第23話

「そう言われましてもね……。警察からここに爆破予告があったなんて聞いてませんし、そもそもあなたが卒業生って言っても、今はただの部外者でしょ? 通すわけにはいかないですよ」

 僕と++さんは、☓☓教によって爆破される予定にある中学校に来ていた。警察からは何も連絡等は無かったみたいで、入るのにも苦労している始末だ。以前した僕の通報はいたずらだと処理されたんだろう。爆破の予告場所のヒントはあったらしいけど、正確な場所の公表は無く、警察に睨まれている今、本当に爆破があるのかも怪しまれていると今朝のニュースでやっていた。

「そう言われればそうかもしれませんけど、今はそんな事言ってる場合じゃないんです! なんなら通してくれなくても良いですから、正午までに皆を避難させてくださいよ」

「どうだろうね、それは。予定だとお昼前に終わるみたいですけどね、校長先生も教頭先生も話が長いって皆言ってるから、終わるのは十二時過ぎるんじゃないですかねえ?」

「今日、いつもは見かけない人を見かけませんでしたか?」

 さっきまで黙っていた++さんが口を開いた。十分以上立ち往生してるんだから、痺れも切れたんだろう。

「う〜ん、どうですかね? 終業式だから、先生方以外にもPTAの方や外部の方も何人か来ていたみたいですからね」

「では、その中から大きな荷物を持っている、若しくは沢山の荷物を持っている人はいませんでしたか? 大人数でもいいです。他にも、ちょっとした疑問に思うような事はありませんてしたか?」

「そうですね……。ああ、確か、何かの機械を修理するとかで、業者が入っていきました。五人ほどで、朝早く。……先生方も殆ど来ていない時にですね。ああいうのって、八時か九時にするもんだと思ってましたから、少し驚いたんですが、まあ、学校の都合もありますからね……」

「顔は憶えていますか?」

「質問多いですね……。全員ではないですけど、憶えています。でも、あんまり個人情報は出せないですよ。怒られますからね。大事になっても困りますし」

「では、このファイルに写っている人の中に、その業者はいましたか?」

 ++さんは、☓☓教の悪事やそれを行った者をまとめてあるファイルを開いて、警備員さんに見せた。

「どうだったかなー。と、言うよりこのファイルは何なんですか? …………あ、この人来ましたよ。応対したんですけど、感じが良い人だったんで憶えています。爽やかな笑顔でね、怪しさなんて感じられませんでしたよ」

「このファイルは、先日ニュースにもなった警察署爆破事件を起こした宗教団体の一員です」

 ちなみに、この警備員さんが今回の爆破の工作員ではないか、学校に着いた時にチェックしておいたんだ。この警備員さんは信者でもないみたいだ。入信者の名簿は幹部クラスなら誰でも見る事ができるらしいので、++さんがささっと調べてくれた。

 外部に依頼する可能性を指摘したら、今まで(☓☓教で都合の悪い部分が出てきた場合それを処理する事)をする場合、外部に依頼する事は今まで一度も無かったらしい。情報漏洩するのを防ぐ為に、信頼のおける者にのみ依頼していたとか。そして、++さんもその請負人の一員であったために、他のメンバーと顔合わせした事があると言っていた。

 万が一、請負人にすら知られていない、信者登録もしていない、名前すら隠されている人が今回の工作員ならだけど、そうなったらもう諦めて強行突破しかない。押しのけて救助に向かおう。

「え、そんな……。でも、悪そうに全然見えなかったですよ?」

「いや、悪そうに見えちゃダメでしょ」

 思わず突っ込みを入れてしまう。あからさまに悪そうに見えたり、怪しかったりしたら入れないからね。

「確かに……」

「その人達はまだ校内にいますか?」

「いや、あなた達が来る少し前に出ていきましたね」

 僕は++さんと顔を見合わせる。出ていったなら、あからさまに騒がない限り避難してもバレないだろう。

「本当に入れてもらえませんか?」

「う〜ん……。でもねぇ……」

「どうかされましたか?」

「え?!」

「いえ、お困りの様子でしたので……」

 僕は心臓が飛び出るかと思った。不意に話しかけて来たのは、警察だったからだ。

「ああ、ご苦労さまです。いえね、この人達がね、この学校に爆弾が仕掛けられているかもしれないって言ってるんです。でも、警察の方からそんな事聞いてないですし、それで鵜呑みにして通すわけにもいかないですよ。万が一犯罪者だったら私は職を失いますからね」

「そうでしたか。それで君達は?」

「この方が△△さんで、私は++という者です」

「正直に言って大丈夫なんですか?!」

 ++さんが間髪置かずに、僕達の名前を警察の人に教えてしまった。

「やむを得ません。むしろ、身分を明らかにして協力して頂きましょう。もう十一時半を過ぎていますから、工作員が戻るとは考えにくいですし」

「どういう事ですか? ++……と言うのは知らないですが、△△と言えば今指名手配中の人物の名前です。本当に御本人で間違いないですか?」

「……はい。間違いなく僕は△△です」

「そうですか。では逮捕せねばなりませんが宜しいですか? 一応本人確認を行ってからになりますが」

「あの、逮捕は待って貰っていいですか? 逃げも隠れもしませんから」

「……場合によりますが、理由をお聞かせ願えますか?」

「さっきも言ったんですけど、既に爆弾が仕掛けられている可能性が高いんです。だから、正午までに皆を避難させたいんです。あと、それでもし怪我人が出た場合、助けたいんです」

「しかし、△△さんは首謀者という事になってますからね、鵜呑みにする事はできません。もし別人であった場合は、何故詳しい場所や時間等を知っている理由を訊く必要がありますので、どしらにしてもあなたには自由を与える事はできませんね」

「あの、場所は△△さんにも心当たりがあったようですが、時間等詳しい事は私が教えました」

「先程貴女は++と名乗っていましたね。貴女が何者かを含めて、どういう事か教えていただけますか?」

「私はこの先抜けるつもりですが、現在☓☓教に所属しているんです」

「……それなら、まあ、知っていても不思議ではありませんね」

「え……。二人ともワケありって事ですか?」

 警備員さんが狼狽える。

「そうなりますね……。でも、僕は爆破の命令なんて出してませんし、命令権なんてないですし、そもそも☓☓教に所属すらしていませんけどね」

「では、何故☓☓教の方と一緒にいるんでしょうか?」

「それは、私が△△さんに何か協力できないかとお願いして、勝手について行っているんです」

「そうですか」

「それでおまわりさんは何でここに来たんですか?」

 僕は念の為に訊いた。

「私はね、以前ここに爆弾が仕掛けられるという通報があったから、念の為出動しているんですよ。前回は警察署でしたから、今回も近隣の警察署だろうと大半の人が警戒しているんですけど、通報があって無視するわけにもいかないから、少人数ながらこの学校に来た次第ですよ」

「他にも何人か来ているんですか?」

「勿論。万が一本当に仕掛けられていた場合、一人だと対処できませんからね。それでもどうにもならなければ直ぐに応援要請しますけど」

「そうですか。ありがとうございます」

 そうか、僕が通報したのは無駄じゃなかったのか。良かった。

「△△さん、もう時間がありません」

「え? あ、本当だ。すみません、もう時間ないんで避難させて欲しいんですけど……」

「……そうですね。本当に正午に爆破されるなら、すぐにでも取り掛からないといけませんね。どうしようか……。そうだ、仲間が学校に話をしますので、避難完了まで貴方達は私と一緒に行動してくれますか?」

「わかりました」

 おまわりさんは、仲間の警察官を数人呼んで学校の先生に話を通して、すぐに校内放送で避難誘導に入る事ができた。


「これで避難完了ですかね?」

「今先生方に点呼をとって貰っています」

「あと五分で十二時になります」

「爆破が十二時丁度に開始されるかわかりませんし、やばいですね……」

「はい。……そう言えば、爆弾は見つからなかったんでしょうか?」

「いくつかは見つかったようですが、下手に触れて誤爆しても困りますから移動はさせていません。ですから、今爆発物処理班を呼んでいます」

 その時、警察の無線に一つの連絡が入り、おまわりさんの表情が曇る。

「どうしたんですか?」

「生徒が三人見つからなかったらしいんですが、仲間が探しに戻ると言ったものの、それを聞かずに教師一人が校舎内に探しに行ってしまいました」

「どうするんですか?」

「一人が教師を追いかけて行きましたが、なにせ私達は人数が少ないので、生徒の避難と誘導で捜索にまで手が出せないそうです。ですから、私は今から生徒を探しに行きます。貴方方から目を離すのは不本意ですが仕方ありません」

「僕も探しに行きます」

「いえ、ここにいてください。被害は最小限に抑えなければなりません。それに、貴方は重要参考人なんですから、確実に署に来ていただきたいのです」

「…………分かりました」

「では」

 おまわりさんは僕達をおいて走って行ってしまった。

「……++さん、このファイルと荷物、持って貰えますか?」

「え? 構いませんが……」

「僕は、生徒三人と教師一人でしたね、を探しに行ってきます。誰か怪我をしてしまった場合、治さないといけませんし」

「私も行って宜しいですか?」

「ダメです。++さんは怪我を治せませんし、なにより☓☓教のそのファイルを警察に届けるのが仕事でしょ」

「でも、△△さんを手伝うためにここまで来たんです」

「じゃあ、他の警察の人と合流して避難誘導のお手伝いをして下さい。話は行けば通じるでしょうし。僕の活躍場所はここでしょうけど、貴女の最大の活躍場所はここではないはずです。++さんの力が必要になったら、その時お願いしていいですか?」

「……分かりました。無事に戻って来てください」

「じゃ、行ってきます」

 僕は緊張で暴れる心臓を落ち着けて、校舎に向かった。

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