TS少女は堕としたい
鏑木ハルカ
第1話 ホットスタート
なぜかやめられない、そんなモノに心当たりはあるだろうか?
例えばたばこ、例えば酒、例えば 賭博……様々なモノを思い浮かべた人がいるだろう。
僕、式目風弥の場合、それは古い携帯ゲーム機のソフトだった。
それはサクッとクリアすることもできるゲームだったが、同時にやり込み要素もあるゲームだった。
通常50レベルもあればクリアできるゲームだが、アイテムを集めきったり、キャラを育てたりしていると際限なく遊び続けることができてしまう。
そんな古いゲームを父の遺品から見つけ、幼い頃からずっと、十年近くやり続けてきた。
その日も僕は、そのゲームをまるで作業のようにやっていた。
もはや敵の幹部も、ラスボスも、一瞬で蒸発できるレベル。そんなキャラが登録最大数の二十も存在する。
だというのに、プレイをやめることができない。これはまさに中毒と言えるだろう。
「ふあぁぁぁ……」
日課のようにラストダンジョンを三周し、一息つくべく大きく伸びをして背筋を伸ばす。
肩や背中がポキポキと鳴る感触が心地いい。
そして天井を見上げた瞬間……その天井が落ちてきた。
「はぇっ!?」
反射的に頭をかばい、落ちてくる天井を支えようと右腕を突き出す。
しかしそんなモノ、落下してくる質量と言う暴威の前には、まるで役に立たなかった。
雪崩を打って落ちてくる瓦礫の山に、僕は瞬く間に意識を失い、闇に閉ざされていったのだった。
◇◆◇◆◇
『個体名:式目風弥の生命活動の停止を確認。生体情報の複製を開始します』
「……なんだ?」
朦朧とした意識の中、僅かにそんな声を聞いた気がした。
しかし意識を覚醒させようとしても、それは叶わず、目を開くことすらできなかった。
『該当情報に適性不備。補助情報として携帯機より補完します』
『複数の補完情報を確認。情報の統一を開始します。成功しました』
『各種職業の統一を実行。成功しました』
『複数の性別登録を確認。最多数の性別へ統一します』
『各種技能を新情報へ移行します』
『職業:忍者による無装備特典を付与しました。急所攻撃を付与しました。罠解除スキルを付与しました。職業:大司祭による魔術師系魔法をインストールしました。僧侶系魔法をインストールしました。職業:錬金術師による錬金術系魔法をインストールしました。錬成スキルをインストールしました。レベルを統合しました。アイテム情報を統合しました。ステータスを統合しました。所持容量を超過しました。インベントリー機能を付与しました。アイテム情報をインベントリー内に複製します。オートルート機能を追加しました。貨幣情報を現地貨幣に変換します……』
何を言っているのか分からない。目を開けることもできない。
ただひたすら、訳の分からないまま浮遊感に身を任せるしかなかった。
そうしてどれくらいの時間が経過しただろう? 不意に僕は、背中に硬い感触を覚えたのだった。
◇◆◇◆◇
ギャーギャーと騒々しい喚き声で、俺は目を覚ました。
何やら身体をまさぐられる感触もあり、寝ていられなかったというのもある。
そして目を覚ました僕が最初に目にしたのは、醜悪極まりない虹色の角の生えた小人の姿。
そいつらが俺の服を剥ぎ取り、下半身に群がっている光景だった。
「な、なんだ!? お前ら一体――」
何をしている、そう聞こうとして、僕は違和感に気が付いた。
自分の手足が抑え込まれているのは、まぁ分かる。この小人たちが抵抗を防ぐために、そうしているからだ。
問題は、下半身に群がって何をしているのかと確認しようとしたが、そこへの視線が丸い肉の塊によって妨害されていることである。
「胸? おっぱい! ほわい!?」
そう、僕の胸には、結構大きなおっぱいが存在していた。そしてそれが、僕の視線を大きく妨げていたのだ。
状況を全く理解できていないが、足の間に潜り込んだ小人が腰に巻いた布を取り去り、見慣れた肉の棒を取り出したことで、僕は危機感を抱いた。
見える肉球は明らかに女性の物だが、それ以上に男であろうが、この状況になれば危機感を抱くだろう。
「バカ、やめろ! 放せ!」
暴れようとするが、細くなった僕の手足はびくともしない。
そして僕の腰元を覆う小さな布切れが剥ぎ取られた時、それは起こった。
突然力が沸きだし、腕を押さえていた小人を跳ねのけた。
足も簡単に振りほどけてしまい、自由になった足で、伸し掛かろうとしていた小人を蹴り跳ばす。
更に視界も変化して、小人の身体の各所に白く光る個所が浮かび上がっていた。
「一体、何が……」
今まで手も足も出なかった小人をあっさりと跳ね退けた怪力に、疑問符を浮かべる。
しかし小人からすれば、それはどうでもいい出来ごとだったらしい。
むしろ反抗されて怒りを燃やし、こちらに向けて一斉に飛び掛かってきた。
四つ足からの跳躍。手慣れた襲撃。
いつもの僕だったら、抵抗もできずに押し倒されていただろう。
しかしその跳躍は、まるでスローモーションのようにゆっくりとしたものだった。
「うわぁっ!」
だが襲い掛かられた僕にとっては、ありがたい状況だった。
飛び掛かってきた小人に向けて拳を突き出し、光る個所を殴りつける。
首元に光る個所を手刀で抉り、なぜかそうすればいいと感じたとおりに動かすと、ボキリという骨を砕く感触が伝わってきた。
そして同時に小人の首が千切れ飛び、宙を舞った。
小人は力無くその場に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなる。
「え……え……?」
自分が生物を殺した。素手で首を刎ね飛ばした。殺すという意志は明確には無かったが、その結果に呆然とする。
だがその隙を突くべく、他の小人たちも襲い掛かってきた。
仲間が倒されたというのに、怯みすらしない。
「く、来るなぁっ!」
何がどうなったのかは全く分からない。
しかし自分が女の身体になったことと、無抵抗だととんでもないことになるという事実だけは理解できた。
そして小人も、死ぬまで襲撃をやめないことも。
だから僕は、全力で抵抗した。
両腕を押さえていた二匹。両足を押さえていた二匹。残っていたのは四匹だけ。
それを手足を振り回して一瞬で倒しきる。
拳の一撃で、蹴りの一発で、あっさりと命を落とす小人たち。その感触に吐き気を催すようなおぞましさを感じる。
しかしそれをやらねば、僕の末路は悲惨なものになったはずだ。
死亡した小人たちを見下ろし、立ち尽くす僕の元に、がさがさと言う草を掻き分ける音が届く。
いや、それだけではない。
しんだ小人たちと同じような、ギャーギャーと言う耳障りな叫び声も。
この場にいるのは危ない、そう思って振り返った先に、新たな小人たちが現れていた。
その数、十以上。そしてさらに増えつつある。
「マジかよ……」
増援だけではない。さらに巨大な、小人と呼ぶには問題のあるレベルの相手も姿を現す。
気が付けば、僕は逃げ場も無いほどに包囲されていた。
これを切り抜けねば、絶望の未来が待っているはずだった。
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