第15話 森での遭遇
村を出た僕たちは、そのまま迷宮近くの森へと向かった。
迷宮にはこの村の他に、もう一つ付近の村がある。
それは僕たちの住む村とは迷宮を挟んで反対側に位置し、この村よりもやや迷宮に近く、森の外にあった。
街道は迷宮を迂回するようにその村とも繋がっているため、僕たちの住む開拓村はその不便さゆえに人があまり訪れない村となっていた。
だいたいY字に街道があり、左上に僕たちの村、右上にその村、下に街が繋がっており、左の線が森の中に突っ込んでいる形を想像してくれればいいだろう。
「なんでこんな場所に、村を開拓しようと考えたんだか」
「それは、この村の周辺にすごく質のいい薬草が繁殖しているからなんだ」
「へぇ?」
「で、その薬草を簡単に採取できるように、その薬草を荒らす害獣を狩るために、ボクたちの村ができたの」
「そうなんだ」
これまで僕は、インベントリー内にあったポーションのストックと素材を利用して、ギルドに納品していた。
この世界の素材を使って、錬金術を行った経験は、まだない。
ゲーム内の素材はひょっとすると、非常に純度の高い物が収納されているとか?
効果が高かったのはレベル補正だけでなく、その影響もあったかもしれない。
それもこれも、実際に作ってみないことには判断ができない。
ミィスとそんな会話をしながら、迷宮のそばまでやってきた。
周辺に生える様々な木々。その根元の北側に、僕の目当ての雑草は生えている。
まるでキノコのような植生を持つそれは、確かにそこに存在していた。
「おー、あるある。これがニール草だよ、ミィス」
「この尖った、ぎざぎざの草?」
「そう。お金ない時はこれを集めてギルドに売れば、少しは小銭になるよ」
「ずっと見逃してたよ。ボク、ひょっとしてすごく損をしてた?」
「まぁ、あまり高くは買ってくれないみたいだけど」
僕はギルドに納品している関係で、薬草の買い取り価格については詳しくなっていた。
「それと回収する時は根っこから採るんだよ? 葉は薬草にできるし、根っこは毒になるんだ」
「ど、毒!?」
「薬も過ぎれば毒になるって感じなのかな? ミィスは狩人だから覚えておくといいかも。毒矢とか作れるし」
「毒矢かぁ。肉が取れなくなっちゃうから、使ったことなかった」
「ミィスの場合、矢を引く力が弱いから、肉を取らない魔獣とかなら使ってもいいかもね」
「とっさに使い分けるのが難しいかも」
「矢筒を二つ、用意するとか。普通の矢と毒矢の矢筒」
矢筒なら重さも大したことないので、ミィスの負担も少ないはず。
もっとも今は、僕の貸し与えたロバーズボウという盗賊用の弓のおかげで、かなりの威力を出せるようになっている。
迷宮の表層付近やこの近くなら、その弓で充分に通用するはずだ。
「それともう一つ。今日は攻撃魔法の威力をちょっと試したくって」
「またクレーター作るつもり?」
「違うって。あれは中級魔法の【火球】の魔法だったから、あそこまで威力が出たんだ。今回使ってみるのは最も初級の【火弾】の魔法」
「【火弾】?」
「火の玉をぶつける魔法なんだ。ほら、こんなの」
そう言うと僕は火弾の魔法を起動し、発射した。
しかしそれは、僕の想像した火弾の魔法とは、似ても似つかぬものだった。
突き出した手のひらからは二メートル近い火の玉が飛び出し、それは三十メートルほど突き進んで消えていった。
もちろん、途中にあった木立も円形に切り抜いたように焼失している。
「ええ……」
「うわぁ」
この威力は僕も予想外だった。威力は元より、射程も三倍近く伸びている。
これはもう弾丸って言うレベルではない。大砲だ。
「シキメさん、レベル3だったよね?」
「ギルドの測定では、そうだったね」
「ぜったい違うよ、これ」
「で、でも三桁の測定もしてもらったし」
「1003レベルとか言うオチじゃないよね?」
「うーん……」
ゲームのキャラクターは二十キャラ作ることができた。
そしてほぼ全てのキャラが四桁になるまで育てている。
それらが統合されてこの身体が作られたとすれば、1000レベルでは済まないところまで行ってる可能性がある。
まぁ、それを素直に教える必要も無いだろう。無駄に危険な情報を、子供に知らせるのは酷だ。
「なんにせよこの調子だと、攻撃魔法を戦闘中に使用するのはやめておいた方がよさそうだね」
「うん、ところでシキメさん」
「なぁに?」
少し震えながら、ミィスは僕に確認してくる。
「【火球】の魔法で中級ってことは、上級とかの魔法もあるの?」
「……最上級の魔法も使えるよ」
「使わないで」
「分かってる」
最上級の魔法で、核爆発のエネルギーを世界に現出させる魔法がある。
ただの【火球】の爆発でクレーターができ、初級の【火弾】で三十メートルの範囲を焼き払ってしまうのだから、そんな魔法を使ったらどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。
「まぁ、補助の魔法もあるから、そっちを主体で使うことにするよ。それに錬金術系の魔法とか、僧侶系の魔法もあるから」
「そうしてね。ボク、巻き込まれて焼かれるとかイヤだし」
「ミィスをそんな危険な目に合わせるわけないじゃない」
男に興味が無い僕にとって、ミィスだけが『抱かれてもいい』男である。
そんな貴重な人材を、危険に晒すはずがない。
雑談をしながらも、僕たちは薬草の採取を続けていた。
スコップに似た道具を使って土を掘り、根っこから採取していく。
進化のしかたが違うのか、スコップも日本の物とは少し形状が違う。
どちらかというと小型の鍬の刃のような形状をしていた。平たい刃先が土に食い込みにくく、作業はあまり進展しない。
「先が尖ってたら、もっと掘りやすいんだけどね」
「でもそれだと、土を掘れる面積が減っちゃいますよ?」
「そういうものかなぁ?」
この世界ではレベルが存在する。レベルが上がれば、身体能力も上がっていく。
だから掘りやすいスコップの形状よりも、面積を重視した鍬の刃のヘラみたいなものが広まったのだろう。
僕も掘りにくさは感じていたが、力押しで掘り進められるのだから、あまり問題には思わなかった。
その時、迷宮の方から人の叫ぶ声が聞こえてきた。
「頑張れ、すぐに町に連れてってやるからな!」
「傷は浅い、助かるから気をしっかり持つんだ!」
「……え?」
どこかで聞いた覚えのあるシチュエーション。
先日アンソンを助けた時も、こんな声を聞いた気がする。
厄介ごとに関わりたくはないのだが、会話の内容が問題だ。
こんな会話をしてて、助かるパターンって、あまり聞いたことが無い。
いやな予感に苛まれながら、僕たちは迷宮の方に駆け出したのだった。
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