第30話 騎士たちの実力とクロノの実力

『グギャッ!』


「お、さっそく出てきたな。アリアフィーネ!」


「かしこまりました、ご主人様!」


 近隣の森の前へとやってきたところで、さっそく木々の間からゴブリンが現れた。


 クロノに呼びかけられ、アリアフィーネが装飾弓から輝く矢を飛ばす。


 アリアフィーネの弓の技術は、ここ数日で格段にアップしていた。


 森の中から出てきたゴブリンの胸を、一発で射抜いてみせる。


「その弓、何か特殊な作りをしているのか? ゴブリンの胸を貫通するとは……」


 矢がゴブリンの背中から出て、そのままの勢いで地面に縫い付けたのを目の当たりにし、スミレが呟く。


「はい、少し特殊な弓です。スキルとも関係しているので、詳細は秘密です♪」


「なるほど、そういうことなら詳しくは聞かないでおこう」


 あらかじめクロノと相談し、用意していた偽の説明にをアリアフィーネがすると、スミレは納得するのであった。


「おい、勝手に動くな。隊長からの指示があってから行動しろ!」


 アリアフィーネとスミレがやり取りを終えたところで、ザックが苛立った様子で食いかかってくる。


「ご主人様、いかがだったでしょうか?」


「あ、ああ、よかったぞ。腕を上げたな、アリアフィーネ」


「……っ♡」


 これ見よがしに、ザックを無視するアリアフィーネ。


 クロノに褒めてもらうと、幸せそうな表情を浮かべる。


「この……!」


 無視されたことにより、額に青筋を浮かべてアリアフィーネの方へと近づいてくるザック。


 しかし、その途中でスミレから「いい加減にしておけ、ザック副隊長」と制止される。


「く……っ、隊長がそういうのであれば……」


 ザックは不服な表情をしつつも、引き下がるのであった。


「ナタリーさん。もしかして、ザック副隊長はスミレ隊長のことを……?」


「あ、気づいちゃいましたのですね、シェリルさん。でも、色々と複雑な状況なので、私からは説明できないのです……」


 隅の方で、シェリルとナタリーがそんなやり取りを交わす。


 なるほど。

 そういうことであれば、ザックがクロノに嫉妬し、食ってかかるのもなんとなく理解できる。


 まぁ、スミレに一方的に執着されているクロノからすれば、二重の意味で迷惑以外の何物でもないのだが……。


「よし、それでは森の中に入るとしよう!」


「「「了解!」」」


 スミレの号令で、前衛、後衛に分かれて隊列を組み始める騎士たち。


 最初から連携を組むのは難しいだろうというスミレの判断で、クロノたちは彼らについていき、サポートをする形となる。


 森の中を歩くこと数分――


『グギャッ!』


『グギギャギャ!』


 木々の間から、ゴブリンたちが現れる。


 その数は十体ほどだろうか……。


 それぞれが短剣や石斧などの武器を持っている。

 見た限りでは遠距離武器を持つ個体は確認できない。


『グギャァァァァ!』


 アリアフィーネやシェリル、女騎士たちを見るなり、ゴブリンが雄叫びを上げて一斉に駆けてくる。


「後衛には手を出させんぞ! 《挑発》……ッ!」


 スミレが叫びながら、槍で盾を打ち鳴らす。


 するとどうだろうか。


 ゴブリンどもが標的にをスミレに絞ったかのように、走る方向を彼女に方へと変えたではないか。


(あれは……《挑発》スキルか。なるほど、さすがは騎士隊でタンクを務めるだけのことはある)


 感心するクロノ。


 スキル、《挑発》とは、その名の通り敵と認識した個体に挑発を仕掛け、発動者へと注意を絞らせることができるスキルだ。


「クロノちゃん、まずは私たちの戦い方を見ていてくれ!」


 クロノに向かって叫ぶスミレ。


 まずはどのような連携をとるか、学習してほしいということだろう。


「僕の突きを喰らうがいい……!」


 スミレへと向かうゴブリンの前に踊り出て、ザックが腰からレイピアを抜く。


 そして凄まじいスピードで、ゴブリンの目玉めがけて突きを放った。

 放たれた突きは見事に目玉から脳天まで達し、ゴブリンはその場で力尽きる。


 手際よくレイピアを引き抜くと、次のゴブリンへとザックは走り出す。


 なるほど。


 スミレと同じく、若くして副隊長を任されるだけのことはある。

 その上まだ魔法スキルを持っているというのだから、戦闘に関してはかなりの才能を秘めているのだろう。


「ぶった斬るのです〜!」


「へへっ! 叩き潰してやるぜ!」


 その向こう側ではナタリーがバトルアックスでゴブリンを脳天からカチ割り、グラッドが巨大な棍棒で同じく頭から潰していく。


 そして三人が対処しきれないゴブリンは、スミレが盾でガードしつつ、右手に持った槍で手際よく始末する。


 そんな四人の間を動きつつ、安全な位置からいつでも回復魔法スキルを発動できるように、レイラが杖を構えて立ち回っている。


 あっという間に駆逐されていくゴブリンども。


 それを感心した様子で眺めるクロノに、ザックが得意げな……それでいて小馬鹿にしたような表情で笑いかける。


 イラ……っ!


 アリアフィーネとシェリルがそんな雰囲気を醸し出す。


 しかし、クロノは動じない。

 それよりも、四人の動きを見つつも、たまに周囲に目を走らせている。


 そんな時だった――


 ダッ……!


 クロノが勢いよくその場を飛び出した。


 そしてスミレの背後に着地すると、そのまま右手を宙に突き出した。


 パシ――ッ! と、乾いた音が鳴り響く。


 その手の中には一本の矢が握られていた。


「アリアフィーネ、あそこだ!」


「了解です、ご主人様!」


 クロノの指差した方向に、すぐさまアリアフィーネが矢を放つ。


 一瞬の間を置き、ドサッ! という音とともに、ゴブリンが木の上から落ちてきた。


「な!? 木の上から飛んでくる矢に気づいたってのか……!?」


「しかも手でキャッチしちゃったのです! クロノ君、すごいのです!」


「ふぇ〜、流石にビックリだよ……」


 クロノ成し遂げた神業に、グラッド、ナタリー、それにレイラが沸く。


 それに続き、スミレも「助かったぞ、クロノちゃん!」と彼のもとに駆け寄っていく。


「ふふふ……シェリルさん、誰でしたっけ、先ほど得意げにこちらにイヤらしい笑みを浮かべていたのは?」


「おほほっ……ほら、副隊長のザックさんですの。あれだけ威張っておいて、自分たちの隊長の危機に気づかないなんて、無様ですわ」


 これ見よがしに、ザックを挑発するアリアフィーネとシェリル。


 それを見て、ザックが「〜〜〜〜〜〜〜――ッッ!」と、言葉にならない怒りの声を漏らし、顔を真っ赤にする。


 クロノは、アリアフィーネとシェリルの二人に「やめてあげなさい」と注意するのだった。

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