第56話 ミィスへの罰
僕がミィスの元に駆け付けた時、彼はナッシュのデュラハンを倒し、力尽きたところだった。
その光景を見た時、致命傷を負ったのではないかと心配し、矢も楯もたまらず彼のもとに駆け付けた。
「ミィスッ!?」
うつ伏せに倒れたままピクリともしない光景を見て、最悪の事態が頭をよぎる。
しかし彼は傷らしい傷は打撲しかなく、他の冒険者たちに比べても軽傷と言っていいくらいだった。
「よかった、指輪の効果が出たんだ」
彼の指輪は、精神耐性効果を少し弱めていた。その分の空いた容量に物理防御を付与しておいたのだ。
それに呪詛耐性もあるため、呪詛の塊のようなデュラハンの攻撃をさらに防げるようになっていたと思われる。
冒険者の方も数名の死者が出ているようだが、襲撃の脅威度に比べれば、まだ少ない方と言えるだろう。
僕は持ってきたギルドで作ったポーション類を、その場の冒険者に預け、ミィスをギルドへと連れ帰った。
「ど、どうでしょう?」
「打撲だけじゃな」
ギルドの医務室にミィスを運び込み、ギルド所属の回復術師に容態を見てもらった。
初老の老人の回復術師は容赦なくミィスの服を剥ぎ取ると、各所を触診してそう断言する。
「骨にも異常は無いし、外傷も無い。頭の方は目を覚ましてからしか判断できんが、まぁ問題はないじゃろう」
専門家のお墨付きに、僕はホッと安堵の息を漏らす。
彼の頭部に傷痕が無かったことから、そちらもきっと大丈夫のはずだ。
それはそれとして、こんな危険な真似をしたミィスには、しっかりと説教と罰を与えねばなるまい。
「ミィスに罰……ぐへへ」
「一応うちの患者にいかがわしい真似をするんじゃないぞ?」
「わかってますとも。負担になるような真似はしません」
「そうか? ならいいが」
言いつつも疑わしい視線を向けてくる。
僕だって大事なミィスに無理を強いるつもりはない。
僕が満足し、ミィスにも負担がかからない。そんな罰を考えておくとしよう。
「言っておくが嬢ちゃん。この坊主も考えがあって無理をしたんじゃ。そこのところを配慮してやってくれんか?」
「え? ええ」
ミィスがこんな無茶をしたのは、僕の負担を減らすためだというのは理解はできる。
なので、これを強く非難しようとは思っていない。
ただちょっと、あまり無茶はしないでほしいという、警告を与えるだけである。
「ん、うぅ……」
そのタイミングで、ミィスがうめき声をあげ、目を覚ました。
僕はその頭を軽く撫でて彼を安心させ、優しく声をかける。
「ミィス、大丈夫? 痛いところとか、無い?」
「シキメさん? うん、大丈夫。あちこち痛いところはあるけど」
半身を起こし、ずるりとかけていた毛布がずり落ちる。
その下には、下着すら履いていない彼の姿があった。
「ななな、なんで! なんで裸!?」
「そりゃあ、診察するためにくまなく調べたから。服は邪魔になるでしょ」
「坊主というわりにゃ、立派なモンを持っとったな」
「みみみ見られた!? もうお婿に行けない!」
「じゃあ僕が貰ってあげるね。そして肉欲と背徳に満ちた退廃的な生活を送ろう」
「ボクはもっと健全なのがいい!」
そう言いながら毛布を胸元まで引き上げる姿は、もはや美少女の恥じらいの姿にしか見えない。
僕と出会ってから頻繁にお風呂に入り、石鹸なども使って肌のケアもしているので、その美少女っぷりに、さらに磨きがかかっている。
僕が今男だったら、容赦なく押し倒していたことだろう。
「なんにせよ、怪我が無くて良かった」
「う、ごめんなさい」
「もう黙って無茶なことをしないでね?」
「うん。でも……」
「僕のことを考えてくれたのは分かるけど、黙っていなくなるのは絶対に無し!」
「は、はい」
僕の剣幕に、真剣に怒っているのを理解したのか、ミィスは素直に頷いてくれた。
「ならば良し。じゃあ、今日の罰として、ミィスには一週間の……」
「い、一週間の?」
「僕のお布団になる刑を処します」
「お布団ってなに!?」
僕がこの世界に来てもう一か月以上になる。
この世界に四季があるのかどうかはよく知らないが、それでも夜は少し冷え込んできていた。
いつもは二人一緒に毛布にくるまって寝ているのだが、それでも少しばかり肌寒くなっている。
暖かい毛布を作ってもいいんだけど、ここは更なるスキンシップを求めてミィスに覆いかぶさってもらおうと思う。
「じゃあさっそく」
「ちょっと、シキメさん! 毛布を取らないで!」
「うふふ、よいではないか、よいではないか」
「うきゃー!?」
悲鳴を上げるミィスに覆いかぶさったところで、僕の襟首が何者かに掴まれた。
いや、何者かなんて聞くまでもない。ここにいるのは僕たち以外では、回復術師の爺さんだけだ。
「ワシの職場でいかがわしいことをするなというに。そういうのは宿に戻ってからにせい」
年齢にそぐわぬ怪力を発揮し、僕とミィスを猫の子のように掴み上げ、そのまま医務室の外に放り出された。
僕はともかく、ミィスは服を着ていないので首根っこを鷲掴みにされていた。
「ちょっと! ミィスは怪我人なんだからもっと優しく!」
「目を覚まして早々にイチャつくような患者に、配慮はいらんじゃろ」
「ヒドイ! 訴えてやるぅ!?」
「どこへじゃ?」
そう言い捨てると、僕たちの目の前でバタンと扉が締められた。
医務室の外はギルドのホールに繋がっており、僕たちのやり取りはその場にいた職員や冒険者に、丸聞こえになっていた。
「ん? お? おぉ!?」
「こ、これは――」
「いけませんわ、新たな扉が開かれる音が……」
そしてミィスは美少女のような容姿に素っ裸のままだった。
しかも下の方まで丸出しである。
「あ、ああ!?」
その状況に気付いて、ミィスは慌てて下を隠そうとした。
とはいえ、彼が羽織っていた毛布はすでに回復術士によって没収されており、隠すものなど自分の手しかない。
しかしミィスのご立派さんは手で隠しきれるものではなかった。
バッチリとその場にいた人たちに目撃され、男の冒険者や女性の職員さんに新たな嗜好を目覚めさせている。
「さすが僕のミィス。一撃でこれだけの影響力を……」
「シキメさんのバカァ!?」
そう叫ぶミィスの頭に、再びドアを開けて顔をのぞかせた回復術師の爺さんが、服を投げつけてよこした。
「忘れモンじゃ」
「そういうのは最初っから持たせてあげてくださいよ。ライバルが増えちゃったじゃないですか」
「知らんわぃ」
言うが早いか、再び扉はぴしゃりと閉じられる。
まったく、何を考えているのか分からない爺さんである。
僕たちはその後、食堂で食事を済ませてから、ギルドの指定する宿屋に移動していた。
ナッシュがデュラハン化したことで事態が混迷し、事情を改めて聞くために待機という状況になっていたからだ。
元々滞在する予定だったので、これは問題はない。
この日は一日、厄介ごとがあまりにも多過ぎた。
僕は疲れ果てていたので早々に入浴を済ませてベッドに潜り込み、ミィスを上に乗せてから毛布をかぶった。
「うぅ、恥ずかしい」
「罰だからね? ほら、もっと力を抜いていいから」
「でも」
「一晩中、腕を突っ張って寝るつもり?」
「ちょっと無理かも」
僕との接触を避けるために前支えの状態で腕をプルプルさせていたミィスだが、力尽きて僕の胸に顔を埋める結果となってしまった。
「ま、僕の胸じゃちょっと硬いかもしれないけどね」
「そんなことないよ! すごく柔らか――いえ、なんでもないです」
「ん~? もう一回言ってもいいのよ?」
「言いませんから!」
とはいえ、これは罰であると同時にご褒美でもある。
今日はミィスは凄く頑張ってくれたので、これくらいはしてもいいだろう。
むしろミィスは自分に厳し過ぎるので、こうでもしないと触れてすらもらえない。
それに正直なところ、僕のために頑張ってくれたミィスに、少しばかりときめいてしまっていたのだった。
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