第7話 んひぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!
「ふむ、あれが〝迷宮都市・リューイン〟か」
アリアフィーネを抱き、街道を突っ走ること数日――
途中、流れる川の水で喉を潤し、動物を狩って食べるなどしてサバイバル逃避行を成功させた二人は、リューインという名の都市の前までたどり着いた。
ここは帝国内にある侯爵家が治める領地であると、アリアフィーネから情報を得た。
迷宮都市・リューイン――
帝都ほどではないが、領地を高い外壁に囲まれた都市の名だ。
レンガや石造りの家に整理された道。
更に都市のいたるところに水路が張り巡らされ、水の上をゴンドラがゆうゆうと行き来し、その漕ぎ手によるガイドが観光の名物になっているらしい。
だが、この都市の一番の特徴は、観光名所などではない。
では何か?
それは、都市の名にもある〝迷宮〟の存在だ。
この都市の高い外壁は、外敵からの守りはもちろんだが、万一、迷宮のモンスターが氾濫した時の為に、閉じ込めることも目的として造られているのだ。
いざという時には、危険な場所だが、それでもこの都市は栄えている。
迷宮に現れるモンスターや、そこで取れる鉱石や薬草の数々が日用品の素材となる。
それらを手に入れ売りさばこうと、冒険者や商人が至る所から集まるからだ。
そんな場所であるからこそ、冒険者として生計を立てようとしているクロノにぴったりだと判断し、しばらくの滞在先をここにすると決めたのだ。
外壁に備え付けられた門の前まで来ると、一人の女騎士と思しき人物がクロノたちを見据える。帝都と同じく、門番を任された騎士たちが配備されているようだ。
随分と凛とした印象を与える女騎士だ。
自信を感じさせる力強い瞳、藍色の髪を一つに結び、肌の色は綺麗な白。
動きやすさを重視したのか、足まわりの露出が多い重鎧を身につけている。
まぁ、それはさておき。
クロノは都市に入るべく、そのまま進もうとする……のだが――
「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? なんて可愛らしい
――女騎士はそんな叫び声を上げ、クロノに駆け寄ってきた。
「は、え……?」
意味がわからない……。
駆け寄ってきた女騎士に向け、クロノはキョトンとした表情を浮かべる。
すると女騎士は……。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁん! その無垢な表情! 堪らないぞ! ぜひとも私に舐めさせてくれっっ♡」
……と、若干――というか、かなりヤバめの表情でクロノに躙り寄る。
「ちょっ、待て! 寄るな!」
「大丈夫だ! 〝スミレ〟お姉ちゃんに任せておけ!」
「何を!?」
「ナニをっっ!」
マズい。この女騎士、なんとかしなくては……。
両手の指をワキワキさせながら「はぁはぁ」と息を荒くする女騎士――どうやらスミレというらしい――に、クロノはドン引きする。
そんなクロノのことなどお構いなしに、女騎士スミレは、クロノのとんでもないところに手を伸ばしてきた。
「ちょっ……やめんか!」
とんでもない女騎士の行動に、クロノは思わず平手を振り払い、パチンっ! と彼女の頬を叩いてしまう。
すると――
「んひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ! 可愛い男の娘からのビンタたまらないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――っっっっ!」
――などと奇声を上げ、その場でビクンビクンっ!
そのまま幸せそうな表情で、その場に崩れ落ちていった……。
「すごいです、クロノ様! 女性をビンタ一発で〝アレ〟させてしまうなんてっっ♡」
「ええい! アリアフィーネ、お前は何を興奮しているんだ!?」
一連の流れを見て、大興奮なアリアフィーネ。
クロノは、彼女にもドン引きしたところで、げっそりとした表情を浮かべるのだった。
「はわ!? 隊長がトンデモナイ顔して倒れてるのです!」
騒ぎを聞きつけたようだ。
他の女騎士が駆け寄ってくる……のだが、アレしてしまった時の表情を浮かべてヒクヒクと体を痙攣させるスミレを見て、クロノと同じくドン引きした表情を浮かべる。
「ああ、実はこれには理由があって……」
現れた女騎士に、自分が襲われそうになったこと、咄嗟にビンタしてしまったことを説明するクロノ。
すると女騎士は「ああ、そういうなのですか……。ご迷惑かけて申し訳ないのですよ。うちの隊長は
(この説明で事が済んでしまうとは……。このスミレなる女騎士、とんでもない人物だな……)
ビンタ一発でアレさせてしまったという説明がまかり通るなど思いも寄らない。
それだけ、この女騎士……スミレは普段からイってしまっていたのであろう。
とりあえず、スミレは他の騎士たちに都市の中へと引きずっていかれた。
後から現れた女騎士――ナタリーというらしい――から、中に入るには二人合わせて銀貨四枚が必要だと言われたので、クロノは皇帝からもらった報酬の中からピッタリ彼女に渡し、ようやく迷宮都市の中に入ることができるのだった。
「クロノ様っ、わたしもビンタでアレしてみたいのですが……♡」
「…………」
スミレのあられもない姿を見て、アリアフィーネは何かに目覚めてしまったようだ。
もうツッコムのも疲れたクロノは、無言でその場を歩き出すのだった……。
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