第18話
僕は家を出て少し歩いた所で、スマートフォンでニュースを確認した。どうやらまだ犯行予告はされていないみたいだ。でも、次回が前回同様に、予告するとも限らないから安心はできない。
寝床の為に遠出してしまったけど、僕が通っていた中学校は山向こうだ。どうにかして山を越えたいけど、道路を警察が見張ってるかもしれない。そうなると、道無き道を歩かざるを得ないんだけど、さすがにそれは無謀すぎる。
「ひとまず、人のいそうな所に行ってみようかな」
期待はできないけど、レンタル自転車とかがあるかもしれない。自転車を確保できれば、来た道を使わなくても遠回りで町に戻れる。
レンタルの車は使えれば便利だけど、もし事故した時に保証できないし、身分証明書を出さないといけないから使えない。
フードの無い上着を着てきてしまった。ちなみに、マスクはどこかになくしてしまって見当たらない。もしかすると家に帰って洗濯物を出した時、一緒に出してしまったのかもしれない。
道を歩きつつ、潰れたおにぎりを頬張る。昆布だ。
民家は多いけどお店は全然見当たらない。田舎って感じで、畑や何も植えられていない田んぼが沢山見受けられた。
「人かな……?」
畑のそばで座っている人を見つけた。
「すみません。この辺で自転車をレンタルしてる所ってありますか?」
僕は近づいて聞いてみた。
「自転車のレンタル? 儂は使わんから分からんなあ。ショッピングモールっちゅうんか? 近くにあるから行ってみるとええ。いろんなもんが売っちょるからな」
「ありがとうございます。行ってみます」
ショッピングモールは歩きだと少し遠いけど、比較的近場にあった。
でも、自転車のレンタルはやってなかった。そもそも需要が無かったからやらなかったみたいだ。
しょうがないから僕は自転車を買うことにした。
「あー、下ろさないとな」
財布の中身は、自転車一台買うには心許ない金額だ。なので僕はATMに向かった。
「なんだ?」
お店に入ってから、四十代くらいの男の人がよく目についた。何かを買うでもなく、僕の周りでずっと商品を見ている。商品の種類に一貫性がないし、あえてエレベーターじゃなく階段で移動してもついてきた。
尾行としては下手くそだとしか言いようがない。商品棚をぐるぐる回って一旦撒いても、走って探してすぐに見つけて来る。警察には頼れない現状、自分で何とかするしかない。
今現金を下ろしたり自転車を買えば盗られたり無駄になるかもしれない。自転車だと道路以外だと動き辛い。
なので僕はそのままお店を出ることにした。
「……やっぱりついてきたか」
駐車場は広くて見通しが良いから動き易いけど隠れるのは難しいし、裏手に回れば人目が無いから、隠れられても動き辛い。もし追ってきているのが複数人なら、裏に回れば挟み撃ち。駐車場だと車で追いかけられる。どっちにしてもキツいな。
僕は駐車場に出た瞬間走り出した。すると男は電話で誰かに指示を出したあと走って追いかけてきた。
「……速い」
男がどんどん距離を詰めてくる。このままだと捕まってしまう。予想以上に足が速い。まずフォームが違う。隠れるところはないし、近くに川でもないかな? 飛び込もう。
「……え?」
気付けば宙を浮いていた。空が回転して、時間がゆっくり進む。
「ぐっふぉ!?」
地面に叩きつけられて、転がっていく。何があったんだ?
「先輩、全然捕まえられてねーじゃん」
「いや、こいつ意外と速くてさ、助かったわ。つか久々に本気出したしよ」
「一攫千金ってやつっすね。ははっ」
痛みが引いてきたから顔を上げて見てみると、一部が凹んでいる車が前にあった。轢かれたのか……。このまま逃げても同じ事の繰り返しだし、何やら
「手間かけさせんな、ボケ」
そう言うと先輩とやらは僕を担いで車に放り込んだ。
「先輩、この車買ったばかりなんすから、大切にしてくださいよ〜」
「あ゛ん゛? もう凹んでんだろうが」
先輩は凄みながら後輩? を睨んだ。
「ははは、冗談っすよ。もう〜、すぐに怒るんすから……」
「さっさと車だせ。交番には行くなよ、警察署にしねえと手間がかかる」
「オレ達まで捕まりませんかね?」
「はっ。たまたまぶつかって来たから運んだんだろうが」
「それもそうっすけど、パクったりシメたりしたやつっす。この車だって……」
「そりゃあ、たまたま道端に落ちてたもんを拾ってやっただけ。それと、あいつが勝手に暴れて怪我しただけ。オレらは何も悪かねえ」
なかなか危ない考えの人達だ。抵抗すれば痛い目を見るのは目に見えてるけど、このままでも逮捕される。先に捕まって事情説明しても、証拠がなければ動けないだろうし、今はまだお世話になるわけにはいかない。
後輩の方は前で運転をして、先輩の方は後ろで僕を見張っている。先輩とやらをどうにかできたら逃げ出せるか? いや、下手に手を出して縛り上げられたら、逃げるチャンスも無くなるな。
この手を使うか……。
「ちょっ?! 前が見えな、やめ!」
「ごら! 離さんかい!」
僕は後輩の方の目を手で覆った。勿論先輩の方は僕を殴ってきたけど、ナイフとか川原の岩とかに比べればなんて事はない。狭いからバットを使っても威力も出ない。
次の瞬間、激しい音と共に横からの衝撃が車と僕達を襲った。
横転した車が畑に突っ込んだんだ。車の中はめちゃくちゃになって、男二人も僕も体を強く打ちつけた。
他の人や車なんかは巻き込まずにすんだけど、畑の持ち主には悪い事をした。車の持ち主にはこの人達が弁償する事になるだろうけど、ちゃんと払ってくれるだろうか? その辺は僕の仕事じゃないけど。
幸い僕は光で治す程の怪我はしなかった。そこまで大きな事故でもなかったのもあるけど、運が良かったのもあるだろう。
二人は気絶している。事故が起きた時に首がグイっとなっていたから、むち打ちにはなってそうだな。それにシートベルトをつけていなかったから、思い切り体もぶつけていた。
僕は体を起こし、二人に光を当てて怪我を治した。悪い人ではあるけど、僕が起こした事故で怪我をしたんだからね。責任はとらないと。
起きてこない事を確認して、僕は先輩の方のポケットからスマートフォンを出して、匿名で警察に通報した。十分で到着するらしい。
その間に車から脱出して、車からオイルとかが漏れていないか確認をした。漏れていたら炎上するかもしれないからね。
衝撃は凄かったけど、実際本当に大した事故では無かった。下になった方のガラスが割れているのとサイドミラーが壊れているくらいかな。まあ、車体に傷はついているけど。
放置しても問題は無さそうだったから、僕は早々にその場を離れた。
僕は気を取り直して、徒歩で山に向かった。
見つかりそうになったら、隠れればいいだろう。今日中に中学校のある町に戻りたい。と言うのも、ついさっきスマートフォンを見た時に、☓☓教が爆破予告をしたとニュースで知ったから。
予定は明日で、場所も時間も発表されていないみたいだ。いつでも行けるようにしておきたい。
山道の入り口に警察がいた。なかなか仕事が早い。どうしようか? 殆ど直角な山登りをするしかないのか? まあ、比喩表現だけど、登るのが難しそうなのは変わりない。悩んでいると、
「すみません。△△さんですよね?」
背後から静かに声をかけられた。
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