ぶっかかって〟しまう。


「きゃあぁぁぁぁぁ!?」


「Oh…………」


 叫び声を上げるシェリル。

 その姿を見て、思わず息を漏らすクロノ。


 ローパーの血は白濁色だ。

 その上とても粘性が高い。


 そんなモノが、バニー姿の美少女エルフであるシェリルにかかれば…………ね?


「うぅ……こんなことしていいのはクロノ様だけですのに……」


 頬を赤らめながら、涙目になるシェリル。


 そんな彼女の顔を、持ってきたタオルでクロノは拭いてやる。


 途中でシェリルが「胸の中も拭いて欲しいですの……♡」と、バニースーツに包まれた胸の谷間を強調する……のだが、クロノのデコピンによってお仕置きされることとなる。


(アリアフィーネだけでなく、シェリルまでエロフだったとは……)


 クロノは若干引きつつも、迷宮のさらに奥を目指す――

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