第14話 ア◯ルビーバック
「ここが冒険者ギルドですね……」
「そのようだな、さっそく中に入るとしよう」
昼下がり――
予定よりは遅れたが、冒険者ギルドの前へとやってきたクロノとアリアフィーネ。
扉を開け中に入った瞬間、一気に喧騒に包まれた。
いくつもある受付カウンターで、受付嬢とやり取りを交わす者たち。
羊皮紙の貼られた掲示板の前で、何やら話し込む者たち。
そして奥は酒場になっているようで、昼だというのに飲み交わしている者たちも見受けられる。
「おい、見ろよ」
「ああ、とんでもなくベッピンなエルフだ……」
「おまけにビキニアーマーなんて着てるぞっ!」
アリアフィーネを見て、男の冒険者たちがざわつき始める。
まぁ、彼女の飛び抜けて美しい容姿と、露出の多い今の格好であれば仕方あるまい。
「むぅ〜、ご主人様以外の視線に晒されるのは不愉快です……」
男どもの視線を受けて、アリアフィーネは自分の胸を腕で隠しながら顔を顰める。
(確かに、アリアフィーネの体を見られるのは不愉快だな。あとで外套でも買ってやるとしよう)
クロノはそう決めるのだった。
「ね、ねぇ……あの子、男の子よね?」
「すごく、可愛い……食べちゃいたいわぁ……」
視線に晒されているのはアリアフィーネだけではなかった。
クロノの愛らしい容姿に、冒険者のお姉様方はうっとりとした表情で、感嘆の息を漏らしている。
一般人よりも、冒険者たちの方がこういったことに遠慮はないようだ。
誰も彼もが無遠慮に視線を送っている。
「アリアフィーネ、とりあえず用事を済ませてしまおう」
「そうですね、ご主人様」
この視線の数々から逃れるために、クロノとアリアフィーネは足早に受付カウンターへと向かう……のだが――
「いらっしゃ〜い! 可愛い男の娘とエルフちゃんね〜ん! 私はこのギルドの受付嬢、名前は〝アーナルド・ホズィルズネッガー〟よん! アナちゃんって呼んでねん♪」
そんな自己紹介とともに、カウンター越しに〝化け物〟が現れた。
二メートルはあろう筋骨隆々の巨体、頭はスキンヘッドにしており、顔には高い技術が伺える盛りメイクが施してある。
そしてその逞しい肉体は、あろうことかボンデージファッションに包まれている……そんな化け物が――
(な、なんという、ビジュアルをしておるのだ!? しかも受付〝嬢〟!? 嬢という言葉の法則が乱れておるぞ! これでは化け物ではないか!)
(どどどどどど、どうしましょう! ギルドにモンスターがいます!)
突如として現れたガチムチおっさん受付嬢(混沌)に、クロノもアリアフィーネも混乱に陥る。
そんな二人の頭の中に……。
――誰が化け物ですって!? あんまりふざけたこと考えてると〝掘り倒す〟わよ! 私はノンケだって構わないんだからね……ッッ!
……と、野太い声が響き渡る。
(こ、こいつ! まさか脳内に直接!?)
「あわわわわ! 怖いです、ご主人様!」
またもや混乱に陥る二人、そんな二人に、目の前の受付嬢(混沌)は――ニチャァ……と、おぞましい笑みを浮かべる。
「「ごめんなさいっ!」」
本能で危険を察知したクロノとアリアフィーネは二人揃って勢いよく頭を下げる。
「いいのよん♪ でも次に失礼なことを考えたらお仕置きよん? あなたたちの肛◯括約筋がズタズタになるから覚悟するのねん♪」
目の前の受付嬢は、ニッコリ笑って二人を許すのだった。
「アナ……殿でよかったな……? 吾輩の名はクロノ、彼女はアリアフィーネだ。冒険者登録がしたいのだが、このカウンターであっているか?」
「んもう、アナちゃんって呼んでって言ってるのにん♪ まぁ、それはさておき。登録を始めるから、この羊皮紙に必要事項を書いてねん♪」
クロノが質問すると、受付嬢――アーナルドは、そう言って二人分の羊皮紙を差し出してくる。
羊皮紙には名前や得意な武器など、いくつかの項目が記されていおり、それらに従って記入していく形式のようだ。
(む……そういえば、吾輩は文字の意味が理解できるな。これも転生の特典なのか……?)
【いえ、特にそういった基礎的な能力は、女神エイリアス様はクロノ様に授けていません。おそらく前世で文字を学ぶ機会があったのかと】
(なるほど、これも記憶が何割か失われている弊害か)
自分のできることに疑問を抱く……。
そんな出来事も、クロノは脳内に響くカレンの言葉に納得するのだった。
「それじゃあ、これで登録は完了よん! 〝冒険者〟タグをどうぞ〜♪」
クロノとアリアフィーネが全ての項目を書き終えたところで、アーナルドが石製の首飾りのような物を差し出してくる。
冒険者タグ――冒険者としての証であり、身分証にもなる代物だ。
冒険者には階級が存在し、以下のように分類されていると、アーナルドから説明が為される。
Eランク=今、クロノたちのいる駆け出し扱いの等級。
Dランク=一人前扱いであり、ほとんどの冒険者がここで冒険者生涯を終える。
Cランク=成功者。ギルドで定められた危険な魔物の討伐など、いくつかの成功を収める事で成れる。
Bランク=Cランクのチームが複数で挑んで倒せる魔物の討伐、もしくは魔物の氾濫や魔族の大群に対し、戦力を率いて都市の防衛に成功するなど、英雄と認められた者の等級。その評価は高く、五爵位の男爵と同等の扱いを受け、重婚などが認められるようになる。
Aランク=勇者・賢者などの人類の切り札。
Sランク=勇者や賢者などの中でも、特に強力な者たちに贈られる称号。過去に数人のみいたと伝説が残る。
以上の六等級だ。
(ふむ、やはり等級はSランクまでのようだな)
説明を聞き、SSSランクと神界で認定されている自分の存在が、いかにこの世界で強力なのものなのか、改めて自覚する。
SSSランクどころか、SSランクすら存在しないとは……。七大魔王なら何とかなるかもしれないが、万が一、魔神が復活するようなことがあれば――
(この時代の勇者だけでは不安だ。やはりこのような大きな都市に留まって情報を集め、必要であれば吾輩が七大魔王を始末することにしよう)
七大魔王が何かしでかさない限り、魔神が復活するようなことはないはずだ。
そのことをクロノは知っている。だからこそ、勇者たちでダメなのであれば、クロノ自ら七大魔王を始末すると誓う。
「それにしても、二人の雰囲気……私たち、どこかで会ったことあるかしらん?」
「む……そういえば……」
「あれ……わたしもアナさんに会ったことがあるような……?」
諸々の手続きを終えたところで、アーナルドが二人に問いかける。
どういうことだろうか?
クロノもアリアフィーネも、アーナルドにどこか既視感を感じているようだ。
まるで過去の記憶を思い出すかのように、三人とも首をかしげるのだが……。
やはり気のせいだったのだと、そこで話は終わるのだった――
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